第7話 鉱山都市を襲う悲劇!③
「それにしても本気で精霊様に交渉を挑もうとお考えなのですか?」
鉱山道を歩き続けて、沈黙に耐えかねたのだろうか。案内役のノームと人間のハイブリッドである亜人族の男・ミドルさんが私たちに話しかけてくる。
私は相変わらず自分で歩くと言っても、ライラが「絶対にダメです」と言い張るので、今も肩車状態だ。もちろん、申し訳ないので、体重を軽くする魔法をかけて、重さは10分の1にしてある。
「ええ、ほんとうよ! わたちのはなちを、きいてもらうんだから!」
「エリサ様の話を聞くのは、絶対に忍耐が必要ですね……」
「どういういみよ! ライラ!」
「もう、そのままの意味です。早く元のお姿に戻られないと、赤ちゃん言葉のエリサ様が当たり前になってしまいそうで……むふふ」
「どうちて、そこでわらうのかちら……」
「……いえ、何でもないですよ……。とにかく、私たちはノーム様に話をいたしますので、まずはご案内をお願いします」
「そうよ! きのうみたいな、こうげきはなちなんだから!」
「……なち?」
「ああ、『なし』と言っておられるのです」
もう嫌! 赤ちゃん言葉って本当に通じにくいんだから!
私はどうしようもないこの残念な状況を嘆くほかなかった……。
ミドルさんは立ち止まり、坑道の壁の一部を何かを探すように撫でた。
そして、位置を定めて、手の平をかざし、
「『解除』」
と、唱える。刹那、スッと土壁が透明になり、先に道ができる。
え!? 何なに!? これって何かの魔法? それともスキル?
「こちらが精霊様のお部屋になります」
「ここが……ですか?」
ライラが不振がりながら、部屋の天井や壁をジロジロと観察する。
私もそう簡単に信用できる感じでもなく、周囲に気を配る。
「そんなに不安になられなくても大丈夫ですよ」
「まあ、一応、私たちは襲撃された側の者ですからね……」
「そう言われたらお返しする言葉もございません。ノーム様、お連れ致しました」
ミドルさんがそう言うと、奥の方から「うむ。こちらへ」と低い声が空間に響く。
この声、最後の襲撃者と同じもの……。
「いるのね……ノームが……」
「ふぉっふぉっふぉっ……。あの攻撃を受けて、まだ生きておるとは……。お主は不死身なのか?」
「ふん! ふじみなんかじゃないわよ! わたちはまりょくによるかごを、うけてるの!」
「ほう。それならば、強い魔力を受けておるようじゃの……」
「ええ、エリサ様は今はこのような幼女ですが、実際の力は私など軽く及ばないレベルのお方です」
「ふむ……。お主は?」
「私はエリサ様の侍女であるライラと申します」
「ふむ……。ライラ殿よりも強いとなると……。そこそこ名が知れててもいいものなんだがな……」
ノームはふっさりとした顎髭を手で撫でると、
「お主、そりゃ何かの間違いじゃないかのぉ?」
と、ライラの言葉に対して否定を申し出る。
いや、ちょっと待てい! と私は思わずツッコミを入れたくなってしまうが、ここは落ち着いて交渉、交渉……。
ライラも私の方をチラリと見て、私の笑顔を見ると、顔が引きつっているのが分かる。
あ、もしかして、ライラ、恐がってるの? 大丈夫よ、私は大丈夫だから!
「ライラ殿よりも、魔力量が上となると、魔王様くらいしかいねぇと思うんだけれど……」
「―――――!?」
ミドルさんに緊張が走る。
そりゃそうだろう。ミドルさんの隣にいるライラと私がそもそもそんな魔力量もあるのならば、一気に鉱山を消し飛ばせるだけの力があるわけだから……。
「し、しかし、ノーム様、この方々は研究者と伺っておりますが……」
「うーん。本当か? どうも信用ならねぇなぁ……」
本当に疑い深いノームだ。
私はライラの肩から降り立つと、ノームに向かって右手をかざす。
「わたちがどういうものかを、ちりたいの?」
「ああ、知りたいねぇ……。胡散臭いからな……。まあ、言葉だけはまともに喋れるようにしてやるよ」
ノームはそう言って、指でパチンと鳴らすと、私の喉から灰色の煙が排出される。
うげっ!? あの煙は……。
「ちょ、ちょっと!? 何をするのよ! 私は敵じゃないって……て、あれ?」
「ああ………見た目も話し方も幼女なエリサ様が……」
何で、ライラはガッカリしてるのよ……。
本当に趣味が悪いと思うわよ。てか、もう変態レベルだわ……。
「これで普通に話せるようになっただろ? その赤ちゃん言葉は、聞いているのも鬱陶しいからな」
「いや、普通にこれ、アンタがやったんでしょうが!」
「まあ、敵には徹底的にやるタイプなんでな……」
「じゃあ、私であることを証明するのも徹底的にするわね。ライラ、結界魔法を!」
私はニヤリと意地悪くライラの方を振り返りながら、微笑むと、ライラは「ひぃっ!?」と冷や汗を垂らしながら、急いで結界魔法を空間に張り巡らせる。
それを確認して、私は一つの魔法を発動させた。
「闇魔法『黒洞』!」
「や、闇魔法!?」
ミドルさんは驚き、私から距離を取る。そして、ノームの顔も引きつる。
そりゃそうだろう。この『黒洞』という闇魔法は疑似的にブラックホールを作る魔法なのだが、これが使えるのは、お父様であるルグルアールとその娘の私だけなんだから……。
「ハッタリなんかじゃないわよ? 吸い込まれないように気を付けてね」
私はニコリと微笑んだ瞬間、一気に空気が吸い込まれる。
ノームは地面に自身の足を瞬間的に埋めたらしく、ぴくりとも動かない。
ミドルさんはライラが何とか吸い込まれないようにしてくれているみたいだ。
無関係の人を巻き込みたくないからね!
「こ、こんな魔法使えるのは……ルグルアール様くらいだろ……。アンタは何者なんだぁ?」
「もう、いいわよ。私はルグルアールの娘のエリザベートよ!」
瞬間、空気が固まった。一応、言っておくが、さっきのように「ブラックホール」を発動はさせていない。
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」」
と、二人が引くほど驚いたのは当然だろう。
目の前に魔王の娘が立っているのだ。それだけではない。ノームに至っては、そんな私に呪いまでかけてしまったのだから。
「ねえ? 聞いたことはないかしら? 魔王軍をボッコボコにした二人の女の話?」
「……あ、ああ、最強の魔王軍の幹部が入ったって話を聞いたことがあるが……まさか……」
「まあ、幹部ではないけれど、その最強の二人が私たちなんだけど……。で、どうする? 私たちとお話する?」
「……させていただきます……」
ノームは大人しく、その場で土下座謝罪をしたのであった。
うん。聞き分けがよくてよろしい!
「で、村長から聞いたんだけど、普通に人間と対等に交易を行いたいんでしょ?」
「ああ、そうだ……。どうしても俺ら亜人族に対する扱いが雑なんでな……」
「そこで私から提案なんだけど、この村を魔族の管理下に置くのはどう?」
「はぁっ!? 何だと?」
「まあ、管理課というと語弊があるかな……。保護国とするってこと。つまり、内政などに私たちはノータッチ。これまで通り自分たちで行えばいいの。だけど、魔族が後ろについているともなれば、相当なアホなヤツでもない限り、力づくでって考える人間はいないと思うのよね。それに冒険者を襲ってアンデッドにしなくても、魔王軍の……そうね。人間でいうBランクくらいの魔族をこっちに護衛のために派遣するようにも話を通してあげるわ。どう? これで不満はないでしょ?」
「……あ、ああ……。何の不満もねぇな……。それにしても、そっちはいいのかい? 何の得もねぇぞ?」
「まあ、一応、ロイヤリティーとして金鉱を優先的に融通してくれれば、それでいいわよ」
「そうかい……。じゃあ、その条件を受け入れるよ……」
「ありがとう! あ、そうだ! あと、私の姿を元に戻してくれない?」
「そんなこと、お安い御用だよ!」
そう言って、ノームは私の方に両手をかざす。
手が光り輝き、その光が私の身体を包み込む。
ようやく、これで元の姿に戻れるのね!
包まれた光が消えて、私は手を見てみる。
「あ、あれ? 何も変わってないんだけど……」
「おっかしいなぁ……て、あれ? アンタ、まさか術式をいじったかい?」
「いいえ、私は何もしてないわよ。できるならば、何とかしてるもの」
「でも、この術式は、他の術式が絡まってるな……」
私はひとつ、嫌な予感がした。
振り返って、満面の笑みで当事者に話しかけてみることにした。
「ねえ、ライラ? アンタ、何かしてない?」
「ひぃっ!?」
「あ、やっぱり何かしたんだね? どうするの、これ? 私の身体が戻らなくなったら、あなた、どういう罰を受けたいと思っているの?」
「い、いや、これは私も助けたい一心で……」
「でも、他の術式と絡み合って、解呪できなくなっているじゃない……」
私は深いため息をつく。
まさか、まさか、こんなことになるなんて……。いつも、余計なことをしてくる愛の深いサキュバスが私の呪いをさらに重いものにするなんて……。
ライラめ、絶対に絞める!!
私は怒り任せにライラに対して、魔法の多重攻撃を喰らわせてあげたのであった。
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