第24話 宣告

「ごほっごほっ!?」


 砂利を吸い込んで息苦しい。城壁が破壊され、細かい破片が煙のように舞っていた。ふと灰色の煙の中で、俺は足が地に付いてない感覚に焦る。これって……、


「浮いてる!? うおっ!?」


 眩しいっ!? 


 明るい光が俺の視界に入ってきた。


「今度は何が起こって……、え?」


 眩しさの先には太陽があった。雲一つない、キレイな青空を背景にして。

 この光景は、初めて異世界に来たときと似ている。側には女神ことアリーチェさんがいて色々と教えてくれたっけ。今日の出来事なのに懐かしく感じるのは、色々なハプニングに巻き込まれているせいだろうか。勘弁してくれよ……。


「不審者さん」

「いいっ!?!?」


 突然、右側から女の子の声がした。振り向くと、淡いグリーン色の髪の可愛らしい少女がいた。同色の膝丈タイトめなパンツに、薄いカーディガンみたいなのを、白シャツの上から羽織っていて、風のせいか優雅になびいていた。

 エメラルドのようなキレイな瞳に見つめられ、小さな口元は笑みを浮かべている。愛らしくもあり、どこか小生意気な雰囲気がある少女。


 この娘も……、勇者の一人なのか。


「ムラカミさん!!」


 聞き覚えのある声音にハッとした。視線が声のした方に吸い寄せられる。


「あっ! ライラさん!」


 銀髪の美少女ことライラが、一緒に空に浮いていた。良かった、どっか遠くに飛んで行ったり、ケガとかしてなくて。


「ん? ライラ、こいつの名前知ってんだ」

「う、うん。ムラカミさんっていうの、シャルちゃん」

「ふ〜ん、変わった名前だな」


 そう言いながら、シャルちゃんと呼ばれた美少女は、俺に顔を向ける。


「どうも。初めまして、あたしはシャルルっていうの。ライラにはシャルちゃんって呼ばれてて、ちょっと恥ずいんだけどさ、あははっ。あっ、ちなみに私、風の勇者なんで、そこんとこよろしくっ! な〜んて、あははっ」


 と、素直な笑いを見せてくれるシャルル。そんな彼女の気分に同調するかのように、周囲に柔らかな風が吹く。とても心地いい。


 なんかすごくフランクな娘だな。


 城壁をぶち壊しての登場には度肝をぬかれたが、それを除けば、良い娘に思える。炎を操る美少女の勇者ミディアや、雷を操る美少女の勇者ライラとは大違い。だってこの2人、俺に魔法攻撃してますからね……、まあ俺のいらん事しいが原因ではあるけども。


「えっとムラカミ、さんだっけ」

「あ、ああ」

 

 何とか返事をすると、


「ちょっと聞きたいんだけどさ」


 と言って、シャルルは少し首を傾けた。


「なんで、パンツだけしかはいてないの??」

「えっ?? ………、あっ!! そ、そうだった!!」


 俺は今だにトランクス一枚しか着ていない、てかトランクスしか履いてなかった。そんな姿をまた美少女に見せつけて……、普通だったら警察行きだ。まじで異世界で良かった、いや異世界でもダメだけどもねっ!


「あははははっ! なにそのリアクション? 今気づきましたみたいな?」


 可笑しそうな声音を上げるシャルル。すごい恥ずかしい……!


「ちゃ、ちゃんと服は着てたんだよ!! で、でもミディアに燃やされちまって、こうなっただけで」


 と、言い訳をする俺。ちゃんと服は着てたって、どんな言い訳だ。で、でもミディアに燃やされたって説明すれば分かってくれるはず。


「あははっ、それヤバい。てかなんで燃やされるの?」

「えつ? あ、そ、それは………」


 俺の記憶が、ミディアのバストの感覚を鮮明に思い出させてくる。さらに頬のビンタの痛みも。い、言えるわけねぇ………。


「くくくっ、めっちゃ顔引きつってる。気味悪いなぁ、ねっ、ライラ」

「うん、気味悪い………」

「うそ!? い、いやそんなことないから!」


 シャルルとライラに引かれて凹む。美少女2人になにしてんだ俺よ………。でもなんか、なごやかかも。


 3人でなぜか空の上で話が弾んでいた。さっきまで必死に逃げていたから、なおさらこの空気感が心地いい。風の勇者ことシャルルのおかげか。彼女の着飾らない物言いが場を和ませている。

 

 とりあえず、シャルルと友好的な関係を、


「あははっ………、ねぇ、ムラカミさん」

 

 と思ったときだった。シャルルの呼びかけが、急に冷たさを帯びた。俺の心音が変に大きくなる。


 シャルルは、微笑を浮かべながら、


「ミディアの炎で、火傷の一つもできなかったんだ?」


 そう言って目を細めた。さっきまでの明るい感じは消え去り、人を拒絶するような冷ややかさを、俺に向けた。な、なんで、急に。お、俺、なんかまたやらかした? 


 静かに、そして急に冷たく接してくるシャルルに、俺は目を離すことができなかった。


 嫌な沈黙が訪れる。ライラが傍でおろおろしているのが分かった。だから、俺も緊張してしまう。なぜかって? それは、シャルルがとても不機嫌になってるからだ。


 舐めつけるような目つきでシャルルは、小さな口をゆっくり開き、嫌悪感のある声音で俺に言い放った。


「ねぇ、ムラカミって………、勇者の教師?」


 言い終えた瞬間、周囲の風が荒ぶる。目が痛い。半目でしかめながらがやっとだ。一体シャルルはどうしたっていうんだ。うっ!?


 一陣の強烈な風が俺の頬を横切った。そのときに、見たくないものが表示された。


ダメージ階級:C

負担ダメージ:1000

(HP):348万6000/350万


「なっ!?」


 う、うそだろ、俺今、攻撃されたのか!? 


「へぇ………、ちょっとくらいの攻撃じゃあ無傷なんだ」

「うっ!? お、おい、いきなり何すんだ!」


 思わず声をあらげた。でもシャルルは、冷淡な表情を崩さない。むしろ、顔をよりしかめて、俺に、


「はぁ〜……、面倒なことはしたくないから、今からあたしの言うこと聞いてくれる?」


 こ、こいつ!! 俺の言葉無視して!?


「お、おい!! さっきから何勝手にーーー」

「ムラカミ」


 と、静かに、重苦しい声音で呼ばれ、息を呑んだ。声が緊張で喉のところで詰まって、出ない。

 シャルルは鋭い目つきで、俺に宣告した。


「この城から出ていけッ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生したら美少女勇者達の教育係に任命されました。【辛い思いをしている彼女達の幸せのために全力尽くします】 @myosisann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画