第5話 火の精霊を救いたい!①
私とライラは荒野を走り抜ける!
後方から迫りくる炎の弾丸から身を守るために――――。
右! 左! 左! 右! ……といった具合に身をひるがえして、後方からの炎の弾丸が雨のように降り注ぐそれを避けている。
さっきまで私たちが走っていた場所には、炎の弾丸によってクレーターがいくつも生まれた。
「そろそろ走るのも疲れて来たわね……。何か、方法はないのかしら?」
「エリサ様、サラマンダーと直接対決をされた場合、勝てると思いますか?」
「もちろん、勝てるわよ! 溶岩とかを掛けてこなければ………」
「かなりの不確定要素が積み重なると負けるかもしれないってことですね……。よくわかりました」
「ちょ、ちょっと!? 勝手に負け確にするのは、やめてくれないかしら!」
「でも、あんな、何者かによって操られたサラマンダーと直接対決したら、私たちも軽くひねられて死んでしまうと思うのですが……」
ライラは相変わらず息が上がっていない。
うん、さすが強靭な肉体の持ち主だわ……。
ただ、走るたびに私の真横で、ぽよんぽよんと大きなスイカみたいなものが弾むのは、腹が立つんだけど………。
「ライラ! このまま走っていても埒が明からないわ! だから、一度、作戦を練り直しましょう!」
「でも、ここは荒野だから、逃げる場所も隠れる場所もありませんよ?」
「何言ってるのよ。なければ、作ればいいだけじゃない」
私はさも当たり前のように言うと、ライラは小バカにしたような顔でこちらを見て、
「はぁ……エリサ様……。ついに胸だけでなく、脳まで無くなられたのですか。もう少しは優秀な頭脳をお持ちだと思っていたんですけれどね……」
「誰が胸なし脳なしですって!? 胸もちゃんとわるわよ! やや小ぶりなだけよ!」
「あ、そうですか。それで、ちょい胸ちょい脳なエリサ様はどうやってこの状況から脱すると?」
「本当に可愛くないわね……。もう、一緒のベッドで寝てあげないからね!」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁっ!!! ごめんなさい!!!」
一緒にベッドで寝れなくなることが嫌なのか、人生の終わりのような顔でライラは私に泣きついてくる。
うあ。それはそれでちょっと引くわ!
「それだけは勘弁してください……」
「とにかく、この状況を一旦、リセットしましょう!」
「だから、どうやってやるんですか?」
「そんなの……こうやるのよ! 『擬箱』!」
私は「万物の聖典」の表紙のクリスタルに手を触れながら、言葉を唱えると、
私の周囲が立方体の箱が出来上がり、私たちはそれに包まれる。
すると、そのまま地中に沈みこんでいく。
「わっ!? こ、これは何ですか!?」
「だから、これは『擬箱』と言われて、自分の周囲に亜空間を作り出して、地中に溶け込ませることで、一時的に身をくらませることができるシェルターのようなものよ」
「でも、サラマンダーは沈み込んでいるのを見てるのだから、攻撃してくるのではありませんか?」
「まあ、してくるでしょうけど、私たちの箱が完全に地面に沈み込んだ後は、サラマンダーであれ、誰であれ見つけることは困難だと思うわ。私たちはそこに存在するけれど、実際の世界からは一時的に避難……つまり、消えた状態になるのだから……」
「なんともご都合主義的な魔法ですね……」
「まあ、そもそも魔法なんてすべてがご都合主義的に生み出されたものじゃない。だから、これももともとの能力とは異なるように私がアレンジを加えて、今の形になっているのよ。前までは単なる箱に閉ざされるだけの魔法だったんだもの……」
「それって、逃げれてませんよね……」
「でしょ? まあ、世界最強とも謳われる核撃魔法を5発喰らっても無事なシェルターなんだから、それまでに敵があきらめるでしょうけれどね……」
「で、そんな追われている私たちはこれからどうするんですか?」
ライラが訴えてくると、私は腕組みをして考える。
もちろん、タイミングを見計らって、再度、特大の一発……それこそさっきの「水魔法」とは比べ物にならない核撃魔法を叩き込んで倒すということもできる。
しかし、相手は火の精霊・サラマンダーである。
さすがに滅ぼしてしまうと世界のバランスが崩れ始めてしまい、もっと恐ろしいことが起こることくらい目に見えている。
それに核撃魔法を荒野だからと言ってもぶっ放したりなんかしたら、活火山が多いこの地域の噴火活動がさらに活発化して、共和国側にも影響が出てしまう。
そうなると、私が望んでいる結果とは異なってしまう。
私はあくまでもお互いがウィンウィンの関係を築けることが一番良いと思っている平和主義者なのだから。
「そうね。まずは相手の分析でもしましょうか。サラマンダーを倒すというよりは救ってあげたいと思うから」
「はぁ……。エリサ様ならば、そうおっしゃると思っていました」
ライラはため息交じりに頭を抱えつつ、そう言うのであった。
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