我妻さんは隣席のJKに今日も恋してる。

ぼるしち

episode.1 隣の席の結城さん

 うるさく鳴る目覚まし時計を止めて、跳ね起きる。

 「……寝坊した」

 わたし、我妻那雪の高校2年初日は幸先のいいスタートとは言えそうになかった。


 ********


「おはようございます……」

 息を切らしながらなんとかぎりぎり始業前の教室に駆け込む。

 (うわぁ……見られてる……?)

 みんなが一斉にこっちを見た気がするが、きっと気のせいだと信じることにする。

 机に鞄を置いて席に着くと、隣から声がかけられた。

 結城さんだった。


「おはよう、我妻さん」

「お、おはようございます……」


 少し緊張して返事をする。

 すると彼女は二カッと笑顔を浮かべて言った。

「今日も遅刻ギリギリだねぇ~? 朝弱いんだ?」

「そ、そうなんです……いつも日直の仕事とかで迷惑かけちゃって……」

「いやー全然大丈夫だよー! それよりいきなりなんだけど明後日の放課後空いてる!? クラスの親睦会的な感じでカラオケとか行こうかなって話してるんだけど、どう?」

「え!? あっ……ごめんなさい。そのっ……用事があって……」

「おっけーオッケー! また今度誘うよ! じゃあまた後でね!」


 そう言って彼女は自分の席に戻っていった。


 ********


 放課後、先生の話をノートにまとめていると、ふいに隣から話しかけられる。

 

「あのさ、我妻さんって部活入ってたりするのかな?」


 やっぱり隣の席の女の子、結城さんだった。


「いえ、特に何もやってないですけど……」

「ほんと!? よかったー!! 実は私陸上部に入っててさ、もし良かったら見学だけでも来てほしいと思って……ダメかな?」

「い、いえ、そんなことないです! むしろ嬉しいくらいっていうか……」

「やったー!!」


 嬉しそうにはしゃぐ彼女を見て、思わず笑みがこぼれる。

 結城さんはクラスのムードメーカーで、みんなから好かれる人気者。去年は隣のクラスだったから接点は無かったが、こんな子と仲良くなれたら楽しいだろうな、なんて妄想をしたことは何度もあった。それがまさか現実になるとは思わなかったけれど。


「それなら早速行かない? 顧問の先生にも挨拶したいしさ」

「はい……! よろしくお願いします」


 こうしてわたしは彼女の後ろについていく形で部室棟へと向かった。


 ********


「失礼します! 大泉先生ー! 見学の子を連れてきました!」


 ドアを開けるなり大きな声で叫ぶ彼女に連れられて、わたしも部室の中に入る。

 そこにはジャージ姿の男性が立っていた。

 

 「おお、来たか! こんにちは、君の名前を教えてもらえるかな?」

「あ、はい。わたしは2年の我妻那雪といいます。よろしくお願いします!」

「我妻さんは知らないよね、陸上部の外部コーチ、大泉先生だよ。我妻さんの話、何回かしたことあるから先生は知ってるんだけどね!」

「初めまして、大泉善郎だ。陸上初心者でも大歓迎だから、気軽に遊びに来てくれよ!」

「ありがとうございます、よろしくお願いします……!」

「よし、じゃあそろそろ練習始めるぞ! 準備が終わったらグラウンドに来てくれ」

「はい! わかりました。行こう、我妻さん」

「はい!」

 

 ********


 それから1時間ほど、わたしたちはトラックを走っていた。

 最初はゆっくり走っていたが、徐々にわたしが慣れてきたからか、結城さんはだんだんとペースを上げていった。たぶん、これが彼女のいつものペースなのだろう。

 そして最後の一周にさしかかった時だった。

 

「我妻さん、ラストスパートかけるからついて来て!」

「はい……っ!」

「うぉりゃああぁぁぁぁ!!」

 彼女はぐんっと加速して、一気にトップスピードまで持っていく。

(すごい……!)

 一瞬にして置いて行かれた。

 しかし、ここで諦めたくはない。

 なんとか食らいつくように走る。

 その時、ゴール直前で結城さんの足がもつれたのかバランスを崩した。

「危ないっ」

 とっさに身体が動く。

 気がついた時には、結城さんを庇うようにして地面に転がっていた。


 ********


「大丈夫ですか!?」

 慌てて駆け寄ってくる他の部員たち。

「うん、私は平気……我妻さんこそ怪我してない?」

「はい、なんとか……」

 起き上がって砂ぼこりを払う。

「我妻さん、本当にごめん! 私がいいとこ見せようとして無茶しちゃったから……」

「そんな、大丈夫です……! それよりぶつけた所、冷やさなきゃ」

 申し訳なさそうな顔をする結城さんに笑顔で返す。

「ほ、本当? よかった、ありがと……!」

 彼女は安心したような笑みを浮かべた。

 (この子、すごくいい子だ……それに、わたしにかっこいい所を見せたいって思ってくれたんだよね、嬉しい)

 そう思うと、なんんだかくすぐったい気持ちになった。

 

 水道でぶつけた所を冷やして、結城さんが慣れた手つきで足首にテーピングをしてくれる。

「はい、これで大丈夫だと思うよ! 本当にごめんね、私ももっと気をつけなきゃだね」

「おーい、2人とも大丈夫かー?」

 遠くの方からこちらに声がかかる。

 見ると、顧問の先生がこちらに向かって走って来ていた。


「あっ先生! 大丈夫です!!」

「だ、大丈夫です!」

 同時に叫ぶ。おかしくて、思わず顔を見合わせて笑った。


 ********


 帰り道、わたしは結城さんと並んで歩いていた。

「今日は見学に来てくれてありがとう。楽しかったし、いい経験にもなったよ! 感謝だねー!」

「わ、わたしもとっても楽しかったです。ありがとうございます」

「そう言ってくれると嬉しいなー! あ、そうだ! 連絡先交換しようよ。また一緒に走ろう!」

「……はい! ぜひ!」

「やった、約束だよ? えっと……はい、これ。私の連絡先ね! じゃ、私こっちだから、また明日ねー!」

「はい、また明日……!」

 結城さんは手を振ってくれたが、わたしはなぜかどぎまぎしてしまって、軽く会釈をしてその場を去った。


「また明日……これって結城さんと友達になれたってことでいい……のかな」

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我妻さんは隣席のJKに今日も恋してる。 ぼるしち @bolushichi

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