第23話  ルシアンの宝

「ローザ! ローザ!」


「おかえりルシアン。そんなに急いでどうしたの?」


今日は、ローザの誕生日だ。急いで帰るに決まっているだろう。しかも、今日は夫婦になって最初の誕生日なのだから。


「ローザ、誕生日おめでとう」


ローザの好きな薔薇の花束と、宝石をあしらったブレスレットを手渡すと、ローザは嬉しそうに笑った。


こんな幸せな日々が送れるのも、カトリーヌのおかげだ。ヨハン王子によるとカトリーヌの予知がなければローザは死んでいたそうだ。


ローザが死ぬなど、考えただけでゾッとする。


だから、王子の作戦にも協力した。ローザ以外に愛を語るなど寒気がしたが、帰ってからローザを抱きしめる事でなんとか耐えた。恩を返さないなどありえないからな。


そろそろ限界だった頃、ようやく卒業パーティーが行われた。僕はローザと過ごせたから良かったけど、クロードは大変だったみたいだ。


「……ん? 手紙か……」


帝国から? ヨハン王子だな。開封してみるととんでもない事が書かれていた。ローザを襲った男は処刑される筈だったんだけど、ヨハン王子が引き取りたいと言って連れていったのだ。その男から、証言が取れたらしい。


帝国の機嫌を損ねたくない王家はあっさりヨハン王子の要求を飲んだ。


「こーゆーとこが、ダメなんだよね。ちゃんと法が決まってれば、法を理由に断れるし相手も納得する。うちの国は曖昧で国王陛下のご機嫌次第な事が多すぎるよ。だから、ルバートに囁くだけでカトリーヌを国外追放できちゃうんでしょうに」


クロードはそう言ってぼやいていた。

手紙には、ローザを狙った男が正常に戻り証言が取れたと書かれていた。……黒幕が、キャシーだと?!


許さない。絶対に。


僕は持てる全ての権力と人脈を使い、ルソー公爵家を訴えた。


「ルシアンは人望があるからね。温厚なルシアンが訴えるなんて余程の事だと思ってるみたいだよ。王家でも重くみてるから、もう終わりだよ」


結局、キャシーとルバートは幽閉された。本当はキャシーは処刑したかったけど、クロードからルバートの為にキャシーを殺さないでくれと頼まれた。


「法が曖昧なのを変えようとしてるのに、俺がこんな事頼むのはダメなんだけど、多分キャシーが居なくなるとルバートも死んじゃうと思うんだ」


悲しそうなクロードを見ていると、了承せざるを得なかった。我が国の貴族同士の争いに限るが、訴える側が罪の重さを決めるのは、やはりおかしい。我が国の今後を考えると、法が整う事は必須だ。


「ローザ……愛してる」


「私もよ。ルシアン。愛してるわ。あ、お腹が動いた……。ふふっ、この子もお父様が好きみたいよ」


もうすぐ僕は父親になる。この子の為にも、より良い国にしてみせる。

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