第7話 鉱山都市を襲う悲劇!②
「ちょ、ちょっと!? ライラ! わたちはおもちゃじゃないんのよ!」
「そんな、エリサ様! 私はエリサ様を玩具だなんて微塵も思ったことはございません! 我が主として、尊敬の念を持っております!」
「それにちては、だきちめすぎ!」
「だ、だって……仕方ないではありませんか! 可愛いんだも~~~~~~~~~~~~ん!!!」
ライラはさらに私を抱きしめてきたのである。
あ~~~、もう! 苦しいってば!
私とライラは、7人からなる全身黒尽くめの怪しい集団からの襲撃を受けた。
何とか6名は倒せたのだが、最後に出てきたのが土の精霊・ノームだった。
そのノームから受けた煙の攻撃によって、私は体型が幼児化したのであった。
ライラは私を抱きしめて、一気にリヤドの村に飛び込んだ。
冒険者ギルドの簡易的な支所で手続きを行い、きちんと入村が認められた。
やはり鉱山絡みなのだろうか。違法採掘や盗賊対策がなされている証拠だろう。
手続きのあと、その足で宿屋に入ることになり、そのまま一夜を明かした。
が、やはり朝を迎えても体のサイズが変わることはなかった。
それどころではない。見ての通り、言葉すらきちんと発音もままならない状態である。有難いことに、私の魔法は「万物の聖典」によって発動するものなので、詠唱を必要としない。とはいえ、別の問題が発生した。体が小さすぎて、「万物の聖典」を広げるどころか、持ち上げることすら難しくなったのである。
「ライラ! あたちをだきちめるのは、そろそろやめて!」
「でも、今のエリサ様ってかなり弱体化してますよ? 私のような護衛がいなければ、盗賊にでもやられちゃうくらいですけど……」
「……うう……それはひていできないの……。きっとこれはのろいよ!」
「ええ、そうですね。でも、どうやって解けるのかわかりません。昨日もエリサ様が寝られている間に、身体を色々と調べたのですが、呪いの術式が土の精霊独特なものでしたので……」
「……え……。ねているあいだに、なにをちたの?」
「術式を解読するために、エリサ様の服を脱がせて、全身くまなく触ったり、ペロペロしたり―――」
「ライラ……?」
私は怒りで魔力量を増幅させる。
どうやら、身体は小さくなっても、魔力量や知識に関しては変わりはないようである。
ライラは私の怒気に気づいたようで、ベッドから飛び降りて土下座をしている。
「ご、ごめんなさい! 確かに可愛さのあまり、ちょ~~~~~とやりすぎたのは認めますが、術式を確認する方法は私たちサキュバスには、これしかないんですよ!」
いやぁ、初めて知ったわ……。サキュバスって全身ペロペロして呪いの術式を調べるんだ……。二度と呪いにはかかりたくないものね……。
でも、厄介なことになったわね……。この呪いを解かないことには、今、この村で起こっている事件を解決することすら難しい。
何てことを考えていると、空腹を知らせるおなかの虫の声が聞こえてくる。
「ま、このすがたのままでもいいから、むらをちらべまちょう! まずはあちゃごはんにちまちょ!」
私は普通に言ったつもりだが、やはり上手く喋れていない。
キッとライラに視線を向けるが、ライラは何やら顔を朱色に染めて、「はぁはぁ♡」と怪しい吐息をしている。
今すぐにでも離れたい……。が、そうもいかなかった。
私たちの部屋は2階らしく、1階の食堂に向かうためには階段を降りなくてはならない。
普段の私であれば、難なく行けるのだが、今の私にはこれすら障害に感じる。
「よいちょっ! よいちょっ!」
「え、エリサ様!? 私は抱っこしてあげましょうか?」
「べちゅにいいの! わたちはじぶんでできることは、じぶんでちゅるの!」
「で、でも、その何事にも頑張ろうとするお姿は……その、周囲からも視線を集めてますよ」
「…………え?」
私は階下に視線を送ると、モーニングを食べている冒険者や村人たちが、こちらに親が子を見守るような温かい視線で見守っているような……。て、これ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?
「ライラ……。早く朝食を済ませましょう……」
私はライラに抱きしめられて、階段を降りることを決意するに至った。
朝食を終え、部屋に戻ると装備を改める。これまでの大人のような装備では動きにくいからだ。
「万物の聖典」を床に置き、表紙のクリスタルに触れる。クリスタルが反応していることから、このような呪いにかかっても主人である私のことは認識されているようだ。
私は動きやすい魔導士風のローブを身にまとい、右手人差し指に指輪をつける。
「何ですか? その指輪」
「これは『ばんぶちゅのせいてん』のかんいばんのようなものね。いまのわたちじゃ、ほんをひろげるのも、ひとくろうだから、きのうはせいげんされちゃうけど、これでまほうはつかえるから」
「そんな便利なものが……。では、これで準備は大丈夫ですね。では……」
と、ライラは私を抱き上げて、肩車をしてくる。
「ちょ、ちょっと!? ライラ! なにをちてるの?」
「何って……、肩車ですよ。まさか、そのお姿で歩いて村長の家まで向かうんですか? 日が暮れますよ?」
「そこまでおそくない! で、でも、だっこはいやだから、これでいい」
でも、恥ずかしいんだからね!
私はライラに「素直が一番ですね」なんて言われつつ、肩車されたまま村長の家に向かった。
ああ、周囲の人たちの視線が微妙に生暖かいのがつらい……。
村長は白髪交じりの小さなおじいさんであった。
どうやら、ノームの血をひく家系らしく、ひどく私たちを警戒しているようであった。
私たちは冒険者ギルドの登録カードを提示すると、理解をしてくれたようで、話を伺うこととなった。
「あのエリサ様は土の精霊であるノームに呪いをかけられてしまいまして、このようなお姿になっておられます」
「も、申し訳ない。最近は帝国の連中や盗賊団が金鉱山を狙ってきていて、精霊様に金鉱山と村を守っていただいておったのだ」
「では、冒険者の失踪事件というのは」
「おそらくは、精霊様とその一味によるものかと……」
「わたち、あのおそってきたひと、ちってる! ゆくえふめいのひとといっちょ!」
私が机をバンとたたきながら、訴えかけると、なぜかライラは私の頭をなでてくる。
何で子ども扱いするのよ!?
「ええ、エリサ様のおっしゃる通りです。私も手合わせをした際に少し顔が見れましたが、行方不明になっていた人たちと一緒でした……。ただ、彼らからは生体反応はありませんでしたので、アンデッドとなっているように思えましたので、情け無用と判断して倒しましたが……」
「………そうですか」
「ちょっとやりすぎなのではありません? 金鉱山を守るにしても……」
ライラがそういうと、村長は立ち上がり、窓から金鉱山への鉱山道に視線をやる。
「金鉱山の開発は私たち精霊様の血をひく者たちにとって、重要な契約を意味していたのです。ご存じでいらっしゃいますか? 私たちはこの村で100年以上にわたり、金の採掘を行ってきたことを」
「ええ、ほんでよんだことがあるから、わかるわ」
私は腕組みをして、「うむ」とうなずく。
村長は振り返ると、険しい顔で、
「その間、どれだけの欲深い人間たちによって、この村が襲撃されたか……。私たちは精霊様の血をひく亜人族として、ただ、人々と対等な取引を行いたいだけだったのです。しかし、そうはいかなかった。権力のある者は、金鉱山を目の前にして必ず欲深くなるものです。それを精霊様も私たちも許せなかった」
「事情は理解できます。だからこそ、上手く人間とやり取りができればいいのですが……」
「そうはおっしゃっても、もう精霊様の御心のままに私たちは任せております。説得できるかどうは分かりませんが……。何でしたら、精霊様とお会いになられてはいかがでしょうか……」
「そうね! わたちもそのほうほうが、いいかとおもっていたの!」
初対面は襲撃から始まったけれども、この人たちの仲介で話が出来るのであれば問題ない。私にとっては、それに策がないわけではない。
かくして、私とライラは土の精霊・ノームとの平和的な解決を求めて、金鉱山に赴くこととなった。
とはいえ、出合頭でいきなり襲ってくるような精霊と平和的に解決なんて可能なんだろうか……。
私は心配しつつ、準備のために宿に再び戻るのであった。
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