第14話 夜の街にて

 居酒屋のそばのバス停で、十三号と高橋は別れた。

 高橋はぐでんぐでんに酔っていて、バス停の看板に絡み付き、

「山田はほんと、アレだよなあ、真面目っつーかなんつーか、いや、俺はさ……」

 そんな風なうわ言を際限なく呟いていたが、やがてバスが来ると、「乗りまーす」と不必要に手まで上げ、ふらつく足取りでそれに乗って帰っていった。

 さて、ぽつねんと一人になった十三号、夜の街を彷徨う。

 十三号には帰る家などないのだ。これまでの夜は、適当なアルバイトをして時間をつぶしていたが、この度の就職により、すべてのアルバイトを辞めてしまった。つまり、これから明日の朝の出社まで、なんにもやることがなかった。このままここで、ずっとぼーっとしているのは目立って仕方がないので、十三号は深夜の街を彷徨い歩くことにした。

 閑散とした大通り。夕日のようなオレンジの街路灯。どこかで聞こえるパトカーのサイレン。十三号は一定の速度で歩いた。目的もなく歓楽街に足を踏み入れる。ネオンに染まる十三号の顔の、なんと男前だったことか。客引きの下卑た声、はしゃぐ若者の笑い声、通り過ぎる人物の会話の断片。桃色の看板も、ヤクザ者の行進も、酔っ払いのいざこざも、十三号には全てが無縁で、全てに無関心だった。

 歓楽街を抜けて、駅前に出てきた。

 その広い道を歩いていると、一人の女性とすれ違った。十三号は、はたと立ち止まり、くるりと振り返った。すれ違った女性も、同じように反応していた。二人は目を合わせ、見つめ合ったわけだ。互いに「……」といった、何かを通信するような、共鳴するような間。二人の距離はおよそ三メートル。

「七号」

 と、十三号が呟いた。

「ええ、わたしは七号。あなたは?」

「十三号だ」

「そう」

 ドラマのように見つめ合う二人の横を、ヘッドライトが過ぎていった。

 相手の女性は、たいへんな美人だった。ゆるいパーマをかけた長い髪、愛らしい顔立ちは、作り物のように美しかった。

 そう、その人は島村の同僚の鈴木だった。

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