第38話 赤い糸の強度
船長も頭を抱えた。言うことも同じだ。
「面倒なことになったぞ、サヨコ君。なんなのだ地球人というやつは。どいつもこいつも勝手なことばかりしやがる。困るんだよ。そうだろ、サヨコ君」
そう言って目をやると、サヨコはどこから調達してきたのか、ホワイトボードなどを持ち出して、そこに現状の相関図を書いていた。高橋、長谷川、十三号が、三角形となり、矢印を行き交わせている。サヨコは長谷川から十三号へと伸びている矢印に、ハートマークを書いて、ペンを置いた。「こういうわけですね」
「なんだその愚にもつかない三角形は。不毛だよ、徒労だよ」悔しそうにホワイトボードを睨んでいた船長は、負け惜しみのように、「まあ、いくら長谷川が十三号にお熱でも、我々には差し障りはないがな」
「なに言ってんですか。差し障りありまくりですよ。そんなことも分からないから、船長はダメなんですよ。てんでダメなんですよ、まるでダメなんですよ」
「たまには口をつつしんでくれ」
「いいですか、恋の相談というものは、男女をかなり親しくするんです。頻繁な連絡、共通の目的、密やかなやりとり、それは恋愛感情にすり替わりやすいんです。「あーあ、あんたを好きになれば良かったな」「……えっ?」ドキッ。二人で会う目的が段々変わっていって、そのうちに……あ、そうだ、マンガ読も」
「急にっ?」
マンガを読みはじめて静かになったサヨコをよそに、船長は腰を上げ、ホワイトボードの前に立った。確かにサヨコの言うように、この三角形で一番活発な辺は、高橋・長谷川ラインだろう。そして何かの間違いで、高橋と長谷川が恋仲になってしまえば、もう島村の出る幕はなくなってしまうのだ。
ではその島村の位置はどこだろう。船長はペンを手に取り、キュッとそれを記した。長谷川から伸びた場所だ。三角形から離れた点。それが島村だった。船長はその島村から高橋へと、長い線を結んだ。この線に名前をつけたい。
「……むむむ」
考えたすえに船長が書いたのは、「他人」だった。
「ふむ……」
「船長」いつの間にかサヨコがホワイトボードを見ていた。「他人だったら、相関図に線を引く必要がないと思いますけど」
ハッと気が付いた船長は、頬を赤らめた。
「出ちゃったよ、私の天然が。フフフ」
「気持ちが悪いです」
「なんだよ~」船長はすねる。「天然って喜ばれるんじゃないのか。魚類だとそうだろ」
言いながら、島村と高橋をつないだ線はさっさと消された。「そうだ」そこでちょっとしたことを閃いた船長は、赤色のペンに持ち替えて、再び高橋と島村をつないだ。
「こういう風に、赤い糸で結ばれた関係。我々はそれを信じて作戦を立てるべきだな」
うんうん、と一人で頷く船長。
「船長」
「なんだね。私の言葉に感動したのかね」
「そのペン、油性です。消えませんよ」
「えっ? 嘘だろ?」
慌ててこすってみるものの、本当にそれは油性ペンで、その線だけ消えなかった。
ホワイトボードには、誰かと誰かの赤い糸が、忘れられたように虚しく残った。
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