付き合ってそうで付き合ってない友人たちを眺めている
くれは
決定的な変化はきっとまだ
英語の課題の話。明日あるという現国の漢字小テストの話。部活の話。
教室のざわめきの中、前の席の
「図書委員の当番て今日だよね」
「そう。これから」
「明日の放課後は時間ある?」
「あるけど。今度は何?」
「マンゴーとパッションフルーツのフラペチーノ」
その言葉を口にしながら、味を想像しているのか、
「良いよ」
「やった、楽しみ」
そんな他愛のないおしゃべり中、視線を感じてふと教室に目をやれば、ちらちらそわそわとこちらの様子を伺っている男子の姿が目に入る。
背だけはクラスの中でも高い方で、いつもやたらと大きな四角いリュックを背負っているけど、それ以外は地味な
わたしは
「
「そう」
屈託無く頷く様子に、やっぱりどこか変わったなと思う。
中学のときからずっと、ゲームは好きじゃないと話していた。教室で遊ぶようなトランプだとかウノだとかも避けていた。だから、高校でボードゲームを遊ぶ部活に入ることになったと聞いた時は驚いた。
その理由も「ちょっといろいろあって」としか話さないものだから、心配もしていたのだ。最初の頃は少し
それでも、一年経った今はなんだか楽しそうに見える。
「
わたしの言葉に、
「そうだね。最近は、ゲームも少し楽しくなってきた、かも。
その言葉の意味を捉えそこねて瞬きしている間に、
背の高い
それらは以前と変わらないようでいて、やっぱりどこか変わったように見える。
二人を見送った後、するりとクラスの男子が近付いてきた。
「なあ、あの二人、本当にまだ付き合ってないのか?」
「付き合ってないって」
単刀直入に聞かれたので、単刀直入に返す。
「前より距離感近くないか?」
「それは思う。だからわたしも聞いたんだ。そしたら」
一度言葉を切って、隣に立つ男子を見上げる。
「『そういうんじゃないと思う。だいたい、
そう言ったときの、
中学のときから
だというのに、
しばしの沈黙の後、男子が口を開いた。
「前と反応が違わないか?」
「違うね。一年のときは何を聞いても『そんなわけない』『全然ない』ってあっけらかんとしてたから。何か心境の変化があったんじゃないかって気はする。でも、付き合ってはいない」
「
「まあ、何かはあったのかもね。ただ、付き合うには至ってないだけで」
隣に立つ男子は教室の入り口を振り返る。もちろん、もうとっくに二人の姿はない。
「さっさと付き合えば良いのにな。デートもしてるってのに」
「デートじゃないらしいよ。それも部活の活動なんだって」
「休みの日に一緒に動物園に出かけるのの何が部活なんだよ、二人で新宿を散歩するのの何が活動なんだよ、それもうデートだろ」
「本人たちの認識の問題だね」
そろそろ図書委員の当番の時間だ。わたしはリュックを手に立ち上がる。
「まあ、友人としては、あんまり余計な手出しはせずに見守ることにするよ。本人たちは楽しそうにしてるし」
そう。本人たちが本当はどう思ってるのかはわからないけど、なんだか楽しそうにしているのは間違いない。だったら、できることは見守ることだけだ。
「いや、まあ、そうなんだけどさ」
男子は溜息混じりに髪の毛を掻き回した。もどかしい気持ちはわかるので、わたしは苦笑を返して、リュックを背負う。
わたしだってこの男子だって、二人の様子をもどかしく思いつつもなんだかんだ微笑ましく楽しく眺めてしまっているのだ。さっさと付き合えば良いのに、なんて言いながら、本当にそうなる姿は想像できていない。
それでもきっと、という予感はある。きっと、いずれは決定的な変化が二人にも訪れるんだろう。
だって高校生活は有限だ。誰だって変化しないわけにはいかない。それはもちろんあの二人のことでもあるし、それだけじゃない。みんな、わたしだって、何か変わっていってしまうのだと思う。
その変化がどんなものなのかは、まだ誰にもわからないけど。
図書室に向かいながら、
きっと、今日も明日もまだ変わらない。決定的な変化は、多分だけどまだ先の話。それでもいつかは変わってしまうという予感に、本当は少し寂しい気持ちになったりもするのだけど。
そんな気持ちも、夏らしいフラペチーノと一緒に飲み込んでしまおうと思う。
付き合ってそうで付き合ってない友人たちを眺めている くれは @kurehaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます