第4話 火の精霊の怒りを引き出しちゃった!②

 大陸西方に位置するラピート共和国―――。

 地下に走る変動隊のおかげで、火山が多く、自身も絶えない国である。

 一方で、火山がもたらしてくれる火成岩が建築資材などで使用されており、国家の大半の輸出品が火成岩ではあるものの、輸出も順調ということで経済的には潤っているようである。さらには火山によってもたらされるもののもうひとつが温泉である。観光客にも人気の高い温泉は、豊富な源泉から王宮だけでなく、各家庭にもパイプが敷かれている程だとか。

 毎日温泉に入れるなんてなんて幸せなんだろうと魔王城の図書館で書籍を読み漁っていたときは感動してしまったが、まさか、自分がその国に来ることができるなんて夢のようだった。


「うーん。王国に入るだけで、温泉の硫黄の臭いがする!」

「この卵が腐ったような臭いのことですね……。温泉とは、聞いたことはありますが、見たことはないものですから、それほどまでに良いものなのですか?」

「まあね。知らないなら百聞は一見に如かずよ。入ってみるとわかるわ。私たち魔王城でのお風呂のスタイルは、入浴服を着て入る形よね。でも、ラピート共和国の温泉は入り方から違うのよ。肌身に何もつけずに温泉に浸かり、直接効能を肌から取り込むの。転生前の私の暮らしていた国でもそんな入り方だったから、あの入浴服には違和感を感じたものよ」

「は、裸で入るのですか!?」

「ええ、そうよ? 何? もしかして、ライラは私に裸が見られるのが嫌なの?」

「い、いえ! 私はエリサ様が見たいとおっしゃるのであれば、身体の隅々までくまなく―――」

「あー、見ないから……。別にあなたの身体の隅々までは興味はないから安心して頂戴!」


 私がそういうと、少しショボーンと落ちこむライラ。

 あれ? もしかして、本気で興味関心を持ってほしかったのかしら……。

 でも、もしかして、ライラは温泉に入ったときに、「〇〇ちゃん、ちょっと胸が大きくなってきたんじゃない?」「も、もう! 触らないでくださいよ!」なんていう女の子同士の恥ずかしい会話をしたかったのかしら!?


「ま、まあ、ライラ……。そう落ち込まないで……。温泉は私とライラが一緒に入れる大きなお風呂なんだから」

「い、一緒に入るんですか!?」

「え、ええ、そんなに驚くこと?」

「い、いえ……では、合法的にエリサ様の生のお肌を見たり、触ったりしてもいいのですか!?」

「え!? 見るのは仕方ないとしても、触るのはどうかしら……」


 ど、どうしよう。この子、愛が重すぎるとの、サキュバスのくせになぜか女性(しかも、私限定)が好きなのよね……。どんなイケメンと視線が合っても、サキュバスみたいに精気を吸い取りたい様子を出さないんだもの……。

 それに、私もさっき温泉シチュエーションを想像していたから、必然的にアレをするためには触ることになっちゃうわね。


「と、とにかく、むやみやたらに他の方の肌を見たり触れたりはしてはいけませんよ」

「大丈夫ですよ。んふふふふ♡ だって、私はエリサ様の裸にしか興味がありませんから」

「だから、言ってるセリフが問題なんだってば!」


 今にも私を抱きしめようとするライラを制止しつつ、


「とにかく、サラマンダーの件もあるし、まずは王宮に向かってみましょうか。運が良ければ、話を聞くことができるかもしれないし」

「そうですね。さっさと仕事を終わらせて、温泉に行きましょう!」


 ライラの目は明らかに私の顔ではなく、首よりも下にいやらしい視線を感じるのだけれど、まあ、今は本人もやる気になってくれているのだから、そのまま王宮に向かうことにする。




 王宮に就いた私たちを出迎えたのは、共和国の宰相であった。

運悪くラピート王はここ最近、病魔に襲われて床に臥せているらしく、政治全般をこの宰相が執り行っているらしい。


「お忙しいところ、ご面会いただけてありがとうございます。私は研究者のエリサ、そしてこちらが私の秘書兼侍女のライラといいます」


 私が握手するべく手を差し伸べると、歳のほどは50代くらいの細身である宰相が、握手をしてきつつ、


「私はラピート共和国の宰相であるシュタイナーでございます。この度の貴殿の来訪、歓迎いたします」


 先日訪れたヒューズの町長に比べるととても礼儀がなっている方で少し安心する。

 私たちは席に着き、ここ最近の共和国内での現状をうかがう。


「まあ、政治、経済に関しては少しずつ影響は出ています。如何せん、周辺に乱立している火山群が続々と噴火が始まっていましてな……。共和国の中心都市までは火山群から遠いとは言え、火山には我が国の主要輸出品の火成岩を採掘する鉱員たちも住んでいます。鉱員たちには家族がいるものも多くて、王宮には心配する声が出てきております」

「私の伝手つてから聞いた話ですと、どうやら、火の精霊であるサラマンダーの活動が活発化していると伺っております」

「サラマンダーのことまでご存じ、と。では、もう少し詳しくお話いたします」


 そこからシュタイナー宰相は私たちにサラマンダーの現状を話してくれた上で、私たちに依頼をしてきた。

 当然、サラマンダーに関する調査と必要であれば、それらを対峙することだ。

 私とライラは興味津々にそれを聞いたうえで、引き受けることにした。

 王宮を後にした私とライラは、王宮側が用意してくれた宿屋に向かう通りで話を交わす。


「エリサ様、それにしても先ほどの話、どう思いますか?」

「そうね……。サラマンダーの討伐というのはあまり利口な話には聞こえないけれど、サラマンダーが操られているというのは、妙な気もするわね」

「そうですよね。サラマンダーって火の精霊ですから、そんなに簡単に操られたりするもんなんでしょうか……」

「あと、もうひとつ、気になることがあるんだけれど……、まあ、今はそこまで深く考えないでおきましょう」

「え? いいんですか?」

「ええ、構わないわよ。まだ情報も集めてないのに、勝手に判断するのは時期尚早というものだからね。さあ、今日のお仕事はこれで終わり。温泉に行きましょう!」

「はーい! 温泉楽しみでーす!」


 私はライラがじゅるりとヨダレをすする姿を見逃しはしなかった。

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