第232話 「セ◯クスする気だっ!!!」


 探索者初心者講習とは、探索者としての心構えやギルド規約、あるいはこの業界での暗黙の了解や慣習などなどを、ギルドに登録したばかりの新人たちへ教育するための場である。


 通常、探索者などというヤクザな稼業に就く者は荒くれ者と相場が決まっている。そのため、講習の講師には探索者上がりのギルド職員――それもできるだけ強面の者に割り振られることが多い。それは良く言えば意気軒昂な、悪く言えば生意気な新人たちに舐められないための処置である。


 とはいえ。


 とはいえ、だ。


「まさか、講習に集まった全員が乱闘騒ぎを起こすなんてのは、そうそうあることじゃねぇんだがな」


 部屋の前方に立った禿頭の大男が、若干の呆れを滲ませながらそう言った。


 そんな男の話を聞くのは、部屋の前方の席に並んで座らされた、アーロン含む五人の少年たちだ。


 全員、白熱した討論会によりその顔は腫れ上がっているが、仲良く右の頬だけが一際大きく腫れていた。


「お前らみたいなバカは、滅多にいねぇぜ」


「だぼれがヴぁがだ」


「何言ってっか分かんねぇよ」


 アーロンが反論したが、その声ははっきりとはせず、聞き取れなかったようである。


 大男は一つ大きなため息を吐くと、頭を振って言う。


「あのなぁ、少しは仲良く……いや、仲良くしろとは言わんが、講習の時くらい大人しくできねぇのか。お前ら全員、帝国の孤児組なんだ。境遇はだいたい同じだろうが」


「「「!?」」」


 大男の言葉に、アーロンたちは思わず、その腫れぼったい目を見合わせた。


 その理由は、「帝国の孤児組」という言葉だ。


 それが何を指すのかと言うと、意味するところは単純で、老龍ウルプストラの死を端緒とするオークのスタンピードにより、孤児となってネクロニアへ流れて来た者たちのことを指す。


 数年前から、そういった帝国出身の孤児たちが探索者になるというのはよくあり、ギルドでは彼らを指して「帝国の孤児組」と呼ばれるようになっていた。


 とはいえ、講習に参加した者がたまたま全員「帝国の孤児組」だった、なんていうのは流石に珍しい……かと思えば、実はそうでもない。


 身寄りを失った彼らが探索者になるというのはよくある選択で、その日の講習参加者が「帝国の孤児組」だけだった――ということも、頻繁ではないが珍しくないほどにはあったのだ。


 だが、実際に自分たちが同じ境遇だと言われれば、思わず親近感も湧いてくるというもの。


 アーロンはそれとなく少年たちの顔を見回して、思った。


(こいつらも、あのスタンピードを経験して、家族を喪ってるのか……)


 あの地獄のようなスタンピードを生き抜いて孤児となり、自分と同じように探索者となる道を選んだ。そこには、相応の悲劇と苦労があったはずだ。そのはず、なのに……。


(あの悲劇を経験しても、こんな阿呆面さらして、能天気に生きている奴らもいるんだな……)


 それは一種の衝撃であったのかもしれない。


 顔も言動も知性の欠片も感じられないバカな少年たちではあるが、だからこそ、自分のように過去に引きずられず、前を向いて生きているように思えたのだ。


 アーロンは彼らに、繊細な自分とは違う、そんな精神的な強さを感じていた。


 一方、少年Aもアーロンたちの顔をそれとなく見回し、思う。


(俺と同じように、こいつらもあのスタンピードで……。でも、そうとは思えないくらいのバカ面ばかりだ……。言動もバカそのものだったし……だけど、その分、強く生きているのかもな……)


 少年Aはアーロンたちに、心が敏感な自分とは違う、精神的な強さを感じていた。


 一方、少年B、C、Dも自分以外の面々をそれとなく見回して、思った。


(((このバカ面でこいつらも……それに比べて、俺は……)))


 彼らは賢いゆえについつい考え込んでしまう自分とは違う、粗雑ゆえの精神的な強さを自分以外の者たちに感じていた!!


「まあ、とにかく……講習は大人しく、真面目に受けろよ? ふざけてっと容赦なく探索者資格取り上げるからな!」


 そうして講習は始まった。


 大男にぶん殴られて今の自分たちでは勝てないと悟ったアーロンたちは、今は雌伏の時だとばかりに、大人しく講習を受けた。


 そして、数時間に及ぶ講習が終わる。


「まあ、こんなところか……他に言っとくことはー…………ああ、そうだ、お前ら」


 全ての講習内容を履修し終え、あとは帰るばかりとなった頃、大男は思い出したとばかりに聞いた。


「事前の資料では、まだパーティー申請をしていねぇようだったが、どうすんだ? もちろん、組むあてはあるんだよな?」


「「「…………」」」


 大男の言葉に、互いの顔を窺うようにしながらも、沈黙を保つアーロンたち。


 実のところ、全員、パーティーを組むあてなどなかった。しかしながら、そんなものはこれから見つければ良いだけだ――というのが、共通認識である。


 それは間違いではない。多くの新人探索者たちも、講習を終えた後にギルド内でパーティーに入れてくれるところか、新たなパーティーのメンバーを見つけるのが通例だ。ギルドに登録する前からパーティーメンバーが決まっている者たちもいないではないが、それは全体から見れば少数派であった。


 だからアーロンたちがまだパーティー申請を出していないのは、何もおかしなことではない。


 ――少し前までは。


 大男は言う。


「さすがに知っているかと思うが、数年前から探索者は増加傾向にある。お前らと同じ孤児組の新人がだいぶ多かったからな。んで、その影響で一年くらい前からか? 既存のパーティーはメンバーがすでに飽和状態だ。空きのあるパーティーはほとんどないままでな。今から新人を入れてくれるパーティーなんてのは、伝手でもなけりゃあ、なかなか見つからねぇのが現状だ」


「「「…………!?」」」


 沈黙するアーロンたちの顔に、微かな驚愕が浮かぶ。


 そんな話は聞いていなかったのだ。事前に探索者ギルドの内情を調べていれば簡単に分かる話ではあったが、彼らは誰も調べてなどいなかった。


 しかし、大男はアーロンたちの驚きに気づいた様子もなく先を続ける。顔面がボコボコに腫れ上がっているため、微かな表情の変化など分からなかったのだ。


「つまり、お前らがパーティーを組むには、自分たちでパーティーを結成するしかねぇわけだ。まさかソロで活動しようなんてバカな奴は……さすがにいねぇよな?」


「「「…………ばいっ!」」」


 アーロンたちは互いの顔を見合わせた後で、しっかりと頷いた。


 実のところ全員がメンバーが見つからなかったらソロで良いかとも考えていたのだが、新人がソロで探索するなど積極的な自殺行為でしかない。おまけに大男にバカと思われるのも癪なので、全員が見栄を張った。


「まあ、そうだよな。さすがにソロで大丈夫とか思うほど、お前らもバカじゃねよな」


「「「ばいっ! ぞうでずっ!!」」」


「んじゃあ、講習はこれで終わりだ。迷宮に入る前に、パーティー申請はちゃんと出しておけよ? では、解散!」


 そう告げて、大男は部屋を出ていく。


「「「…………」」」


 アーロンたちもなぜかぞろぞろと連れ立って、部屋を後にし、階段を降り、一階のギルドのロビーを抜けて、外へ出た。


「「「…………」」」


 そうしてそれぞれが帰路に着くため、別々の方向に歩き出す――――こともなく、なぜか、ギルドを出たところで立ち止まった。


「「「…………」」」


 全員、分かっていた。


 今からパーティーメンバーを探すのは、容易ではないと。しかし、お誂え向きに手頃な人材が、今、この場には揃っていると。


 互いに、何かを探るような視線と沈黙が交錯する。


 最初に口を開いたのは、少年Aだった。


「ヴぉい、じょっど、ヴぃいか?(訳:おい、ちょっと、良いか?)」


「「「…………」」」


 他の四人は、無言で頷いた。



 ●◯●



 場所は移り、探索者ギルド近くの安酒場にて。


「ご注文は?」

「「「みじゅで(訳:水で)」」」

「……他には?」

「「「ヴぃじょうで(訳:以上で)」」」

「……チッ、貧乏人どもが……」


 酒場のウェイトレスに悪態を吐かれながらも、一番安い水だけを注文して、テーブル一つを占拠したアーロンたち。


 彼らは注文した水が届くのを待ってから、話し始めた。


「ばあ、ぜっがくであっだんだ。じこじょうがいでも、ずるが?(訳:まあ、せっかく出会ったんだ。自己紹介でも、するか?)」


 少年Aが口火を切り、アーロンたちはそれぞれに名乗り合っていった。


 彼らの名前は以下の通りだ。


 少年Aの名前は、リオン。ジョブはアーロンと同じ『初級剣士』。

 少年Bの名前はジャック。ジョブは『初級槍士』。

 少年Cの名前はライアン。ジョブは『初級弓士』。

 少年Dの名前はルイス。ジョブは『初級火術師』。


 彼らは全員、アーロンと同じ孤児だった。それぞれが身の上話をすると、やはり、全員が似たような経験をしていた。すなわち、スタンピードで家族を喪った者ばかりだ。親だけでなく、兄弟も親戚もいないという点まで、同じだった。


「「「…………」」」


 ここまで境遇が似通うことなど、さすがに珍しいと言うしかない。


 だが、彼らは珍しいだけではなく、何となく運命染みたものを感じていた。視線を交わし合う全員が、何を思っているかが自然と分かってしまった。


「なあ――」


 誰が最初に言うのか? 探り合うような沈黙の果てに、提案したのはリオンだった。


「ぼれだち、バーディー、ぐまないが?(訳:俺たち、パーティー、組まないか?)」


「「「…………」」」


 他の四人が顔を見合わせ、そして最後にリオンを見返した。


「「「ヴぃぎなじっ!!(訳:異議なしっ!!)」」」


 ボコボコの顔に笑みを浮かべながら、全員が頷いた。


 これが≪栄光の剣≫結成にまつわる出来事である。


「チッ! チッ! チィッ!! アンタら! 早く帰ってくれないッ!?」


 そして水だけで二時間以上もテーブルを一つ占拠していたアーロンたちに、舌打ちの鳴り止まないウェイトレスが遂に痺れを切らして怒鳴った。



 ●◯●



 ここから、アーロンが抜けるまで、彼らは共に活動することになる。


 その間、喧嘩など色々あったが、彼らは急速に友情を深めていった。それこそ、もう何年も付き合いのある、幼い頃からの友人同士のように。


 それというのも、全員の境遇が同じゆえの親近感も、もちろんあっただろうが、一番の理由は「自分以外」の全員がバカであったことだ。


 大変な出来事を経験しても、笑って生きている者がいるというのは、同じ経験をした自分たちにとって、勇気を与えてくれることだった。彼らは自然と、互いに互いを励まし合うような関係だった。


「だが――」


 と、フィオナに過去を話してくれたリオンは言った。


「俺たちと活動する内に、アーロンの奴も確かによく笑うようになったよ。でも、アイツだけは俺たちよりも残酷な経験をしてたんだろうな。アイツの戦い方は、まるで死に急ぐみたいな危なかっしいものに見えた」


 結局、アーロンから自罰的な意識が消えることはなかった。


「自分を試すみたいに、敵の攻撃に身を晒して、ぎりぎりで避ける……みたいなことが多かった」


 アーロンがパーティーを抜けるきっかけとなった、ミノタウロスとの戦いでもそうだった。まともに喰らえば一撃で死に至るような戦斧の攻撃に、アーロンは自分から突っ込むように飛び込んでいき、そしてぎりぎりで回避した。


「結局アイツは、【スラッシュ】しかスキルを修得しなかったんだが、それでも、パーティーを抜けるまで、俺たちの誰よりも強かったよ」


 身を晒さなくても良い死線に自ら飛び込んでいくからこそ、アーロンの戦いにおける度胸やセンスは、リオンたちよりも磨かれていった。


「フィオナちゃん、アイツの強さの根幹は……オーラを精密に、緻密に制御できることじゃないんだ。何度も死線を潜り抜けて、たまたま生き残ることができたから、結果的に強くなっただけだ。アイツが今くらい強くなるには、才能じゃない。努力だけでもない。運、としか言い様がない何かが必要だったんだ」


 そしてパーティーから抜けた後、低階層を彷徨きながらも、アーロンの戦いはさらに苛烈さを増していった。


 自分自身に意味のない自死を許さないアーロンは、確かに安全マージンを取って、比較的弱い魔物とだけ戦い続けた。


 しかし、ほぼ毎日、魔力が尽きるまで戦い続けるのである。低階層とはいえ、命の危険がないわけがなかった。高位の探索者にとっては地味な戦いで理解しにくいだろうが、その頃のアーロンにとっては確かに、毎日毎日、生きるか死ぬかのサイコロを振り続けるような日々だったはずだ。


 それは決して金のためだけにできることではない。


 やがて【スラッシュ】というスキルをオーラの制御によって拡張・変化できるようになったアーロンは、一人で迷宮を進んでいった。


 命の危険を感じられなくなった低階層から、より深い階層へと。


 そして進む度にアーロンはサイコロを振り、生き延びるという出目を出し続けた。ずっと程々の階層にいれば、そんなサイコロなど振る必要はないというのに。


 もしもアーロンと同じ戦い方を同じだけすれば、ほとんどの者は間違いなく死ぬだろう。だが、生き残ることができたなら、必然的に、誰もがアーロンと同じくらいの強さを手に入れられるのではないか?


 極々々、低確率の話だが。


「俺はたまに思うんだ。もし運命を司る神なんてものがいるんなら、アーロンはそいつによって生かされているんじゃないかってな……。理由? 理由は、そうだな……強くするため、とか?」


 そんな戯れ言を口にして、リオンの話は終わった。



 ●◯●



 ――そして全ての話が終わった。


「フィオナさん、アーロンに伝言を頼めませんか?」


「伝言、ですか?」


 孤児院の一室で、知る限りのアーロンの過去を、話し終えたオーダンがフィオナに言った。


「はい。……あの子は定期的に、この孤児院へ寄付をしているんですよ。一応、銀行から匿名での寄付になっているんですが、金額が金額ですから、以前、誰が寄付しているのか、調べてもらったんです。それでアーロンには、もうずいぶん寄付金が貯まっているから、これ以上は必要ないと、あとは自分のためにお金を使ってほしいと、そう伝えてください」


「……えっと…………はい、分かりました。伝えます」


 オーダンの言葉に、どこか気まずそうにしながらフィオナが頷く。


 そんなフィオナの態度に疑問を持ったオーダンが尋ねた。


「どうかされましたか? 何か、気になることでも?」


「いえ……そういうわけではなくて、あの、これを……」


 そう言って、フィオナはストレージ・リングから取り出した小袋をオーダンの前に差し出した。


 中にはそれなりの金額が入っている。言うまでもなく、孤児院への寄付である。


 寄付をするなという伝言を頼まれた後で、自分が寄付をすることが気まずかったのだ。案の定、オーダンはフィオナの寄付を断ろうとした。


「フィオナさん、お気持ちはありがたいのですが――」


「いえ、これは今日のお話のお礼です。お時間をとらせてしまいましたから。受け取ってください」


 フィオナは断固として差し出した。


「それに……私もオーダンさんには感謝していますから」


「はて……?」


「アーロンを、助けてくださったことです」


 真っ直ぐに目を見つめて、素直な微笑みと共に告げる。


 そのあまりにも綺麗な微笑みに、オーダンは断りの文句を飲み込むしかなかった。


 一つ息を吐き、苦笑を浮かべて小袋を受け取る。


「…………そういうことならば、これは、ありがたくいただいておきましょう。ありがとうございます、フィオナさん」


 そうしてフィオナとルシアは、孤児院を後にした。


 その帰り道、ルシアと手を繋いで歩きながら、フィオナは改めてアーロンの過去について、頭の中で想いを馳せる。


 聞いた話を何度も反芻しながら、アーロンに言うべきこと、自分のするべきことを決めて――――足を止めた。


「ん? フィオナ、どうしたの?」


 突然立ち止まったフィオナを見上げて、ルシアが不思議そうに首を傾げた。


 対するフィオナは、決意を秘めた眼差しを向けて、ルシアに言う。


「ルシア、今日は、アロン家で過ごしてくれない?」


「……えっ!? な、なんで!?」


 突然の話に、ルシアはひどく狼狽する。まさか自分が邪魔になったのか、あるいは嫌われたのかと心配になったのだ。


 しかし、そうではなかった。


「アーロンと二人で、大事な話をしたいの」


「だいじな話……?」


 真剣なフィオナの表情に、どうやら自分が邪魔なわけでも、嫌われたわけでもなさそうだと安堵する。しかし、同時に拭いえない疑問も浮かんできた。


「それって、わたしがいたら、できない話? べつにひとりで、さいしょに寝ててもいいけど?」


 自分が寝ている間に、二人で話せば良いのではと提案する。


 だが、それではダメらしかった。


「えっと、その……こっ、子供には聞かせられない話なのっ!」


 顔を真っ赤に染めてフィオナは言う。


 妙だな……と、ルシアは疑念を持った。


(むぅ……フィオナは、わたしの精神がスーパーおねえさんであることを知っているはず……なのに、こどもには聞かせられないということは……もしかして、わたしのなかのアイクルをきにしている? いや、それでも……)


「……わたしが寝てても、だめなの?」


 寝ていれば別に構わないのではないか、とルシアは反論した。


「だ、だめよ!」


「……なぜ?」


「そ、それは……その……と、途中で起きちゃうかもしれないから……」


 これはいったいどういうことだと、ルシアの疑念はますます深まる。


(途中? なんの途中? はなしの途中ってこと……? わたしが起きたら、なにかまずいの?)


 考えたところで、一向に答えは出ない。ゆえに、率直に聞いてみた。


「……わたしが起きたら、どうしてだめなの?」


「だ、だから……それは……こ、声が……」


「声が? 声がどうしたの?」


「こ、声が……聞こえちゃうかも、しれないでしょ……?」


「……?」


 声が聞こえたら何だと言うのか。ルシアの疑問は深まるばかりだった。


 しかし、続くフィオナの言葉で、疑問は徐々に氷解していくことになる。


「その……声とか、音とか、色々聞かれたら……恥ずかしいじゃない……!!」


「はずかしい……? フィオナの声は、べつにはずかしくない」


「そ、そういうことじゃなくて……!! わ、私が恥ずかしいのっ! ……あの、そういう声とか……聞かれたくないでしょ……?」


「そういう声……?」


「だ、だから……!! ~~~~っ!! もうっ! だから! あ、ぁぇぎ、声よ……!!」


「……? ……なんて?」


「~~~~っ!! あ、喘ぎ声って言ったのっ!!」


「「「――――!!?」」」


 そこは街中の通りである。当然、フィオナたち以外にも通行人はいて、突然のフィオナの大声に何事かと視線が集中した。


「――――っ!!」


 一方、ルシアもフィオナの言葉に驚愕する。


 脳内を走るインパルスはフィオナの言葉とルシアに宿る幾つもの記憶と結びつき、たった一つの真実を暴き出す!!


 全て、分かったのだ……。


 ルシア・アロン。見た目は子供、頭脳も子供。しかしてそこに宿る精神は、人類史上他に類を見ないほどのお姉さんだ。判然としないフィオナの話を読み解き、その意味するところを推測するのは、彼女にとって至極容易だった!!


 ルシアは脳内で導き出された答えに驚愕し、思わず目を見開いて、フィオナを見上げる。




(――――セ◯クスする気だっ!!!)




 それはまさに、完璧な答えであった。


(そ、そうか……!! フィオナはアーロンとセ◯クスするつもりだから、わたしをアロン家に泊まらせようとしたんだ……!! セ◯クスするつもりだから、わたしが家にいるとこまるんだ……!! セ◯クスするつもりだから、わたしが起きちゃったときに声とか音とか聞かれるんじゃないかって、心配なんだ……!! そして起きたわたしが声とか音をふしぎに思って、ふたりがセ◯クスしてるところに来ちゃうんじゃないかって、心配してるんだ……!!)


 全て、完全に理解したルシアは、あわあわと両手を彷徨わせながら、フィオナに頷いてみせた。


「わ、わわ、わかった……!! わたし、きょう、ゼファーちゃんのところ、泊まる……!!」


「う、うん……わ、悪いけど、お願いね……?」


 顔を赤くしたフィオナはそう言って、ルシアと手を繋ぎ直すと、再び歩き出した。


 こうして、家に帰ったルシアはアーロンに、今日はアロン家に泊まることにするとそれとなく伝えて、転移で移動することになった――。



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