Day12 すいか

 或るところに双子の男児がいました。

 双子は一卵性双生児なのですが、外見以外のあらゆることが正反対です。喩えば、好物は先に食べるか否か。靴は右足から履くのか、それとも左足から履くのか。映画の予告は観るのか。エンドロールが終わるまで席を立たないのか。ポップコーンは塩バター派か、キャラメル派か。小説のあらすじは読むのか。解説どころか同出版社の小説紹介まできちんとチェックするのか。料理をする時、調味料を正確に計ってから入れるのか。非現実的な側面を受け入れるか否か。

「結局、一生涯、相容れなかったね」

 墓の前で黙祷を捧げた先輩が笑う。笑ったのだと思う。少なくとも口調だけは。

 先輩の真後ろに立つ私に、彼の表情は見えない。窺うことさえ出来ない。背中は少し淋しげだ。錯覚かもしれないけれど、そう見える。

「先輩に兄弟がいたなんて、知りませんでした」

 しかも双子の。

「ん?」と肩越しに振り返る先輩。

「俺に兄弟はいないよ」

「は?」

 思わず低い声が出た。きっと間抜け面になっているのだろう、私を見下ろした先輩が愉しげな声で「ああ」と発した。納得したように軽く頷く。

「俺には兄弟も、姉も妹もいない。ひとりっ子だよ。双子はこっち」

 先輩は半歩真横に移動して、ついと人差し指を伸ばす。

 その指先が示す先には、先輩が黙祷を捧げた墓がある。墓石に刻まれた家名は確かに、先輩の名字ではなかった。一文字も掠っていなかった。

 恥ずかしい! 私は両手で顔を覆って俯く。なんて恥ずかしい勘違い! いやでも、先輩の話し方では勘違いしても仕方がないのでは。だって完全に「死んだ俺の片割れ」ふうな口振りだったではないか!

 不謹慎にも墓地で腹を抱えるほど笑う先輩の足を踏みつけ、声が震えないよう細心の注意を払いながら尋ねる。

「……どうして双子は亡くなったんです?」

「はははっ……あー、おっかしい。え? ああ、死因? なんだったかなー……『すいかの種を飲んだら芽が生えて、そのまま成長して年中食べられる』って噂を信じて実行したら、腹が破れて死んじゃったんじゃなかったかな。だから、内臓破裂? なんにしても可笑しいよね。双子も、君の勘違いも」

 そう言って、再び声高に笑い始める先輩。可笑しいのは貴方だ。ふざけないでください。そのまま腹が捩れて死んでしまえ。ふつふつと湧いた呪いは、しかしひとつも言葉にならず肚にしまわれる。いつか芽が出て、肚を食い破って表に出ないことを祈るばかりだ。

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