Day24 絶叫

 朝、先輩が発狂した。絹を裂くような悲鳴をあげたと思ったら錯乱状態に陥ったのだ。うーうーあーあー呻き声を上げて、飛び跳ねたと思ったら逆立ちをする。猫みたいに身軽に。ぴょんと跳ねて宙返りまでする。貴方、宙返りなんて出来たんですね。びっくり。

 先輩の奇行に私は戸惑う。こういう時、どうしたら良いのかしらん。私は精神科医ではない。心理学者でもない。宥めるべきか、電池切れになるまで好きにさせておくべきか……。

 取り敢えず、発狂した原因を探ることにする。


 原因はすぐに判明した。

 いつだったか送信したボイスメッセージ。あれを聴いてしまったらしい。つまり原因は、否、犯人は私でした。反省はしているけど後悔はしていません。だって先輩が居なくならなければ録音さえしなかったもの。

 先輩の絶叫が部屋中に響く。

 耳を押さえながら「失敗した」と思う。すんごく五月蠅い。

 どうにかこうにか椅子に座らせて、縄で縛る。そして、ばしんと頭頂部を叩いた。目覚まし時計を止めるが如く。

 すると絶叫は、ぴたりと止んだ。部屋を支配する静寂。先程までの五月蠅さが嘘のように。あんまりにも静かになりすぎて落ち着かなくなる。心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。

 けれど、私の鼓動は聞こえても、先輩の方は聞こえない。しんとしている。

 ついでにいえば、止まったのは絶叫だけではない。瞬きも、身体の動きも。脈動も。何もかも止まっている。電池の切れた目覚まし時計みたいに。あらま、私、先輩を殺してしまったのかしら?

 頭頂部を、ちょんと突く。瞬きをひとつして、再び発狂する先輩。よかった、問題ない。

 私はまた容赦なく頭の天辺を叩いた。

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