第4話 火の精霊の怒りを引き出しちゃった!①

 私とライラは荒野を走り抜ける!

 後方から迫りくる炎の弾丸から身を守るために――――。

 右! 左! 左! 右! ……といった具合に身をひるがえして、後方からの炎の弾丸が雨のように降り注ぐそれを避けている。

 さっきまで私たちが走っていた場所には、炎の弾丸によってクレーターがいくつも生まれた。


「ライラ!? 何だかよくない方向に進んでいるような気がするんだけれども、あなたはどう思う!?」

「私もとてもまずいと思います。いやぁ~、まさかこんなことになるとは……」

「よくない方向に向かっている割には、かなり落ち着いているわね」

「そうですか? これでも焦っているほうです」

「それが私には伝わってこないから、そういっているんだけれどね……。今思えば、怒り任せにあんなことしなきゃよかったわね……」

「それは思いますね……。ちょっと考えてほしいと思います」


 そう。どうして、私たちが今、このような状況に陥っているのかというと、これには深いわけがあったのである。

 深~いわけが……。




 ヒューズの町で起こった、水の精霊・ウンディーネへの信仰心が薄れたことが原因による異常気象事件を解決した後、ウンディーネのもとを訪れて報告を行った。

 ウンディーネのもとにはすでに町から巡礼をしに使節団が派遣されて、遺跡周辺の清掃作業が行われて、これまで信仰が行われていた時代と同じような遺跡に戻ったらしい。

 確かに町長が大洪水に流されてしまった後、町政を行うために何か方法、ということで私は前世では当たり前であった、選挙による町長の選抜を提案した。

 そうすることによって、町の人たちの民意に基づいた町長が選抜されるからだ。

 これまでは、世襲制が中心であった支配型の政治から、民衆の支持に基づいた政治である民主主義を採用することを広場で聴衆に訴えかけた。

 結果、この案は丸ごと採用されて、町長選挙が行われることになった。

 もちろん、町長選挙というものがどういう方法なのかを知らない人々のために、私がオブザーバー……つまり相談役となって、あれやこれや指示を出し、それをマニュアル化させることに成功した。

 結果、現在のヒューズの町長は、多数決によって選ばれた民主主義の考えに則った人物が政治を行っている。

 町の人々やウンディーネは今回の騒動に関して、見事解決できたことに対して感謝をしてくれて、町の人々からはお礼として、ボトルのワインを4本もいただけた。

 ウンディーネには、そのうちの1本を渡す。

まあ、いわゆる野良魔物によって洞窟が若干荒らされたことに対するお詫びとして受け取ってもらった。

どうしてお父様の不始末を、娘である私が行っているのかは何とも言えない悲しい話なんですけれどね……。

そこでウンディーネから話を聞いたのが、新しく騒動に巻き込まれることになった……、というよりは勝手に巻き込まれてしまった発端となる。


「知っておるか? 最近、サラマンダーの奴が自由奔放に活火山を爆破させて、緑の大地を荒野に変えていってしまっておるそうだぞ」

「はぁ? 火の精霊が? それはもはや破壊行為であって、精霊としては問題があるのでは?」


 私は疑問を呈すると、ウンディーネは「うむ」とうなずき、


「まあ、アイツにとっては火山が自らの領地であるからにして、精霊の力が宿っておる場所であるから、火山を定期的に噴火させることは問題ないのだろうけれど、あらゆる火山をたびたび噴火させているという話を聞いてな……。さすがにただ事ではないのではないだろうかと思うてのぉ……。もしも、お主がその地域に赴く予定があるのならば、様子を見て、一発サラマンダーをぶっ飛ばしてきてほしい、というわけだ」

「ぶっ飛ばしてほしいわけだ……ってそんな簡単なことじゃないと思うわよ? ねえ、ライラ」


 ライラは私の腕をずっと抱きしめている。

 何とかして逃げたいのだが、ライラの愛の重さが力に比例して表れているのか、なかなか引きはがせないでいる。

 本人曰く、「お互いの愛の形がこうやって私たちを引き寄せたんです!」なんて言うから正直そこで否定した場合のことを考えるとかなり怖いものなので、敢えて、今は抱き着くことを暗黙の了解にしている。

 ライラは私の腕に顔をすりすりしたまま、


「ええ、さすがにサラマンダー様がどのくらいの戦闘能力をお持ちかは存じませんが、一筋縄では行かないのではないでしょうか……」


 すっごくまともなことを説得力が皆無の状態で言ってしまっているのである。


「とにかく、今の私にとっては行く当てもないわけだから、ちょっとサラマンダーを見に行ってきましょうか」

「そうか。だが、気を付けておいた方がいいぞ……。どうもこれまでのサラマンダーとは様子が違うように感じるのだ……」

「様子が違う?」

「ああ。サラマンダーは確かに炎を操る天才ではあるものの、そんなに人々に悪影響の出るような悪いことをしでかしたことなど、ほとんどなかったのだ。それが今回聞いた話だと、明らかに人的被害にまで達しつつある。これはサラマンダーの望むところではないはずだ。まあ、そもそも精霊が人殺しなど行うのは普段ではありえないからな……」


 あ、町長が大洪水で流されたのは、あれは人殺しではないのですね……。

 それはさておき、ウンディーネの言うとおりだ。

 本来、精霊が力を行使して、人助けをすることはあっても、人殺しを行うなんてことは、御法度のようなものだ。

 その御法度を犯そうとしているサラマンダーは、明らかに何かがおかしい。


「分かったわ。じゃあ、ちょっと西の方角に向かってみるわ」

「うむ。また、何かあれば報告しに来るがよい」

「あ、そうだわ! 毎回来るのは大変だから、これを置いていくわね」


 といって、私は「万物の聖典」から手のひらサイズの魔法水晶をウンディーネに渡す。

 ウンディーネは怪しそうにその魔法水晶を手に取り、眺めている。


「それは遠い場所でも会話ができる魔法水晶なの。もしも、私と連絡を取り合いたいなら、これに手をかざして、私のことを思いながら念じてくれればいいわ。私が会話できるタイミングであれば、会話をするから」

「ほほう。これは便利なものだな。魔法の力は今はここまで発達しているのか……」


 ウンディーネは感心しているが、要するにこれは私が転生する前の世界でいう携帯電話だ。

 それを魔法水晶の力をうまく使って、仕組みを再現したわけである。


「じゃあ、西の国に行ってみましょうか」

「はい。私はいつでも愛しているエリサ様とともに参ります」

「だから、愛が重いって……」

「ふふふ。嬉しいくせに……」


 いや、まあ、嫌ではないけれど、さすがに愛が重いのはこのままでいくと、きっとヤンデレみたいなシチュエーションが起こるフラグがどこかで立ちそうで怖いのだが、敢えて、今はそれを考えるのは止めておくことにした。

 私とライラはウンディーネと別れを告げて、西の国であるラピートに向かうことにしたのだっだ。

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