第24話  ヨハンの執着

カトリーヌと出会ったのは、父の付き添いでダラス国に行った時だった。


まだ幼さの残る少女が、庭の隅で泣いていたのだ。


「どうしたんだ?」


「私、私……死にたくない」


それがカトリーヌだった。あまりの美しさに一瞬で心を奪われた。自分は悪役で早世すると呟いている。帝国から持ってきた香を嗅がせて落ち着かせれば安心したようにへらりと笑った。


「カトリーヌ様! 妃教育にお戻りください! どこですか?!」


「はい! おります! お待たせ致しました!」


「まったく、サボるなんて許されませんわ!」


「え……さっき休憩だって……」


「お黙りなさい! ちょっと成績が良いからと調子に乗ってはいけませんわ!」


なんだ、この扱いは。しかし妃教育を受けているなら王子の婚約者か。ちっ……。


あれから僅かな期間で調べ尽くし、カトリーヌの扱いを知った。もう一度会いに行けば、まるで初対面なのような顔をしていた。どういうことだ?


ますますカトリーヌが気になったので、父と相談してカトリーヌの執事になった。王子は何人も居るから気楽な立場で助かった。そのかわり、仕事は必ずするように言われたから、表に出ない仕事はさせられた。執事をしながらは大変だったが、すぐに慣れた。新しくできた弟もなかなか可愛かった。


カトリーヌは私と出会った時に泣いていた事を覚えてないようだ。悪役とは何かと聞いても、いつものように笑うだけ。


彼女が言っている意味が分かるのは、カトリーヌが窓から飛び降りようとした時だった。


おそらく、飛び降りようとしたショックではっきり記憶が蘇ったんだろう。前世もちは、帝国の図書館にある本で読んだから存在は知っていた。大抵予知能力を持ち、はっきり思い出すまでは記憶が飛びがちだと書いてあった。この国では予知能力の事は知られているが、前世の記憶がある者が現実に存在すると知っている者は居ない。


前世の話をしても、おとぎ話や戯言として扱われるだけだからな。


だが、帝国では貴重な人材とし扱われる。父がカトリーヌの執事になる事を認めてくれたのも、オレがカトリーヌを捕まえられたら帝国の利益になるからだ。


ま、オレはそんな父の思惑すらも利用したんだけどな。カトリーヌさえ手に入れば、それでいい。


カトリーヌの前世の記憶によると、カトリーヌ死ぬらしい。そんなの許さない。絶対に止めてやる。だが、予知は大抵当たる。


だからオレは必死で考えた。


カトリーヌも、あのキャシーというお花畑も、最後はキャシーが誰かと結婚して終わりだと言っていた。


だったら、結婚させればいい。


オレはゴメンだし、クロードもルシアンもダメだ。だから、ルバートとキャシーをくっつける事にした。


カトリーヌは国外追放されるらしいので、ちょうどいい。追放されて死んだと見せかけるだけで充分条件は満たされるし、予知は完成するだろう。


だからオレは、カトリーヌを探しに来た騎士の前で泣きながらカトリーヌが居なくなったと訴えた。数日後、ボロボロのドレスを見つけさせたから、しばらくは誤魔化せるだろう。


その間に、キャシーの結婚式は終わった。これで、カトリーヌが怯える事はない。


よく泣いていたカトリーヌだが、今は泣くことは滅多になく、よく笑う。


「ヨハン、大好きよ」


彼女の笑顔を見ていると、オレも幸せな気持ちになる。もうゲームの呪縛はない。

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妹と婚約者の関係にキレて飛び降りようとしたら、私は悪役令嬢だと思い出しました 編端みどり @Midori-novel

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