第22話 エピローグ

 幻の木の葉小学校旧校舎が、けたたましい音を立てながら倒壊した。


(つ……つばさ……。つばさ!? やったね!! 普段の木の葉小学校へ戻ってこれたね! みんな無事で帰ってこれたんだね!)


 私を抱きかかえている、つばさの顔を見上げた。


「夏奈! 戻って来れたよ! 僕たちみんなで一緒に帰って来たんだよ!」

(うん! だからね、みんなでね、ただいまってしよっ♪)

「……………夏奈? …………夏奈? ……か……っ……夏奈……」

(いっせぃーのぉーせっ! ただいま〜…………って…………あれ…………?)

「うぅ……ぅぅ……ぅう……うう……ぅう……」

(ふぇっ!? どうしたの!? つばさ!? 大丈夫!?)

「……………………………………………………………………………」

(ねぇ……これって……どういう事……?)


 つばさに私の声が届いていなかった。


(夏奈)

(ふぇっ?)


 振り返るとポコタローが穏やかな雰囲気をまとい微笑んでいた。


(こっちに歩いて来てみ)

(歩く? それよりポコタロー! 無事だったんだね!? 良かったぁ〜!!)

(無事っちゅうか、まぁ、なんや、無事とちゃうけどなぁ)

(ねぇ、ポコタロー聞いて聞いて! つばさに私の声が聞こえてないみたいなの!)

(せやろなぁ)

(せやろなー?)

(つばさだけやない、ここに居るみんなに、わてら声はもう聞こえへんし、わてらの姿も見えへんで)

(どうして……?)

(わてらにも、そろそろお迎えが来たんやで)

(そろそろお迎え……?)

(せや、お迎えや)

(ふぇっ……? どういうこと……?)

(夏奈、周りを見てみぃ)


 私はポコタローに促されて周り確認する。

 妙に体がふわふわしているなと思っていると、そこには信じらない光景が広がっていた。


(ふぇぇえっ!? どうして!? お空を飛んでるよ!?)

(そういうこっちゃ)

(どういうこっちゃ!? 大変! 大変!)

(夏奈……ごめんね……私のせいで……)


 聞き覚えのある声がして、その方へと振り返る。


(凛! あれっ、凛もお空を飛んでるよ!?)


 凛は悲しそうな表情を浮かべて俯いた。


(夏奈は何でここに、木の葉小学校に居ったんか分かるか?)

(ふぇっ? わかんない)

(夏奈は彷徨ってたんや、木の葉小学校旧校舎が倒壊した日から。凛も一緒にな)

(彷徨う……?)

(あの日から自分だけの時が止まって、記憶が曖昧になって、よう分からんまま死んどるけど生きとったんや)

(死んどるけど生きとった……? ねぇ、ポコタロー? ポコの言ってる事がよくわからないよ?)

(まぁなぁ、この世もあの世もよく分からん事だらけや)


 ふぅわり、ふぅわり、空高くへと浮かんでいく。

 凛が私の隣へ泳いで来て、手を優しく握った。


(夏奈はおばけじゃなくなるんだよ)

(ふぇっ? おばけじゃなくなるって、人間に変わっちゃうってこと!?)

(そうだと……いいね……)


 ポコタローが私の隣へ泳いで来て、私の懐へと潜り込んできた。


(夏奈はおばけの化け力を使って、みんなを幸せにしていったんや、何年も、何十年も)

(ふぇっ? そうなんだ? 私は特になにもしてないけどね〜?)

(凛はおばけの化け力が最後に暴走してもたけど、自分の命を犠牲にしてまで、みんなを守ったんやで)

(ごめんなさい……)

(かまへんかまへん! べっちょないべっちょない! 夏奈、凛、二人ともようやったでほんま、ええこっちゃ!)

(かまへん、べっちょないってなにー?)

(気にせんでええっちゅうこっちゃ)

(だってさ〜凛! ポコタローの喋る言葉はたまによくわかんないから、本当は妖精じゃなくて銀河彼方の宇宙人なのかもね!)

(あはっ、ポコタローは宇宙人だったんだ? 私てっきり、お喋りが好きすぎて、人の言葉が話せる様になった、たぬきだと思ってた)

(誰がたぬきや! わてはイギリス生まれの妖精ポコタローや!)

(かまへんかまへん♪ べっちょないべっちょない♪)

(なんや夏奈まで〜! 変な関西弁すな!)

(あはっ♪)

(ふふっ♪)


 だんだん……だんだんと……眠たくなってきた……。


(夏奈、見て見て! お星様がすっごく綺麗だよ!)

(ほんとだぁ! すっごく綺麗だね♪)

(夏奈のお目目みたいにきらきらしてるよ!)

(ふふっ、ありがと♪)


 うぅ……眠たい……。

 自然と……瞼が閉じる……。

 お空を飛んだまま……寝ちゃいそう……。

 凛が片手を口の前まで持ってきて……あくびをしているのが見えた……。

 凛のあくびに誘い出されたかの様に……ポコタローも口を大きく開けてあくびをした……。

 ポコタローの可愛らしい犬歯がチラリと見えた……。

 淡く……眩い光を感じる……。

 ゆらゆらと……ゆれる揺り籠みたい……。

 ふわふわで……柔らかい……。

 なんだか……すごく……気持ちいいよ……。

 あたたかくて……安心できて……心地いいな……。

 あたたかい……声……。

 遠くで……聞こえる……。

 夏奈……私の名前を呼んでる……。

 優しい……この声……思い出した……つばさ……。

 つばさ……私ね……今ね……。

 背中に翼があるみたいにね……お空をふわふわと飛んでるんだよ……。

 つばさ……またどこかで……会えるよね……。

 きっと……きっと……。

 会えるよね……。

 私のこと……忘れないでね……。

 ありがとう……。

 大好き……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

息吹け!う・ら・め・し・やー! 川詩夕 @kawashiyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ