第9話 魔王の姫の初恋、そして―――!①
自身の試合を終え、観客席でライラとウルティマの試合を観戦した。
不運なことに、彼女たちは抽選で戦うことになってしまったのである。
もちろん、そんなつもりもなかっただろうが、私はウルティマにはブラックドラゴンの姿になることは、絶対に禁止と言い含めていたので、その約束を守るべく、ライラとは人型の状態で戦うことになった。
もちろん、能力的にはブラックドラゴンの姿の方が強いのは当然で、この帝都くらいなら、抵抗されなければものの小一時間もあれば焦土を化すほどの力を持っている。
が、今は人型の状態なので、その状況でも魔王軍よりは強いと言っても過言ではない。
「こうやって戦うのは初めてね」
「ホントだね! ライラお姉さまはお強いってご主人様から聞いているから、勝ったら一緒に熱い夜を共にしようね!」
「勝ったら、の話でしょ?」
「勝ちますから!」
「私の方こそね。こんなところでエリサ様に無様なところをお見せできないわ!」
戦う前から素晴らしい殺気をお互いに向け放つ。審判員さん、逃げた方がいいですよ~。人外の恐ろしい野獣が二体そこにいるんですよ~!
しかし、肝っ玉の据わっているのか、はたまた、すでに感覚がマヒしてしまっているのか、審判員は何食わぬ表情でその場で「試合、始め!」と、試合開始の号令を掛ける。
刹那―――――。
闘技場をどす黒い魔力が覆い始める。て、二人とも闇魔法の使い手だから、観客席がざわつき始める。
私としては一応、できるだけのことはしておこう、ということで、観客席に結界魔法を張る。
が、明らかに闘技場には世紀末のような戦いが繰り広げられる。
ライラが氷雪魔法を連射したかと思うと、ウルティマは漆黒のブレスを吐きだして、地形を変形させる。
審判員は自ら結界魔法を唱えたらしいが、衝撃波で結界にヒビが入り始めていて、それどころではないご様子。
運営本部の方に視線を送り、「お願い、助けて」と涙目になって訴えている。
まあ、助けてやれるものなら助けてやりたいだろうが、相手が悪かったな、と運営本部も諦めている様子で何も助力は得られそうにない模様だ。
ほぼ目に見えない、音と爆煙だけが幾度となく闘技場を埋め尽くす。まあ、彼女たちにとって、土埃など意味のないものだ。魔力探知で戦っているのだから。
かくいう私も魔力探知で彼女たちの動向を見守っているところだ。
たまに血が吹き上がったり、地面を赤く染めたりとなかなか物騒なことが起こっているが、相変わらず二人の姿は一般の観客には見えていないだろう。
そんな状況下で、私には聞こえていた。ライラとウルティマの罵倒が――――。
「ペットのくせになかなか強いじゃない!」
「ふん! ご主人様の侍女だか、下僕だかしらないけれど、必死過ぎないですか?」
「うるさいわね! 私にとってエリサ様は女神なのよ!」
「ぷふっ! いやいや、普通に魔王の娘だし!」
「あなたはエリサ様の何を知っているというの!? ペットの分際で!」
「あ、知らないの? ご主人様は私を抱きしめて、抱き枕の様に普段からしてくれているんだよ?」
「え…………?」
思わずライラの顔は呆けてしまう。ウルティマはニヤリと微笑み、魔力の込めた拳を叩きこむ。
ごめんね! ライラ! 実は、子どものころ、あなたが部屋から出て行ったら寂しくて、ウルティマを抱きしめて寝てたの!
「あれ? もう終わりですか? ライラお姉さま?」
「お、終わりではないわ! まだまだやれるわよ!」
ライラは「ふんぬっ!」と足に力を込めて、倒れまいと踏みとどまる。
しかし、すぐにライラは地面を踏み込んで、ウルティマの懐に飛び込む。
「あなたは知らないでしょうけど、エリサ様のオムツは私が交換していたんだから! あなたは嗅いだことがないでしょ? エリサ様のおしっこ!」
「う……………確かに」
ウルティマは悔しそうな顔をして、一瞬反応が遅くなる。ライラはもちろん、そこを叩く!
て、アンタは何ちゅう話をしてるのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
私は恥ずかしさで顔は真っ赤だ。そりゃ、そんなことがあったのは事実だが、それをわざわざここで言わなくてもいいと思う。
あと、何でお互いで罵り合う言葉にすべて私の絡めてくるの!? 私くらいの聴覚能力を持っている人ならば、聞かれちゃうってことでしょ!?
私の頬が引き攣り、コメカミにピクピクと赤筋が生まれる。
私は指を天高く掲げる。
「『雷光』!」
一瞬で周囲の空に暗雲が立ち込め、私が指を下ろすと同時に闘技場に雷の柱が幾本も生み出される。
この広さでは、回避は不可能に近い。それだけの本数を打ち込んだから。
「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」」
ライラとウルティマは「雷光」を直撃し、呻き声とも悲鳴とも言える断末魔を上げる。
無論、観客席には結界魔法をかけてあったので、誰ひとり雷撃を受けたものはいない。
審判員も完全に結界魔法が消し飛んだようだが、命はつながったようだ。よかったよかった。
で、ライラとウルティマはというと、雷撃を受けて意識を失ったようだ。
「り、両者、引き分け! 試合続行不可能により、勝者なし!」
いやぁ、いい試合だったわぁ……。
ライラとウルティマは、救護班によって担架に乗せられて運ばれていった。
うん。こんな変態たちと一緒に戦いたくないし、後で二人ともお仕置きしないとね。
結果として、ライラとウルティマの所属するグループからは決勝進出者はいなくなった。
つまり、私は不戦勝扱いで決勝戦へとコマを進めることとなった。シードで決勝のみ戦うことになっていた前回優勝者の風の精霊・シルフが待っている。
「ようやくシルフと出会えるのね……」
私は対戦表を見て、ポソリと呟いた。
私の持っているシルフに関する知識は、書籍に載っていた「風の精霊」であるということのみ。そもそもシルフが戦闘に特化したタイプの精霊だとは聞いたことがない。
先程のライラとウルティマの戦いのあと、闘技場の場内整備が行われて、1時間遅れでの試合再開となった。
「ご主人様、あれは酷いです!」
「エリサ様、死んじゃいそうでしたよ!」
と、ライラとウルティマの二人から非難轟々だったが、私に対する辱めをした罰だとニッコリと微笑みながら言えば、二人とも理解を示してくれた(示させた?)。
「ご主人様、次が本当の意味でラスボスですから、気をつけてね!」
「エリサ様、何やら嫌な気がいたします。どうかお気をつけてくださいませ」
「ええ、ありがとう。ウルティマ、ライラ。こんな格好だから、やれるだけのことをやってみるわ」
私はそう言うと、踵を返して、闘技場の入り口に向かった。
闘技場は最終戦ということもあって、嫌なくらい熱を帯びていた。
闘技場の中心部分にやって来ると、審判員も入ってくる。が、シルフはいない。
シルフが入場してくるはずの扉は開け放たれたままだ。会場がざわめき始める。
その時、一筋の
私が舞う埃をさけるために少しばかり腕で口元を覆う。
旋風が止むと、その場に白銀の髪を肩あたりまで伸ばした碧眼の男が―――。
彼こそが、風の精霊・シルフ―――――。
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