5枚目【吹いちゃった!?】
渚のパンツとしての生活が始まって一週間。
初日こそ不慣れなことやアクシデントもあって、ずっと冷や汗かきっ放しで大変だったが、三日目辺りからお互い落ち着いて何事にも対処できるようになってきた。
そんな矢先に限って、予想もしない出来事が起こるというもので......。
「どうしたの? 急にこんなところに呼び出して」
放課後。
俺の主はいま校舎裏、非常階段の二階に位置する部分で、隣のクラスの男子から告白を受けている。
朝、
「嫌よ。相手が勇気を出して告白しようとしてるんだもの、雑になんか扱えるわけないでしょ」
と、逆にたしなめられてしまう始末。
「そんなわけだからサポートよろしく頼むわよ。全自動自立支援型パンツさん?」
人に変なあだ名をつけておいて、真下から告白を監視しろとは、悪趣味極まりない幼馴染だ。
だがせめて告白する場所は変えてほしかった。
――そう、階段という構造物がある場所は、スカートノーパンの渚にとってはもっとも危険の多いデンジャラスゾーンなのである。
段差の効果で見えてはいけない部分が見えやすくなることによって、男子というのは条件反射的にひょっとして見えるのではないか? とついチラッと覗こうとしてしまう。
悲しいけどこれ、男のサガです。
「そうなんだ......ちょっと風も強くなってきたし、中入らない?」
おまけに外は熱を帯びた風が吹き始め、髪だけでなく腰に巻いた防御用のカーディガンもスカートと一緒に揺らいでいる。
告白している男子は自分の気持ちを説明するのにいっぱいいっぱいらしく、渚の言葉に耳をかさず一方的に話す。
渚は幼馴染の俺にこそ当たりは強いが、他の男子にそこまでの態度で接する奴を俺は知らないし、見たこともない。
要するに猫被り女の渚は、
「ごめんなさい、いま私、他に好きな人がいるの」
長ったらしく気持ちの悪い説明がようやく終わりを迎え、渚は待ってましたと言わんばかりに即告白を断った。
――が、納得のいかない男子はそれでもなんとか喰らいつく。
本人が嫌だと言っているんだから、いい加減諦めて帰ってくれません?
真夏の熱のこもった非常階段のステップの隙間から、男女の告白を監視する側の苦労もわかってくれ。
「え? それって二番目でも三番目の彼氏でもいいから付き合ってくれってこと? いくら何でもそういうのはちょっと......」
渚が戸惑うの無理はない。
どっかのラノベのタイトルじゃあるまいし、綺麗な言い方をしても所詮は二股・三股だからな。
せっかくの恵まれた容姿だというのに、渚に断られただけでこうも情けなさと哀れさが露わになるとは。残念陽キャめ。
「聞いて、私、彼氏は一人しか作らないことにしてるの。さっきも言ったとおりあなたの気持ちは嬉しいけど――」
風はどんどん強くなっていき、渚もいろんな意味で我慢の限界に近づきつつあるのが、姿はハッキリ見えなくても
俺自身もこれ以上無駄に暑さと我慢比べをしたくなかったので、いい加減助け船を出すことにした。
あくまでたった今やってきた風を装って二人の間に割って入る。
渚は安堵の表情を浮かべ、男子からは『誰だお前?』というような顔をされるも、担任の先生が探していると嘘情報を流せば渋々諦めその場を退散していった。
「遅いわよバカ! 危うくあの勘違い節操無し陽キャ男に犯されるところだったじゃない!」
助けてもらった相手への第一声が罵倒とは。
この幼馴染は本当に昔からブレない。
まぁ、そこが渚の良くも悪くも個性なんだがな。
にしても、告白した相手が綺麗可愛い外見とは裏腹に、実は毒舌ツンツン女とは夢にも思うまい。
同じ男子として、ちょっとだけ同情する。
「まぁいいわ。用事も済んだことだし、さっさと家に帰りま――」
ガードが甘くなった瞬間を狙ったスナイパーの如く、夏の生暖かいビル風は渚のスカートをめくるように強く吹いた。
俺の視線は、”本来パンツが位置する場所”へと釘づけになる。
「!!!!!!??????」
声にならない悲鳴を上げ、渚は風で
真っ赤な顔は瞳に涙を決壊寸前まで溜め、俺を凝視する。
「.........今、見たわね?」
見たか見てないかなんて、そんなことは大した問題じゃない。
例え薄くても、それをひっくるめて全部受け入れ・好きになってくれる相手と出会えるといいな。
俺から言えるのは以上だ。
「――キオクヲケスマエニ、ナニカイイノコシタコトハアルカシラ?」
瞳を妖しく光らせ、渚が拳をつくって指の骨をポキポキと鳴らし始めるのを見て、俺は自身の末路を本能的に悟った。
ちなみに俺はうす......あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!
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