7枚目【履けちゃった!?】

「......どう? どこかおかしなところはない?」


 そうだな、強いて言えば幼馴染の部屋でスク水に着替えるお前の頭がおかしい、と言うべきだろうか。


 平日の夜。

 明日水泳の授業でどうしても水着を着なければいけない渚は、一人で試着するのが怖いらしく、ベランダから俺の部屋へと突如乱入してきた。


 パンツが消えるのであれば水着もその可能性が――そう考えるのもわからなくはないが、まだ試していなかったことに驚いた。 

 一見気の強そうに見える渚は、変なところで尻込みすることがある。


「......良かったー。まさか下半身の部分だけ生地が消えちゃったりとかしたらどうしよう!? なんて思ってたけど、とりあえず大丈夫そうね」


 俺の前で確認するようクルクル回る度に、渚のほどよく大きい実りが弾み揺れる。

 中学の頃はそこまで大きくはなかったと記憶していたが、成長期というものは時に人を別次元の生き物へと進化させる。


「あんた、さっきから顔が赤いけど大丈夫?」


 久しぶりに異性のスク水姿を間近で見た影響だろう、自分でも体温が高くなっていることを知覚できていた。

 

「ははーん、ひょっとして、私のこのナイスバディに見惚れてたりして? 隠さなくていいわよ。こう見えても私、今でも寝る前の柔軟と筋トレはかかさないんだから」


 どこから得た知識なのか、渚はスク水姿でグラビアアイドル顔負けのセクシーポーズをとって魅せた。

 そういうのはせめてビキニやワンピースでやってほしいんだけど。


「!? それよ!」


 渚は何かひらめいたらしく、大きな声を上げた。


「ちょっと待ってなさい!」


 スク水を着たまま、渚はベランダへと飛び出して自分の部屋に戻った。

 ――あいつ、ノーパン生活ですっかり羞恥心がおかしくなってるな。


 ***


「.........消えてない.........わよね?」


 数分後。

 ビキニタイプの水着を手に再び俺の部屋にやってきた渚は、先程と同じように恐る恐る目の前で着替えて、そう口にした。

 確かに、ビキニパンツはショーツのように消失することなく、今も渚の貞操部分に健在している。


「あー! どうして今まで気がつかなったんだろう。下着のパンツはダメでも水着のパンツは大丈夫だなんて、とんだ盲点だったわ」


 上機嫌で渚は室内をスキップして、ビキニパンツの感触を確認している。

 ノーパンよりかは全然マシとはいえ、それはそれでまた変態だと思うぞ。


「これさえあれば、もうパンチラ、いえモロチラに怯える心配はなくなった」


 含みのある言い方をし、渚は俺に視線を向けにやりと嫌な笑みを浮かべた。


「――というわけだから、あんたとのパンツ契約は今日で終りね。やっぱり全自動自立支援型パンツより、身に着ける物の方がしっかり守ってくれそうだし、何より安心感が段違いだもの~」


 てのひらを返して突如契約破棄を告げた渚は、どこかの高飛車なお嬢様みたいにムカつく笑い方をして俺をイラつかせる。

 

「呪いが消えるまで残り一週間。強風が吹こうが小学生にスカートめくりされようが、今の私に怖いものは何もないわ」


 久しぶりの股間へのフィット感からか、渚のテンションは異様に高まり、腰に手を当てて無敵の人宣言。


 ......だが、それはほんの数秒後、すぐに撤回されることとなる。


 渚の邪念が呪いをかけた神様に伝わったのか、健在していたはずのビキニパンツは突如消失し、元のノーパンスタイル――いや、下裸げらというべき哀れも無い姿を晒した。


「!!!!!!??????」


 渚は瞬時に顔を真っ赤にし、大事な部分を手で隠すようにその場にしゃがみ込んだ。


「え!? ウソでしょ!? 時間差で消えるなんて聞いてないわよ!?」


 神様のナイスタイミングな仕事っぷりに、俺は心の中でサムズアップして称えた。


「この変態! ぼーっと見てないで、何かタオルでもいいから貸しなさいよ!」


 床から俺を睨みつける渚は、まだ自分の立場を理解していないようで。

 俺はもう全自動自立支援型パンツではなく、ただの隣に住む幼馴染兼クラスメイトでしかないんですが?

 再契約するなら、それなりの誠意ってやつを見せてもらわないと......ねぇ?


「.........調子に乗って申し訳ございせんでした。喜んで、最後まで契約の方をよろしくお願いします」


 股間を隠しつつ土下座する渚は、まるでダイオウグソクムシのように体を丸め、地面を這いつくばっていて惨めだった。


 あんまりいじめ過ぎても、逆ギレして下裸で襲いかかられでもしたらいろいろとヤバイので、俺は衣装ケースからバスタオルを取り出して渚に渡した。


「......ありがとう。やっぱり持つべきものは、全自動自立支援型パンツね」


 半泣き状態で渚は下半身の大事な部分をバスタオルで覆い、またその場にぺたりと座り込んだ。

 俺という全自動自立支援型パンツは身に着けられないけど、最後まで、できるだけお前の近くにいて助けになってやるから安心しろ。


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