Day27 水鉄砲

 ちょっとした傷害事件が近所で多発している。

 被害に遭ったのは通行人。話によると、スマートフォンを操作しながら歩いていただけなのに、無言で水を浴びせられたのだとか。濡れた服は溶け、肌は焼け爛れてしまった。その症状からして警察は、水の中になんらかの薬品が混入されていると推測している。

 回覧板ならぬ回覧メールの最後は【ながらスマホはダメ! 外出時、不審者に用心!】という在り来たりな注意喚起で締め括られている。それを読んだ先輩は

「一見して不審者と判断可能なら用心のし甲斐があるけれど、なんの特徴もない人畜無害そうな隣人が犯人だったら用心のしようがないじゃん」

 と鼻で嗤っていた。


 特徴がない人畜無害そうな隣人を如何に警戒するかは脇に置いて。

 私は被害者の爛れた皮膚を見たことがある。昨日、商店街のスーパーで遭遇したので拝見させてもらったのだ。

 その人は顔と腕に被害を負った。傷は確かに薬品による軽い火傷のようだ。興味深いのは傷の範囲である。私は広範囲による爛れを想像していた。が、実際にはとても狭く、ピンポイントだった。

 右眼のめじりから涙が頬を伝うように。

 細い蛇が腕を這ったように。

 無造作に引っ掛けたわけではない。傷と、被害者の話を聴いて納得した。犯人は水溶液を水鉄砲に仕込んで持ち歩いているのだ。

 私は感服した。なるほど。水鉄砲なら金属探知機を摺り抜けられる。季節柄、持ち歩いても不審ではない。仮に怪しまれても弁明のネタは無いこともない。

 被害者に礼を言い、すぐさま水鉄砲を購入した。先輩と私、ふたり分。


 翌日。つまり今日。

 私は先輩に事の顛末を話した。そして一丁の水鉄砲を手渡す。中身は強酸性の液体。実験しましょうとお誘いすれば、先輩は笑顔で応じてくれた。

 軽装で庭に出て撃ち合う。一見した限りでは夏の愉しい水遊び。けれど気分は宛らサバイバルゲーム。

 一〇分ほど殺り合って、見事、互いの急所を溶かすことに成功した。これ、凄く使える。私は水鉄砲を仕事道具の一員にすることを決めた。先輩は、なんの特徴もない人畜無害そうな隣人が犯人だった場合の対抗手段にすることを決めていた。

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