Day2 金魚
「どう、可愛いでしょ」
真夏の太陽もかくや。ぺかぺかと目映い笑顔を浮かべた先輩。彼の手には一着のワンピース。
白から朱色へグラデーションを施されたそれは、ゆらゆらと揺らすたび、裾が軽やかにはためく。そのワンピースを私はよく知っている。
一週間前、ネットで見つけた。五日前に直営店へ足を運び、手触りや着心地を確かめた後に「ちょっと見当します」と店員に言い訳して退散し、昨日再び来店して購入を見送った品だ。何故、ここにあるのだろう。
「可愛いです、けど……」思わず首を傾げる私。
「女装でもするんですか?」
「なんでそうなんの? プレゼントだよ」
はい、あげる。と差し出されても非常に困る。
先輩から何かをプレゼントされる謂われはない。今日が“特別な日”というわけでもない。喩えば誕生日だとか、共通認識している記念日があるのなら、戸惑いつつも素直に受け取ることが出来るけれど。特別何もない日に、なんの理由もなく物を贈られるというのが、どこか不気味に感じる。
まさか、世界的に有名な児童小説よろしく“誕生日じゃない日”を祝うつもりなのかしら?
思ったまま、正直に言葉にする。きょとんとした表情を晒した先輩は、困ったような笑みを浮かべて「そんなんじゃないよ」と言った。
「単純に似合うと思ったんだ。君は小さくて、肌が白いだろう。髪も烏の濡れ羽色で奇麗だ。このひらひらしたワンピースを着れば、金魚みたいできっと可愛い」
全く誉められた気がしない。
寧ろ馬鹿にされた気分だ。
が、私は先輩の厚意を受け取った。撥ね付けることも出来るけれど、ワンピースに罪はない。何より、そのワンピースがやっぱり欲しいと思った。一度は諦めた。でも手に入るチャンスがあるなら迷わず掴むべきである。
「ところで」と、布地の滑らかな触り心地を堪能しながら私は尋ねる。
「異性に服を贈る意味、知ってます?」
「似合いそうで、且つ贈る相手もそれを欲していて、なのに値段を見て怯んだ挙げ句『私には派手過ぎる。似合わないな』と自己肯定感の低い言い訳を並べ立てて購入を諦めた女の子を憐れみ『よし、ちょっと激励してやろう』って他に? 知らないな」
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