第4話「エリミエール」

「さて、Cランクの冒険者がこの私にどうやって勝つつもりかな?」

「……」


 両手を広げて、エリミエールは勝ち気な笑みを浮かべた。

 彼は俺のことを舐めている。

 勝って当たり前だと思っている。それが俺にとっての勝ち筋でもあった。油断を突くくらいしか、今の俺にできることはない。

 なら、思いっきり舐められよう。


 俺は盾を構えて、接近。

 魔法を使えるのは後二回。絶対に当てる必要がある。


「フレア」


 エリミエールが呪文の名を呟いた。フレア、炎系Cランク魔法。恐らくスキル使用による詠唱破棄。なら、俺でも耐えることができる!

 基本的に、冒険者が扱うスキルの魔法はランクによって威力の上限が決められている。Sランクの冒険者でもCランクの冒険者でも、スキルとして使用するなら威力は同じ。

 だから、俺は盾を構えて真正面からそれを受けるが。


 瞬間。


 凄まじい熱が盾越しに伝わった。

 危機感を感じた俺は盾を思いっきり横に振るう。ギリギリのところで、火球を受け流すことができた。


 余所へ飛んだ火球が地面にぶつかれば、凄まじい爆発を起こす。Cランクの魔法だって威力は高い。でも、あんなに凄まじい威力ではないはずだ。

 あれでは、AやSランクの魔法ではないか。


「驚いたかな? さて、じゃあ次は二つだ。精々踊れよ? フレア、フレア!」


 また繰り出される火球。

 元々がCランク魔法。Sランクからしてみれば詠唱破棄だって容易。消費魔力も少ない。だっていうのに、あの威力!

 俺は迫る火球を回避して、距離を詰めていくが――。背後にサーリャさんがいることを思い出す。

 ただ回避を繰り替えすだけでは、いずれサーリャさんに被害が出てしまう。


「よく動く玩具だ。フレア、フレア、フレア、フレア! 避ければ女が燃えるぞ!」


 同時に四つ。

 しかも、その全てが一直線に並んで俺を狙っていた。その宣言通り、避けてしまえば、サーリャさんが犠牲になってしまうのだろう。

 なら、俺は盾を地面につけ。

 できる限り身を隠して、真正面からその全てを受けた。


「クレイさん!」


 凄まじい熱と衝撃が身体を打つ。

 肉の焦げる嫌な臭いが漂った。その衝撃に骨が軋む。

 でも、まだ死んじゃいない。

 相当に後退してしまったし、身体は悲鳴をあげているがなんとか耐えきった。


「ほう、耐えたか。随分と上物の盾を使っている――お前、ヴァール家か!?」

「ヴァール家……?」


 そうだ。その通り。

 この盾はヴァール家のもの。多分、相当に凄い盾なんだろう。家の人たちにとっては飾り物も同然だったみたいだけど。

 だから、守りには自信があったけど。

 流石にあの威力の魔法を真正面から喰らうのはキツかったな。浅い深呼吸を繰り返して、俺はとにかく体力の回復に努めた。


「なるほど、君を帰す理由がより狭まった。これで終いだ。女共々生きたまま灼かれて死ね。フレア、フレア、フレア――!」


 告げられるのは八つ。

 俺に向かって真っ直ぐ飛ぶ八つの火球。

 クソ、まだ取っておきたかったが……! 使わないと流石に死ぬ!


 俺はすぅ、と息を吸い込んで言葉を吐く。


灼熱壁テルモーン!」


 そう叫べば、俺の前に炎の壁が出現。

 テルモーンによって発生する熱量を利用して炎の壁を生み出す魔法だ。元々Aランクに分類される魔法で、俺のユニークスキルによってさらに火力が上がっている。それを防御に転用すれば、数秒間迫る攻撃を相殺し続ける。


 この壁が消えた後が勝負だ。

 多分、あのフレアの威力はエリミエールのユニークスキルが関わっているんだろう。どういうスキルによって、異様な強化が施されているかは分からないけど。

 まだ、多分これでも“遊び”の範囲なのだろう。


 もう少し近づいてから使いたかったけど――。


 やるなら今しかない!


 炎が消えた瞬間。

 俺は人差し指と中指を変わらず同じ場所に立ち続けるエリミエールに合わせた。


「ほう? 何をするつもりだ?」

一点突破テルモーン


 狙いはその喉元。悪いが加減をして、勝てる相手じゃない。


「はっ、バカの一つ覚えみたく同じ魔法をつ――」


 刹那。

 定めた俺の指先から発射されるのはテルモーンの熱量を一点に集めて突く炎の槍。

 俺が扱える魔法の中でも、貫通力なら最強。

 そして、その速度も速い。


「がっ!」


 俺の狙い通り、喉元を貫いたそれはまだ灼き続ける。

 持続時間は三秒。このまま、振り落として、断つ!


「ぐ……ぐっ! イージス!」


 その言葉と共に出現するのはSランクの防御魔法。防御魔法としては最高峰に位置するそれ。一瞬、俺の魔法を防ぐが。一秒未満。

 すぐに割砕き、また炎の槍は伸びる。


「イージス!」


 二発目。それでも割砕く。


「……い、イージス!」


 三発目。詠唱破棄Sランク魔法の連続使用。相当魔力を消費している筈だが。

 テルモーンの持続時間が終わってしまった。

 しかし、エリミエールにも致命傷を与えたはず。


 俺は距離を詰める。


「ぐ、は、クソ……! 癒やせ、癒やせ、癒やせ。生礼賛美! 生礼賛美!」


 距離を詰めていく俺に脇目も振らず、エリミエールは奇蹟の行使を行っていた。傷ついた肉体が直ちにに癒えていく。

 攻撃箇所が少ないので、仕留め損なえば回復が容易になってしまうのが欠点だ。

 本来なら、もう俺の勝ち目はなくなってしまったけれど。


 でも、博打は打てる。


 俺は回復に専念したエリミエールの懐に忍び込んで、拳を構えて振り上げる。


爆撃拳テルモーン……!」

「……! わ、ワープ!」


 俺はエリミエールに殴りかかったが、見事に空かしてしまう。転移魔法で逃げたか……。読み通り。

 アイツは俺のユニークスキルを知らない。アイツからしてみれば、あの威力の魔法を俺が何発でも撃てると勘違いしたはずだ。

 だから逃げた。

 流石にあの様子だと魔力を消耗しただろうし、すぐに帰って来ることもないはずだ。


「はぁ……」


 俺は地面に倒れ込んで、ため息を吐いた。


「クレイさん、大丈夫ですか!?」

「はい、なんとか……」

「よかったです……。でも、まさかSランク冒険者さんが悪い人だったなんて、どうすればいいんでしょうか……?」

「……」


 目的も解らないし、何がしたかったのかも不明。

 唯一分かるのは、俺がギルドに訴えても多分棄却されるだろうということ。証拠はないし、ただの言いがかりになってしまうからだ。

 仮に状況証拠があったとしても、もみ消されるのが関の山じゃないだろうか。


 アイツは目撃者をなるべく秘密裏に殺したかったようだし……。


「サーリャさん。村を出て、ひとまず町で暮らしませんか?」

「と、突然どうしたんですか?」

「あ、いえ。多分エリミエールはボクとサーリャさんの命をまだ狙うでしょうから、それなら人が多い町の方がまだマシかなと」

「な、なるほど……! で、でも村のみんなが狙われたりは?」

「流石に村一つを潰そうとなればエリミエールでも、相当の準備が必要なはず。すぐにはできないでしょう」

「そ、そうですか……」

「その間に確固たる証拠を掴んでギルドに動いて貰う。その間、サーリャさんはボクが守ります」

「わ、わかりました! お願いします!」


 人一人養うくらいの余裕はないわけだけど、多分村にいたってエリミエールに殺されてしまうかもしれない。あるいは話が漏れて、村人全員がエリミエールが悪人だと知ってしまえば、村人全員に危険が及ぶ。

 確固たる証拠を掴んで、ギルドが動いてくれるまでサーリャさんを匿う。これが最善手のはず。


「じゃあ、一度戻りましょうか」


 俺はふらりと立ち上がって、痛む身体を気遣いながら村へと戻った。



◆クレイ、本日魔法使用不可◆


◆第一章:炎の魔法使い<了>◆

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最強チートスキル『全力全開』が弱すぎる!?魔法の火力なら無敵なんだけど……燃費が悪くて追放されてしまいました。一日に三回しか撃てない最強魔法を使い熟して、どうにか俺はSランク冒険者になる! 雨有 数 @meari-su-

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