16 錆落とし

「よし、やっとどうにかなった」

 新品同様とまではいかないが、だいぶピカピカになった自転車を前に、やれやれと汗を拭う。

 建物裏に放置され、すっかり錆び付いていたそれは、恐らくマウンテンバイクが大流行した時期に買い求めたものだろう。

 確かにこのあたりは道も悪いし、マウンテンバイクの方が走りやすかったのかも知れないが、籠もなければ後ろに荷物も載せられない自転車だから、日々の買い物などにはあまり活用できない。恐らくはそのせいで、ろくに使われないまま放置されてしまったのだろう。

「俺の欲しかったやつ、まさか父さんが持ってたなんてなあ」

 これが流行っていたのは高校生の頃だ。溜め込んだ小遣いやお年玉程度では手が届かなくて泣く泣く諦めた限定モデル。

 父の趣味嗜好はいまいちよく分からないものが多かったけれど、共通するポイントが幾つかある。

 青くて、ごつくて、ギミックが多くて、光るやつ。

 奇しくもそれらは、俺が大好きなポイントで。

「……こういうのを、血は争えないっていうんだろうな」


 もしも、両親が離婚した時に俺を引き取ったのが父だったなら。

 俺は、父の理解者になれたのだろうか。


 どんなに「もしも」と願っても、現実は変えられないけれど。

 そう考えずにはいられなかった。


 ループする思考を断ち切るべく、スカイブルーのマウンテンバイクにまたがる。

 自転車に乗るのも久しぶりだ。俺の運転技術の方も、錆落としをしなければ。

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(タイトル未定) #文披31題 小田島静流 @seeds_starlite

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