第1話 魔王の娘って何だか面倒くさい!②

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

「すっごく長いため息ですね」

「そりゃため息も出たくなるわよ。こんな薄暗い部屋に廊下……というか城全体がそうなんだけど、こんな鬱蒼としたところにずっとい続けて、頭がおかしくならない方がむしろおかしいわ」

「掃除をしている侍女に対して失礼ですよ。エリザベート様」

「ああ、そうね……。ごめんなさい。いつもあなた達が掃除してくれているから、実際はよく見るとホコリなんて何一つ落ちてないんだものね」

「はい。エリザベート様のお母様でいらっしゃるヘミュントス様が、ホコリアレルギーをお持ちですので」

「そうなの!? よく、お父様と結婚する気が起こったものね!?」

「まあ、そこは……」


 ライラはそっと視線を私から逸らし、頬を赤く染めて、


「愛の為せる業なのですよ」


 サムズアップしつつ、ドヤ顔をしてくる彼女に対して、私は「はぁ……」としか答えられなかった。

 私は思わず「言ってて、恥ずかしくないの?」とツッコミを入れてしまいたくなったが、敢えてこの場は放置をしておくことにした。


「とにかく、お父様と会うのが面倒なの……」

「ルグルアール様には、良くしていただけていると思うのですが……」

「うーん。何ていうかな……。中庭にすら出してもらえないのよ? これってもはや自由も何もないでしょ!?」

「きっとルグルアール様もエリザベート様を大切にしたいというお考えがおありで……」

「いや、これじゃあ、過保護よ。そもそもスペックが高くても実戦経験がないのよ!? いざ、敵が来たらどうするつもりなのかしら!」

「まあ、確かにそう言われればそうですね。私も、実際、エリザベート様に鍛えていただいていますが、実戦はありません。それどころか、私にはトラウマもありますので……」


 トラウマ……。

 そうよね。ライラは私と出会う直前まで、戦乱にその身を置いていた。

 そこで家族を殺され、そして周囲の人々の死にも向き合ってきた。

 そんな彼女の心の奥底にトラウマが植え付けられるのも当然と言えるだろう。


「とにかく、お父様にもその辺をお願いしてみましょう」

「よろしくお願いいたします」


 私はそう意を決すると、お父様がいる玉座の間へと向かうのだった。




 お父様は物凄く難しそうな顔をなさっている。

 うん。これはきっとよろしくない状況だわ……。

 玉座の間に入り、自身のスペック、そしてライラのスペックに関して、報告をした後、実地訓練とした演習のために外へ出してほしいと願い出た。

 スペックの報告まではそれこそ笑顔(読み取りにくいんですけどね……)で聞いていたにも関わらず、実地訓練の話を出した瞬間に表情を固めて、この状態が続いている。


「私は何も、ずっと部屋の中で訓練をするのが嫌になってきたわけではありません。むしろ、今、身に付けた力がどれほどのものなのかを示してみたいという好奇心から来るものですわ!」

「……うむ。エリザベートの言いたいことも分かる……。だが、お前は私の後継ぎであることを分かっておるか?」

「もちろんでございます。私自身、帝王学もすでに学びを終えております。何故、外での訓練をお認め頂けないのですか!?」


 私は突っかかるが、お父様がそんなに簡単にお認めにならない理由はすでに分かっている。

 要するに、私をそとへ出したくない理由は、「可愛さ」からだ。

 「可愛い子には旅をさせろ」なんて言葉が日本にはあるが、どうやらこの世界にはそんな言葉はないようだ。

 私にはその辺の自由が認められるわけではないようだ。


「どうしてもお認めにならないというのですね?」

「……うむ……。練習相手には、最強の魔王軍の練習場でさせてやっているではないか……」


 そう。私はすでにこの歳で、魔王軍の最高幹部とともに練習をしている。もちろん、ライラも一緒だ。

 ただ、お父様はここでも分かっておられないことが一つある。

 私はすでに魔王軍幹部に手ほどきをしているレベルなのだ。

 すでにお父様の次と目されるナンバー2の魔族との勝負ですでに勝利を手にしている。

 まさかこんなところで、転生前の嫌々ながらやっていた武道が役に立つとは思わなかった。

 心技体なんて言葉がまさにそれ。

 魔王軍の攻撃は拙すぎる。

 ワンパターンとでも言うべきものなのだ。だから、私にしてみれば、何度か手合いをしているうちに、パターンを覚えてしまい、そのパターンに合わせた防御呪文を展開して、攻撃魔法やスペック上昇の補助魔法で戦略を立てれば、何も問題なく、勝利を手にすることができる。

 それに防御に関してもそうだ。もう少し、上手く避けたりとか、技で相殺するとかすればいいのに、残念ながら、魔王軍は直撃しか方法を知らない。

 頭を使って戦うべきだ。

 だから、私はその辺に関して指導を行っているくらいなのだ。

 つまり、この魔王軍の中でもはや相手にできるのは、お父様くらいだ。

 とはいえ、そんな簡単にお父様が相手をしてくれるとも思えないので、私は新たな対戦相手を考え出さなければならなくなった。

 そこで、外の世界にいる「精霊」に目を付けたのだ。

 精霊とは、草木、動物、人、無生物、人工物などひとつひとつに宿っている、とされる超自然的な存在であり、他にも「万物の根源をなしている、とされる不思議な気」のことを指したりもする。つまり、それぞれの精霊と戦って勇者とかは強くなって魔王に挑むんだから、私がその精霊と戦って強さを求めてもいいというもの。

 だからこそ、外出許可がどうしても欲しかったのだ。

 しかし、お父様は頑なに拒否を続ける。

 さすがにこの長いにらみ合いでも決まりそうにないので、ライラが傍に寄ってきて、


「エリザベート様、もうそろそろよろしいのではありませんか?」


 と、戦略的撤退を申し出てくる始末だ。

 私は頬を膨らませて、プイッとそっぽ向いて、玉座の間を後にするしかなかった。

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