第3話 恐怖と嫌悪
この世界には魔法というものがある。それは手品だとかまやかしだとか、そういった類のごまかしではなくて、現に存在する。生きとし生けるもの、いや、それだけじゃなく、その辺の石ころだって、大気ですら、知ってか知らずかその力を使っている。だから、むしろありきたり過ぎて見過ごしてしまうような、そんな力で俺たちは繋がっている。
「それこそ、魔法みたいにね」
俺の考えに、ミコはそう言って締めくくった。目には見えない不思議な力というイメージを指して、魔法になぞらえているというわけか。なるほど、言い得て妙である。
「……あのねぇ、なんか感心してるけれど、こうして考えていることに割り込まれたら、普通は驚くのよ。その後、怖がるか気持ち悪がるか崇めたりするかは個人差だけれど、取り敢えず驚くの」
彼女は呆れながらも説明してくれる。
「そういうモノなのか」
「そういうモノなの」
なるほど。
「それじゃあ、例えば逆にキミは俺が驚かないことに対してどう思うんだ?」
「うーん。そうね、社会経験が無いんだな、と可哀そうに思うわ」
「(なるほど。)・・・なるほど」
「納得したところで使う機会のない感情でしょうけどね。あなたには。まあ、とにかくあなた位話の遅い人はいないのよ。あたしにとって。だから、あたしが、あなたに、この世界の歩き方を、教えて、あげる」
胸に手を当てたり、俺を指さしたりと、身振りを交えつつ一語一語区切って丁寧に言い含めてくる。・・・話が遅いとはそういう事か?
「そういうこと。この、あたしの広い慈愛の心に感謝しなさい。そしてせいぜいその気持ちを言葉にしなさい」
「・・・ありがとう」
「うむ。まあそもそも、あなたを連れ出したのはあたしだからね。保護責任者ってわけ。それじゃ、ここでいつまでもしゃべっててもアレだから、出かけるわよ」
ミコは腰かけていたベッドから、ぴょん、と飛び降りる。
出かけるったって、どこへ?
「決まってるじゃない」
そう、彼女は胸を反らせて伸びをしながら言う。
「
ミコについていくと、いくつかの店に寄り、服やそのほかの必要と思われるものを買い求めた。その間もいろいろと解説してくれる。
それによると、この町はゴランといい、更にもう少し行ったところにある山から鉄を採る鉱夫やそれらを取引する商人などが形成した街(「メチャクチャ簡単に言ってるだけで、他にもたくさん要素はあるけど、あなたに分かるように言うならこれぐらいで充分」とのこと)、だそうだ。
そこで、路銀やらなんやらを考えたときに、昨日でまかせで言った、『旅の興行師』として見世物でもやることにした、ということで、町の有力者のところへあいさつに向かっている。
「そういえば、昨日は何で興行師だなんて名乗ったんだ?」
「周りの客が、あたしにそう言う事をもとめていたからよ」
彼女は小ばかにしたように言う。
「目の前で不思議なことが起こった時、驚きの後に来るのは恐怖か嫌悪よ。その現象の意味を教えてもらうまでの宙ぶらりんに、人間というものは耐えられない。だから、それぞれに物語を勝手に作って自分を納得させているの。あたしはその補助線を引いてあげただけ」
まやかしの、ね。そういって彼女は不機嫌に口をつぐむ。そういえば似たような話をさっき聞いたような気がする。いやなことでも思い出しているのだろうか。
そんなことを考えていると、彼女はこちらをきっ と睨みつけてくる。俺がひるむと、今度はニコっとわらう。・・・何か怖いのだが。
「ま、完全なウソってのも寝ざめが悪いから、事後的にお仕事を遂行しよう、ってワケよ」
そういいながら、ためらうことなくでかい建物の中へ入っていく。
わがまま姫と俺 × その他全部 柿の豆 @kakinomame
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