Day21 短夜
星々を巡り、深い青を下って、朝に落ちる。
その距離が一等短い夏の曙。私は彼女と会った。正確には夜と朝の狭間。夢と現実が混じり合う場所で。私たち二人は対面した。
いつか、ヨーロッパ調の東屋で邂逅した女性。
あの時とは服装が異なっている。白いワンピースから漆黒の闇を思わせる重厚なドレスへ。麦わら帽子は取り払われ、三つ編みは解かれている。豊かな金の髪を風に遊ばせる姿は相変わらず美しい。それどころか陽と月に照らされて、いよいよ人外じみていた。
「貴女は――」
と尋ねる声が掠れる。まるで自分の声じゃないみたいだった。録音した自分の声を聞いている時の感覚に似ている。少し気持ちが悪い。
「先輩の、なんなんですか?」
どういう存在。どういう関係。
先輩に魔法を教えた張本人だということは悟っている。証拠も確証もない。ただの勘だけれど、そうに違いないと思っている。
ならば、彼女と先輩は、どんな関係なのだろう。
いや。それよりも本当に知りたいのは、いつ何処でどういうシチュエーションで出会ったのか。どうして魔法の使い方を教える気になったのか。
けれど、そこを訊く勇気はまだなくて。本当に投げたい質問とは若干違うことを問う。
ふむ、と声を洩らし「なんなんですか」と反復した彼女は、腕を組んで黙考し始める。宙を彷徨う瞳は右へ動けば淡い桜色に、左へ動けば紫を帯びる青色に変化した。万華鏡を彷彿とさせるそれは見ていて全く飽きない。
やがて「うん」と頷いた彼女は、腕を解いて答えた。
「上司と部下、かな」
そこで私は目覚める。
見慣れすぎた天井をぼんやりと眺めながら、煙のように霞んで消えていく夢の尾を必死で掴む。覚醒途中にある脳内で復唱する。
上司と部下。
彼女が言った言葉。それだけが記憶に残って、謎が深まってぐるぐると回る。渦を描きながら排水溝に吸い込まれて落ちる水のように。ぐるぐると。
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