第1話
静かな空間にリン、と鈴の音が鳴り響いた。
明るくもなく暗くもないその不思議な空間の中にいつの間にか立っていた。
リン、と鈴の音だけが聞こえてくる。
音の方を見つめるとそのぼんやりとした空間に鳥居のようなものがあった。
その真下に1人、佇む姿が見える。
目を凝らしてもよく見えないその人物を見ようと足を進めるとガクンと体が沈む。
落ちると理解して咄嗟に目の前の人物に助けを求めるように手を伸ばすものの手は空をかくばかりで届かない。
リン、と鈴の音を鳴らして目の前の人物がこちらを振り向いたような気がしたが、ぼんやりしていてよく見えない。
その人物がこちらに手を差し伸べてるように見えて、必死に手を伸ばす。
先程までは届かないと思っていたその手を今度は簡単に捕まえることが出来た。
酷く冷たい手をしているその人物が笑ったように感じられ、じっと見つめる。
「ーーーー」
リン、と鈴の音が鳴る。
何かを言われたのに知らない言語を聞いているかのように理解ができない。
なんて言ったのか、それが知りたくて仕方がなくて問いかけようとすると繋いでいた手が離され、私はゆっくりと落下していった。
底が見えない恐怖にぎゅっと両手を握りしめた。
「ーーーーん」
「蜜柑っ!!!!」
ぐんっと突然意識が引っ張られたかのような感覚になり現実へと引き戻される。
足元が覚束ず数歩後ろに下がると何かが背中に当たる。
ガシャーンと大きな音が鳴り響き、私はハッと目が覚めた。
「おい、大丈夫か!?」
何が、と思ったが声は出なかった。
「蜜柑?」
「あ、ごめん大丈夫ーーー。私、寝てた?」
夢でも見ていたのだろうか。
まだ頭の中で鈴の音が鳴り響いてる感覚に襲われる。
私の問いに幼なじみの苗は眉を寄せた。
「急に立ち止まったと思ったらふらつき始めたけど…歩きながら寝てたのか?」
「多分?」
「暑いからな、一応保健室と言いたい所だが」
苗がそろっと私の後ろに視線をやる。
釣られて私も背後を振り向くとなにかの破片が散乱していた。
そう言えば目が覚めた時に大きな音がした気がするなと、どこか他人事のように考えた。
「え、何これ」
「何これって…お前が、ぶつかって、倒した花瓶の成れの果て、だろ」
「犯人私!?え!どうしよう、なっちゃん!」
思わずぎゅっと手を握りしめると鈍くリン、と鈴の音が聞こえてきた。
そして手のひらに感じる異物感。
気になってそーっと手を開いてみるとそこには見覚えのない鈴があった。
「なっちゃんって呼ぶなって言ってるだろ」
見覚えはない。
でもその鈴の音は聞いたことがある音だった。
頬っぺをつねってみるがちゃんと痛い、という事は今は夢の続きではないということだ。
こちらを伺うように見てくる幼なじみから隠すように、私はその鈴を制服のポケットへとしまった。
「なんだよ」
「なんでもない」
苦笑いを返すとドタバタと大きな足音が聞こえ、それが私たちの側へと到達すると残骸を見た教師が私たちと残骸を交互に見つめ、崩れ落ちた。
なりそこないの現神姫のお世話係 菜の @nano_0221_
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