第3話 水の精霊と信仰心③
私とライラは、すでに洞窟を後にして、町長の家にやってきている。
いわゆる、活動報告というものだ。
町長は面倒くさそうに腰を下ろす。
ああ、こういうところをライラは嫌いなんだろうな……と感じ取ってしまう。
てか、隣りで殺気むき出しのメイド服の美少女がいるのだから、普通に気づいてしまう。
「で、どうだったんだ?」
おや? 前回よりも扱いが損雑になっているではないか。
まあ、いいか。今回はウンディーネのことを伝えに来たわけだし……。
「湧泉まで行ってまいりました。まあ、魔物もいましたが、それほど強いレベルではなかったので、一応、薙ぎ倒してきました。少しの間は寄り付かないと思います」
「おお! よくやってくれた! で? 肝心の泉のほうは?」
「水は普通に湧いてはおります。が、そこを守護している水の精霊・ウンディーネ様がたいそうお怒りでした」
「ウンディーネが!?」
「ええ。何かお気づきの点がありましたら、教えていただきたいのですが……」
町長は目を落ち着かないようにチラチラと他の物を見ているようだ。
ああ、絶対になんか裏があると言っているようなもの……。
「まあ、町長がお答えにならないのであるならば、私の方から一つ助言をさせていただきます」
「何だ?」
「こういった場所は信仰心のもとに成り立って居るものかと……。ですので、毎月の巡礼を疎かにされたりはしておられませんか? そういう小さな綻びから大きな問題が起こることがございます」
「ほう? 何が言いたい?」
「ウンディーネ様からのご伝言をお伝えいたします。7日後に天変地異が起こるとのことです。それまでに信仰心を取り戻していただけるよう、努めていただければ、と」
「天変地異だと!?」
「はい。詳しくは分かりませんが、お怒りでしたので、私自身も近くまでいけませんでしたが、何とか話を伺った結果、そのようなことをおっしゃられました」
「………………」
「では、失礼いたします。私も他の方法が見つかるかもしれませんので、宿に戻っております。では、失礼」
そう言ったものの、町長からの返事は何もなかった。
ウンディーネから話を聞いていた。そもそもこの町はいつもブドウが取れ、ワインが作られると感謝の意味を込めて、水の精霊・ウンディーネのもとへ巡礼に行っていたようだ。
人が寄り付きやすい洞窟には、魔物の住処として使用しづらいという点もあるので、寄り付きにくくいなる。
つまり、町長が変わって、信仰心が薄らいで巡礼を疎かにした結果が今のあり様ということだ。
それまではきちんと毎月の巡礼を欠かさずにしていた前町長とは比較にならないくらい酷い。
結果、洞口の中も荒れ果て、巡礼には不向きなダンジョンのような様相となっていた。
すべては傲慢なこの町長が引き起こしたこと。
さて、ちゃんと行動に移せるかな……。
「エリサ様はどう思われますか?」
「うーん。あの町長のことだから、きっと動かないでしょうね」
「じゃあ、本当に天変地異を?」
「まあ、一応、計画ではこの町に向かって鉄砲水をぶち込ませるように話はしてあるけれど……」
「でも、それって失敗したら町の人が死にますよ!?」
「あははは……大丈夫だから……。さ、宿に帰って、ティータイムにしよっか。ライラの紅茶が飲みたいわ」
「私はエリサ様の血が飲みたいです♡」
「そういうことは宿に戻ってから言いなさい……」
私のチョップに彼女は、反省した面持ちで「はい」と小さく答えた。
結局、7日が経ったものの、やはり町長は巡礼には行かなかったようだ。
本当にダメだな……。この町長は。
その間に、私とライラは町で聞き取りを行ったが、今の町長に対して喜ばしい感情を持ち合わせているものはあまりいなかった。
「エリサ様、町長はかなり嫌われていますね……」
「ええ、そうね……。さあ、本気で天変地異が起こるわよ……」
私がそう言って、湧泉のある山の方を見ると、木々に止まっていたはずの鳥たちが一斉に飛び出す。
いよいよ、始まったか………。
私はウンディーネが起こす天変地異に構えた。
町の人を死なせるつもりはない。とはいえ、こうでもして、精霊を怒らせたら怖いということを人々に教えるのだ。
町の見張り台にいた人が叫ぶ。
「大量の滝のような水がこちらに向かっている! 町人は全員退避!」
「ライラ、水は一気に町を飲み込もうとするはずよ。そこで風魔法の「風刃」で切り裂いて、町の両側に一気に切り分けるわよ」
「はぁ……人間のためにやるというのは気が進みませんが、エリサ様のご命令ですから、素直に従います」
そんなところにあの出来損ないの嫌われ町長が現れる。
かなり焦った表情で、こちらに怒りの矛先を向けてくる。
「おい! お前たち! 魔導士だろ! 何とかしろよ!」
「……ライラ。あいつ、魔法の糸でグルグル巻きにして連れていきましょう」
「かしこまりました」
言うが早いか、彼女は右手の人差し指をすうっと彼に向けて、指先をくるくると回す。
すると、目にも見えない魔法の糸で、町長を巻き付けてしまう。
「おい! 何するんだ!?」
「何をするって……。簡単なことですよ。町の人を一緒に救うために最前線にご案内を」
私がそう言うと、町長は顔面を真っ青にする。
「五月蝿いから、口も塞いどいて」
「了解」
魔法の糸で口も塞いでしまい、町長はもごもごと何かをわめいている。
そんなこと知ったことではない。
最前線まで到着すると、すごい勢いで水がこちらに向かってくる。
(うーん、なんだか話と違う気がするけど……ま、いっか)
「エリサ様、町長はどうします?」
「その辺に放置しておきましょう」
「了解」
そう言うと、魔法の糸の拘束を解除され、町長は目の前にやってくる津波のような水に恐れおののいて、逃げ出そうとする。
あ、そっちに逃げちゃ………、
「「風魔法『風刃』!!!」」
私たちは水にめがけて、風の強靭な刃を叩き込む!
水はあっさりと二手に分かれて、町の周囲へと別れていく。
と、同時に聞こえてくる町長の悲鳴!
あ、町長さん………………、だから、そっちに行ってはいけないと………。
私とライラは水が落ち着くまで風魔法を行使したが、状況が落ち着いてきたのを見て、町の広場に民衆を集めて、状況を説明した。
新しい町長になってから水の精霊・ウンディーネへの巡礼を怠ったことが今回の天変地異や異常気象を引き起こした。それを元に戻すためには、ウンディーネへの信仰心を手厚くすることを促した。そして、最後に町長が今回の大洪水により亡くなったことを伝えると、民衆たちの顔が明るくなった。
普通は弔い、悲しむべき場所ではあるが、様々な納得できない圧政を
民衆はその後、救世主である私とライラのために宴を開いてくれた。
もちろん、特産品のワインもたっぷりといただくこととなった。
祭りがひと段落したところで、お開きとなったところで、私は夜風にあたるため、町の外へ出た。
ウンディーネの大洪水により湧泉から町に向かって、大きな川が伸び、そして、町の手前で二手に分かれて川が出来上がった。
これにより、生活も大きく変わることだろう。
「エリサ様」
「あら? どうしたの、ライラ」
「私は人間属を助けようとされるエリサ様を最初は理解できませんでした。しかし、今回のことを通して、精霊と人間属が再び繋がりを持てるようになりました。エリサ様はこういう繋がりの持っている『エリサ様が普通とお考えになる世界』を築きたいとお考えなのですか?」
「うーん。どうかなぁ……。まだ、わかんない。でもね。こうやって人助けをして、人間に感謝されることも悪くないと思えない?」
「……はい」
「私はそういう感謝の気持ちをもっともっと増やしていきたいのかもしれない。まあ、私のわがままだけれどね……」
私はライラのほうを見つめなおし、
「ライラ、私と一緒にこんな私のわがままに付き合える?」
「……私はエリサ様に誓ったものです。エリサ様の最後は私の最後なのです!」
「いや、だから、それは愛が重い……」
「おおっ!? 私のこの気持ちをエリサ様も愛とお感じになられるようになられたのですね! ライラは嬉しいです! このまま抱かせてください! 痛くしませんから!」
「ちょ、ちょっと!? ライラ!? 酔ってるんじゃないの!? てか、痛くしないって、何をするつもりなの!? ちょ、ちょっと!? おやめなさい!」
暴れまわるライラに対して、私は「睡眠」の魔法を唱えて、寝かせる。
本来のライラであれば、効果はないだろうが、今はワインもたらふく飲んでいて、気分的に緩んでいる。この状況であれば、容易に魔法はかかってしまう。
私は彼女をそっと抱きしめつつ、
「私もあなたのことが大好きよ……。私のわがままに付き合ってくれる、そんなあなたが……」
私はライラの耳元でそう囁いた。
いつかライラが私の考えを完璧に理解してくれることを願いつつ…………。
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