第33話 兆し
耳障りな高音を撒き散らす両目はナメクジのように飛び出し、生物らしからぬ鈍い光沢を放っている。
「チィガウナァ・・・餓鬼らしくない、ソレナリノ濁度なんだガナァ・・・」
怪物の手の甲からは槍のようなドリルが生え、そこに蔓巻く脊髄の先端には血色の悪い猪兎 叶の頭が紐付いていた。
「うそ・・・あ、あぐッ!ちがっ違うッ!!アタシ!アタシじゃないぃ!!」
それを見ていた河上 美淮はもんどり打って床に転がる。
「アイツも、ハズレダナ・・・」
猪兎の頭部を乱雑に棄てると、怪物は廊下の壁にドリルを突き刺し、その回転に身を任せた。
「セッカクダ。すぐに友達ノ所に送ッテヤル」
身体を丸め、ドリルの回転力で身を投じ、左右交互に壁へと移る。その身のこなしは、
そして怪物は河上 美淮の目前に降り立つと、頭を抱えたままの河上を見下ろす。
「あ・・が・・・」
「なんだオマエ、覚えてんのか?・・・ジャア、出涸ラシでも、どんだけ叫ベルか試サナイトナァ」
いかなる断末魔も霞むほどの残忍な音を発してドリルが再び駆動する。
「その子から離れて」
「・・・ァア??」
怪物は反り返って、声のした方へ振り向く。
「オオ?!コイツァ・・・!」
死んだ魚のように虚な目。汚泥に濡れて肌に貼りついた長髪。赤い照明に染まる胸元の校章。
「間違イネェ・・・!!」
「さっさとその子から離れて。・・・でないと」
「・・・・!」
そう現れるなり、三涙 怜香はスカートのポケットから取り出した物を怪物の前に投げ捨てる。
「・・・こうなる」
大小様々な破砕刃の歯車が、カランカランと音を立てて床の上を転がった。
「面白れぇジャネェカ・・・。オマエみたいなガキンチョガァ・・コノ俺様を殺レンノカヨォッ!?」
怪物の眼窩から触角のように生えたドリルが、突き刺さんばかりに三涙の眼前へ迫る。
「なんか勘違いしてない?あくまで、わたしの狙いはその子なんだけど」
しかし三涙が指したのは、怪物の後ろにいる河上であった。
「ハッ!!遺言のツモリならもっとマシなことを・・」
それに怪物が釣られて目を離した瞬間、上部の電球が砕け散り、3人の影は闇にのまれた。
「チッ。暗さに紛れて逃ゲル気か。甘くミラレタもんだぜ・・・。ダガナァ、テメェらみてぇなクズ野郎はぁ・・・視えなかろうが臭いでわかんだよッ!!」
その暗闇の中でも怪物は、特に惑わされることなく、ある一点を正確に突き刺す。
「・・・オイオイ。ソリャ一体どういうツモリだァ?」
しかしその先端が触れたのは、肉質でも服でもない金属質な短い刃であった。
そして砕けたはずの電球が果実のように実り、再び照らした所にいたのは、依然変わらぬ怪物と無個性極まる仮面の男。
「だれ・・・?」
その男はドリルを弾いたナイフの腹を労るように撫でながら、後ろの少女二人に話しかけた。
「君たち走れる?・・・うん、なら走って逃げなさい。ここは・・・僕がやっておくから」
あの淀めく血の底に ういろう @uirow
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