第5話 火の精霊を救いたい!②

「ふぅ……」


 私はライラの入れてくれた紅茶を飲み、一息つく……。

 やはりライラの紅茶は本当に美味しい。

 茶葉の持つ味わいを適温のもとでジャンピングさせ、紅茶本来の味わいを引き出してくれている。

 そして、先日、ヒューズの町で食したソフトクッキーも「万物の聖典」でレシピを解読させて、同じものをライラに作らせて食べている。


「ああ、美味しい。ライラも一緒にどう?」

「そうですね……………て、いつになったら真面目に仕事を始めるんですか!?」

「あら? ライラ、何か不満でも?」

「不満しかありません! 確かにあのサラマンダーとの直接対決は避けたいというエリサ様のお考えはごもっともです。魔法対決であれば魔力が豊富なエリサ様に軍配は上がると思います。しかし、サラマンダー特有のブレス型攻撃を中心に組み立てられれば当然ながら、苦戦を強いられるのは分かります。私は自分の身を守りつつ、攻撃を行わなくてはならないのですから……」

「よく分かっているじゃない。だから、作戦を練っているのよ」

「いやいや、この箱の中、やたらと便利過ぎませんか!? ちょっとした家出に持ってこないな感じくらい生活に必要なものが揃ってますよね!? 宿屋いらないでしょ!?」

「失礼ね! この箱を維持するには魔力を消費するのよ! 私だってお父様由来の魔力量を持ち合わせていますが、無尽蔵に消費できるわけではありません! それにこれまで泊まった二つの宿は依頼主側が持つと言われたから使ったまでです! 私も家出のときにそれほどたくさんの貨幣を持ってきたわけではありませんから、悠長に宿屋なんかにお金を払いたくありません!」

「いや、そう言い切られると何だか、潔くていいですね……。じゃなくて、何日もこの中でグータラしているだけにしか見えないんですけれど!?」

「失礼ね! ちゃんと仕事はしているわよ」

「本当ですか?」

「ええ、そろそろ、終了しているころかしらね……」


 私がそう言うと、「万物の聖典」を開き、ある項目のページを開く。

 そこには「偵察」という文字が書かれていた。


「『報告』!」


 私が書籍の表紙のクリスタルに触れながら言うと、羽の生えたコウモリのような眼玉が複数個、舞い戻ってくる。


「な、何だかグロテスクですね……」

「失礼ね。この子たちに偵察に行ってもらっていたのだから、その情報を集約したうえで、攻め方を考えてみたいと思うのよ」

「なるほど……。グータラとしていたわけではなく、部下に労働をさせていたわけですね」

「だから、それが普通でしょうが……。上司が部下を使って情報収集なんて当たり前よ?」

「そうですね。で、何か分かったんですか?」

「そうね…………」


 私は顎に手を当てて、うーむと唸る。

 使い魔からの情報が一気に映像で流れていく。

 その中で一つ気になる映像があった。


「……ねえ、ライラ、これは何かしら?」


 私が指をさしたところを、ライラは凝視する。

 その映像には、サラマンダーの顔が何かに覆われているような感じであった。


「使い魔よ。サラマンダーにもう少し近い映像はないのか?」


 使い魔はキィキィと金切り声を上げて、数分後の映像のことを教えてくれる。

 私は早送りをしてみると、確かに使い間が言うようにアップで撮影されたもののようだ。


「何だか趣味の悪い鉄仮面みたいなものを付けていますね」

「そうね……。ライラの言う通り、趣味はあまりよくなさそうね。でも、サラマンダーってこんなもの付けてなかったはずよね」

「はい。私も文献での知識しか存じ上げませんが、サラマンダー様はもっと凛々しいお顔であったはずです」

「となると、これは操るための受信機のようなものね」

「受信機ですか?」

「そうよ。サラマンダーのことだから、そう簡単に操られるようなことはないと思うのだけれど……。それにあの鉄仮面に彫り込まれている術式は、古代の文献で見たことがあるわ」

「……そうなんですか?」

「ええ、あれは確か東の大陸の術式ね。円形を使った術式は私たちの国と似ているんだけれど、術式の力の発生させる方法は魔法とは異なるわね。どちらかというと、呪術に近いわ」

「呪術と魔法では異なるんですか?」

「まあ、似て非なるもの……くらいの認識で良いと思うけれどね。私たちの魔法は精霊の力を借りることで力を発揮することができる。だから、属性による得手不得手が発生するのよ。でも、東の大陸の呪術というのは、神の力を借りるものだから、すべてが1つの神に集約される関係で、私たちが使っている魔法のような得手不得手が存在しえないのよ。正直厄介よね」

「あの鉄仮面を剥がしてしまうというのはいかがですか?」

「できればいいのだけれど、残念ながら、この画像を見て……」


 私は次の映像を止めたものを見せる。

 鉄仮面の周辺を拡大して見せると、何やら黒いもやがかかっている。


「何ですか? この黒い埃のようなものが鉄仮面のフチから滲み出てきていますが……」

「たぶん、これが鉄仮面本体の呪い……力なんでしょうね」

「いや、もう少し詳しく説明してもらえませんか?」

「あのね、これは呪いのようなものだから、完全に術式を解かないと、サラマンダーは鉄仮面を剥がすことによって、呪いで死んでしまうでしょうね」

「……そんな……」

「本当に忌々しいわね……。誰がこんなことをしたのか分からないけれどね……」

「じ、じゃあ、解けないんですか?」

「ええ、私たちの『解除』や『剥離』という魔法では何も意味をなさないでしょうね……。相手は東の大陸の魔術だもの……」

「では、このままサラマンダー様は終わってしまわれるのですか?」


 ライラが寂しそうな顔をして、呟く。

 が、私は足を組みなおして、彼女を見据える。


「そう諦めるのは、まだ早いわ……」

「相手が呪術で掛かってくるのならば、私たちは魔法ではない方法で結びつきを作ってしまいましょう」

「そ、そんなことができるんですか!?」

「ええ、私にはできるわよ。いえ、私だからできる方法があるのよ!」


 私は高らかと宣言すると、チラリとサラマンダーの画像を見つつ、残っている紅茶を飲み干すのであった。

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