第6話 小休止と不穏な動き①
Another Episode 01
私は動きにくさを感じて目を覚ます。
と、ちょうどカーテンの向こう側は明るくなり、朝の陽光が差し込んできていることが分かる。
が、どうして、こうも動きにくいのか……。
その答えはすぐに理解する。
目の前によく知る美少女の顔が飛び込んでくる。
この美少女は、ライラ。私の侍女であり、サキュバスでもある。
が、悲しいことに私と「血の契り」を結んだあとは、私に忠誠を誓い、世の中の男性に手を出さなくなってしまった。
私は別に構わないというが、彼女曰く、それがライラにとって、私との契約の中で出来たルールのようなものなのだ、と。
結果的に、私のことを愛しすぎて、私以外から精気を吸い取ろうとはしなくなった。
つまり、私の少量の血を定期的に摂取することで、生活できるようになったのだそうだ。
もちろん、普段から私のことが好き過ぎて……というか、愛が重すぎて、今の様に私がなぜか追い込まれている状況も起こるのだ。
ライラは私の胸に頭をうずめて、スリスリとしてくる。
程良いサイズ(自称)の胸に、顔をスリスリされるのは、何やら変な気分になってしまう。
「ちょっと、ライラ……。もう朝よ。起きてシュタイナー宰相に報告しに行かないと……」
と、私がゴソゴソと動いて初めて気が付いたのだが、私とライラは服を着ていなかった。
私は恥ずかしさで顔を真っ赤にして、
「ら、ライラ……? どうして、私たちは服を着てないのかしら……?」
「あ、おはようございます……。エリサ様。これはどうお伝えしたらよろしいでしょうか……」
「昨日は、私もサラマンダーと『血の契り』を結んだので、かなり魔力を消耗していたので、すぐにベッドに横になったはずだと思うんだけれど……」
「はい。ですので、私がエリサ様のお着替えなどに関してはすべて洗濯に回しておきました」
「そう……。で、最初の質問に戻るけれど、どうして私は裸であなたと一緒の布団に寝ているのかしら……」
「それはお約束していたご褒美です」
「へ、へぇ……主の与り知らない間にご褒美ねぇ……。で、キスだったわよね……?」
「あ、はい! キスです、キス!」
ライラの狼狽えているのが言動だけでなく、表情でも伝わってくる。
(これはきっと、他のこともしたわね……)
私は逆にライラをそっと抱きしめてあげる。
「あっ……エリサ様♡」
照れているライラってじっくり見ると何だか可愛いわね……。
でも、私は容赦がない。
腕に力を入れて、彼女をがっちりと拘束する。
「で、他には何をしたのかしら……?」
「痛たたたたたたっ!? え、エリサ様!?」
私の腕は彼女の華奢な身体をグリグリと締めてあげていく。
彼女は先程の抱かれた幸福感に溢れた表情から絶望感に満たされた表情へと変化する。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ごめんなさい!!!」
私の締め技に屈するライラ。
勝者である私が敗者となったライラを問い詰める。
「で? 何をしたの?」
「あのですね………」
ライラは私の耳元でゴニョゴニョと説明してくれる。
もちろん、その説明されたことは到底、主に無断でしてはいけないような破廉恥な行為であった。
私は顔を真っ赤にして、
「わ、私もまだ15歳なのよ! そういうことはあなたも勝手にやっちゃダメ!」
私はライラに対して、大声で怒りをぶつけたのであった。
ほ、本当に顔から火が出るかと思ったんだから……。
遅めの朝食を宿屋の1階で取り、私たちは王宮に向かうことにした。
サラマンダーに関して……というか、今回の事件の報告をしに行かなければならない。
王宮に入ると、直接シュタイナー宰相の部屋へと案内される。
シュタイナー宰相はすでに執務用のデスクで仕事をしており、私たちが入室すると、ペンをさっと置いてこちらに向かってきて、席を促してくれる。
「失礼します」
私が軽くお辞儀をして座ると、シュタイナー宰相も私の対面に腰を掛ける。
そして腕組みをしたうえで、
「報告をもらおうか……」
「ええ、分かったわ……」
私は何者かによってサラマンダーの精神構造を乗っ取られ、暴走・破壊活動を行っていたことを伝える。
そして、その呪いを切り離すことは不可能と分かっていたからこその、呪術の上書きを行ったことも説明した。
もちろん、「血の契り」のことは一切、報告の中には混ぜなかったけれど。
「そうか……。それにしても、エリサ殿は凄い魔力をお持ちなんですな……。まさか、サラマンダーを自身の使い魔にしてしまうなど……。並みの魔力所有者では、魔力を吸い取られて骨と皮になってしまいますぞ!」
「まあ、魔力量はたくさんあるので……」
私はにこやかに受け流す。
で、あとは報酬をいただくだけだ。
私がそのことを言いだそうとすると、シュタイナー宰相は、机の上にあったベルをチリンチリンと鳴らす。
すぐにドアが開き、大きな書籍を抱えた文官がが入室してくる。
その文官は書籍を私たちの前の机に下ろす。
「それがお主が言っておった魔導書だ。くれぐれも内密に扱ってほしい」
「分かっているわ。そもそもこの魔導書をド素人の魔導士が見ても、理論も含めて理解できずに使いこなせないでしょうけれどね」
「まあ、そうではあるものの、本来であるならば、門外不出の内容なのでな……」
「分かりましたよ。では、ここで覚えていきますね。ライラもできる?」
「え、ええ……。可能だとは思います」
「じゃあ、サクッと覚えちゃうわよ」
「さ、サクッとって……」
シュタイナー宰相は、書籍の分厚さだけでなく、その膨大な知識量から1日で覚えれるものではないと踏んでいるようだ。
が、まあ、魔法の基礎理論であれば、すでに研究もしていた私たちからしてみれば、この手の魔法は起訴段階は終了して、「その結果、何を引き起こされるのか」、という第2段階の方を読みたくて仕方ないのである。
私たちは報酬として、金貨と浮遊魔法を手にすることが出来た。
本を読むために応接室を貸していただき、残りの半日を掛けて、浮遊魔法の習得を行った。
読んでみて納得できたが、要するに重力(引力)を自由に操作することに、物を浮かせたり、はたまたその逆を行えるものだったのだ。
「これって、重力魔法なのね……。理論上は」
「そうですね。エリサ様が研究していた理論を活用しているって感じですね」
「そうね。でも、これを活用すれば空を飛ぶ魔法も使いこなせるかもしれない!」
「またひとつ、実現に近づきましたね」
「でも、あとは風魔法よね……。きっと私の理論が正しければ、風を操れないと浮いたとしても、飛行することはできないのよね」
「まあ、浮くだけならば、こうやって……」
と、言って、ライラは自身に浮遊魔法を唱える。
ふわりと身体が浮いて、上下の移動を見せてくる。
本当に魔法を扱うのは天才レベルといったところね……。
「上下の移動はできるわけですから、前進するための方法を見つければ実現ですね!」
「風魔法かぁ……。でも、風の精霊・シルフかぁ……。文献でも放浪者って書いてあったけど、そんなの見つけられるのかしら……」
「きっと見つけられますよ! エリサ様ならば!」
ライラは笑顔で私にそう答えてくれる。
本当にライラは愛の重ささえ除けばいい子だと思う。
私の心を支えてくれる優しい子だわ。
「そうね。そうかもしれない。ライラが言うと、何だかできそうな気持になってきたわ。一緒に頑張りましょう!」
私がそう言うと、彼女は手を差し出して、笑顔で「はい!」と頷いてくれたのであった。
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