文字ラジオ#2
色々な表し方があるけれど、僕は自分の声で発表することを望んだ。僕の人生は一九九四年に始まったということになっているけれど、本当は二〇一九年に始まった。経緯を思い出してみよう。
確か二〇一九年の十二月だったと思うけれど、双極性障害の二型に診断された。この診断は僕にとってはとても大きな意味を持つもので、感情が下向きにぶれる鬱の状態のみならず、感情が上向いて活動的になる時期ですら、病的なものであるということを医療に宣告されたので、人生の指針を失ったような気がした。とにかく元気を目指せばいいということではなくなったのだ。
ずっと救済を求めている。救い、というのは、この場合、うつ病が治ることを指す。薬に縋っている時期もあった。環境を変える試みは何度となくした。鬱はマシにならなかったが、透徹としか言いようのない視野は身についた。視野、というか、視線かな。どういうことか。まっ、病を得た意味などないのだということに尽きる。ここまで生きてきて何度も鬱になった。その経緯に意味はなく、たまたま偶然そうなった、という受け入れ方をする。
人生をそのように諒解した後、逆説的に他人の人生のドラマに強い関心を惹かれるようになった。
恋愛について語ろうと思って録音を始めたけれど、とにかく外に出すと差し障りのある話が多すぎる。本当の打ち明け話は全部Tにしたので、気になる人はTに聞いておいてほしい。
長らく僕は恋愛に興味がない人だと思われていたように思う。まあある意味では間違っていなかった。僕は自分の性欲のあり方というものをうまく整理して理解しておらず、そして今もなお一人でいる時の対処の仕方しか知らない。恋愛関係を他人と結ぶということについて何も知らなかったので語ることはなかった。憧れはあったけど気恥ずかしさが勝って何も語らなかった。
もちろんまともなパートナーを得てもなお、病に苦しむ人というのはいる。
でもそれはこう僕にとっては、どうだろう、あまり、意味がある情報ではなく、たとえば病が治ってさえも人生はつらいということを誰かに言われたとして、それがどうしたと返すような、そういった心持ちで、恋愛を行ったところで救われる訳ではないという声に対しても、それがどうしたと言う心性。そのような場所に至っている。
これまで恋愛について多くのことを語ってきた、いやそれは独り身のという領域において、語ってきたけれど、たとえば好きな相手にLINEを送ってその返信を待つ時間について語ったことはなかった。好きな人のLINEの返信が、文字列が、自分に溶けてきて、意識が、意識が他人に満たされていく感覚について語ったことはなかった。
我々は多くのことを語らず、自分にとって都合のいい文章だけを抜き出して、他人の前に並べる。
あるいは恋愛の体系について十分に語り尽くした時、そこには宗教のようなものが生まれているだろう、おそらく、は。
僕はどうすればよかったと思う?
季節によってあまり情緒が変化しない。四月の花見は特別だし、冬になって雪が降ると、清らかな心持ちになることはあるが、夏だから恋愛がどうこうとか、秋だからさびしさがどうこうとか、そんなことはない。基本的には、年間を通した季節の変動よりも、自分の精神の変動、それも一日単位のもの、が、キツすぎて、しばらく何も考えられなかった。あるいはもっと穏やかな心持ちになって、自然と同化すれば、夏のエモさ、獲得するのかもしれない。
ああ、これについて言っておかないといけない。素敵な友達はとてもたくさん多い。とてもとても。僕は一人一人にとっての面白い友達枠にいる。そして面白い人、いい人止まりである。体感したことがない人にはわからないだろうが、これは一人ぼっちよりも寂しい、かもしれない。一人ぼっちよりはマシかもしれない。どうでしょうか。誰にとっての特別でもない。みんな真剣に心配してはいるけど、つまり僕のことを、友達としての心配を超えることはない。いやTなんかは超えてくるけど。特別な友達もいる。それはもちろん。
どうすればよかった?
なんというか僕はすぐに人のことを好きになるし、人と仲良くなるためのコミュニケーションも年相応には弁えているし、極めて恋愛向けの人間だと、恋愛向きというか、恋愛をしやすい人間だと思うのだけれど、結局誰とも深い仲にならなかった。これからのことはわからないが、これからもどうせ似たようなものだとも思う。もうさびしさとかそういうのはこえて、ただただ、ふしぎ、ということばをみずからにおもう。しかしセックスがしたいですね。
文字ラジオ 爪木庸平 @tumaki_yohei
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