Day3 謎

 先輩を殺したのは誰か?


 この設問へ、真っ先に手を挙げられる人間になりたかった。

 上膊を耳にぴったりと付け、指先まで真っ直ぐ。神経の一本一本に緊張を張り巡らせながら挙手する人間。立場はなんでも良い。目撃者でも、刑事でも、検察官でも、探偵でも。犯人でも構わない。否、犯人が最も望ましい。先輩を殺したのは私です。当事者として犯人という立場は一等先輩に近い。殺された先輩。痛ましい遺骸となった物言わぬ先輩。私が先輩を殺しました。

「君はどうやって俺を殺すんだろう?」

 殺害方法は色々思いつく。けれど、銃殺は無い。我が国には銃刀法違反という法律があって、そもそも個人が銃を所有する権利が無くて。3Dプリンターで拳銃を作って不法所持するのは可能だけれど、そのテのものは撃鉄が不安定だから上手に撃てないと聞く。下手したら撃った本人が被弾するらしい。そんな恐ろしい代物は扱えない。

 ならば刺殺か。私は先輩を刺し殺せるだろうか? 私は小柄な女で、先輩は痩躯ではあるが男。それなりに筋肉がついている。抵抗されたら無理だ。拘束出来る気もしない。的確に急所を刺せる(或いは切り裂ける)なら良いけれど、滅多刺しにするなら相当な体力が必要。私は体力に自信がない。現実的じゃない。

 じゃあ、撲殺? 単純に鈍器で頭を殴る? それなら出来そうだ。けれど、先輩のお奇麗な顔をうっかり滅茶苦茶にしちゃったら悲しい。だから出来ない。それに私は腕力にも自信がない。

 それなら絞殺? 無理そう。溺死させる? もっと無理そう。女性の場合、自殺も他殺も薬殺が多いと聞いたことがある。けれど、本当に巧く逝くだろうか? 刺殺より現実味が感じられない。でも、毒物によっては早く楽に殺れるかもしれない。先輩も、私も。毒殺された先輩の遺骸は、きっと国宝級に美しい。

「殺害方法は決まったね。次、動機は?」

 それが最大の謎なんです。

 私、どうして先輩を殺したいのでしょう?

「屍体に訊くんじゃないよ」

 先輩は苦笑して

「俺が君を殺す理由は『愛』だよ」

 と続ける。それもまた謎過ぎて迷宮入り間違いなしだと思った。

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