第6話 惹かれる心

 高2の春。

 クラス替えで、仲がいい友達と離ればなれになり、自分の運の無さを呪っていた新学期初日。


 仲良しグループが続々と出来ていくなか、お馴染みの人見知りが発動し、誰とも話せないでいると、同じく誰とも話していない人を見つけた。


 佐々原ささはら和哉かずや

 窓際の一番後ろの席。頬杖をつき、つまらなそうに窓の外を眺めている彼に自然と目が惹かれた。少し空いた窓から風が入ってきて、彼のきれいな黒髪がかすかになびく。


 「佐々原ー、いつまで独りでいるんだよー」


 そう言って、とある男子が佐々原くんの肩を抱いた。どうやら二人は、去年も同じクラスだったようだ。


 なんだ、友達いたんだ。仲間が減って、少し気を落とす。

 しかし、彼は少しも嬉しそうではなかった。むしろ、悲しいような、恐れのような、強ばった表情をしている。


 私は佐々原くんをよく知らない。去年だって同じクラスではなかったし、今年に入ってからも話したこともない。


 しかし、私は彼を知っているような気がする。あくまでも気がするだけで、全く面識はないんだけど。それでも、なぜか、彼から目が話せない。


 自然に見ていたつもりだったが、視線を感じさせてしまったようで、佐々原くんがこちらに視線を返した。目があってしまった。ビックリして目を反らす。

 会釈くらいすべきだった?変な人だと思われたかな。うつむいたまま、頭の中で後悔と恥ずかしさが混濁する。


「そうだ、佐々原。今日クラスの奴ら何人か集めてボーリング行こーぜって話してんだ。お前も行こうぜ!」

「いや、俺はいい」

「えー、またかよ。一年の時は全然話せなかったし、今年こそは仲良くしよーや」


 好かれてるんだな、佐々原くん。私も早く、クラスに馴染めるように頑張らないと。少し寂しい気持ちになっていると、佐々原くんの耳を疑う発言が聞こえる。


「俺じゃなくて、


文月さん、誘ってあげて」


「え!!」


驚きのあまり、思わず声を出してしまった。どうしよう、変な空気に…


「え!文月さん、来てくれるの?」

「まじ!?」

「行こ行こ!」


あっという間に、クラスの女子たちに囲まれた。心臓が高鳴る。


「ねね!咲空ちゃんって呼んでいい?」

「私も!」

「え、あ、……うん!」


 凄い!佐々原くんのおかげで、クラスの子達と話せてる!お礼しなきゃ、そう思って窓際を見ると、彼は何もなかったかのように、再び窓の外を眺めていた。


 あの日から、彼は私の特別な人になった。


 ***


「咲空ー?ご飯よー!」

「はーい、でも、先に食べてて!」

 

 外は、もうすっかり暗くなっている。


 分厚くなった手帳を閉じて、ため息をつくと、止まっていたペンを握り直し、お気に入りの便箋に、何度目かの文章を書き始めた。

 


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