Day17 その名前
その名前を口にした瞬間、私の星が爆発した。
内側に溜めていたエネルギーを外側へ、一気に放出させるように。樹木。水。土。コンクリート。ガラス。何もかもが粉々に砕け散って、赤とオレンジと黄色の火花を四方八方に弾ませながら飛んでいく。
その輝きは夜空に咲く大輪の花火を連想させた。或いは遙か彼方から飛来する火球か、彗星を思わせた。
予想外な美しい光景に、うっかり見蕩れてしまう。私の星がこんなにも呆気なく、しかし華々しい最期を迎えるとは思わなかったので。
空気も人間も塵に変わった頃、私は宇宙を泳いでいる。
いや、この表現は正確ではない。広大な宇宙空間で、私という個人は余りにも無力だ。上には行けず、下にも行けず。右へも左へも進めない。文字通り身動きのとれない私は、他の影響を全身で受け止めながら漂うことしか出来ない。まるで海中を浮遊する海月の如く。私は宇宙の海月に姿を変える。
宇宙の海月は孤独だ。星々に話しかけても応えちゃくれない。熱くて、冷たくて、眩しい。海月には色々と強すぎる。
ふわふわと漂うことは簡単で、哀しかった。どうしようもなく涙が溢れた。こんな世界いらない。融けて無くなってしまいたい。そう叫ぼうとした時、誰かの声が聞こえた。私は顔を覆っていた手を退けて必死に声の主を捜す。
その人は、ずっと遠くにいた。あんまりにも遠いから最初は砂粒程度の大きさだった。次第に米粒大へ、ひよこ豆ぐらいに、苺ぐらいの大きさになって漸く正体が分かった。
先輩だ。
「おーい」と手を振って、先輩が泳いでくる。
「やっと見つかった。とんでもない迷子だ」
「どうして、ここに居るんですか?」
と訊く声が震える。情けなくて、それ以上に嬉しくて、苦しかった。
「君を探したからだよ」
「探してくれたんですか」
「探すに決まってるだろ。さあ、帰ろう」
「帰る場所なんかありません。私の星は消えたんです」
「じゃあ、俺の星で生きよう」
はい、決まり。と言って、先輩が私の手を取る。もう離さないと言わんばかりに強く握る。そのまま、私の身体は先輩の力で動かされる。
――先輩の星で生きよう、なんて。勝手なこと言わないでください。
内心で訴えて、けれど言葉にはしない。
先輩の言に私は従う。無力だからとか、宇宙の海月だからとか、そんな理由ではない。この先に待つのが天国でも地獄でも、先輩と一緒なら楽園だと素直に信じられるから。
私は黙って、先輩の手を握り返す。
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