4枚目【作ってきちゃった!!】

「うん、私も昨日の配信見たよ。タロメ嬢、ホント毎回超面白くておハーブ生えるよねー」


 二時間目と三時間目の合間の休憩時間。

 なぎさは自分の席に座りながら、クラスの友人数名と大人気Vtuberの話で盛り上がっていた。

 それを生暖かい横目で見守るパンツ、改め俺。


「体調? 朝に比べてだいぶ良くはなってきたかな。ありがとね」


 友人の一人がいつもと様子の違う渚に心配の声をかけた。


 無理もない。


 渚は今ノーパンで学園生活を過ごし始めたばかりなのだから。

 鋼鉄級に気の強い彼女だからこそどうにかなっているが、これが凡人JKだったら発狂して家に引きこもっていただろう。

 

 *** 


「ホント......初日から最悪」


 昼休み。

 俺と渚は誰もいない理科室で昼食を共にすることに。


「だって仕方がないじゃない。お昼ご飯の時ぐらい、みんなの視線から解放させなさいよ」

 

 ノーパンを気にしての学園生活は相当精神的にきついのか、疲労の顔が目に見える。


 結局、朝は通学中に渚の腰がぬけてしまうというアクシデントにより、二人揃って遅刻。

 怪しまれる可能性を考慮して、担任の教師とクラスメイトには、駅で見かけた体調不良の渚に付き添ったための遅刻というシナリオにした。 


「それにあんた、いつも教室で一人寂しくボッチ飯してるじゃない。この清楚華憐な私が誘ってあげてるんだから、少しは感謝したら?」


 俺の中の清楚華憐な女子は、ノーパンで学校中を平気で徘徊するようなタフな精神力は持ち合わせていない。

 人並みより可愛いくて美人だと自覚しているだけに面倒だ。


「また今日もパンだけなの? 相変わらず食べ物に対して欲がないわねー。そんなんじゃ、いつまで経っても大きく立派になれないわよ?」


 呆れた表情で俺の昼食にケチをつけた渚は、トートバッグからサイズの違う弁当箱二つを取り出した。

 そして何故か大きい方の弁当箱をこちらに突き出す。

 

「――はい、これあんたの分。勘違いしないでよね! 別にあんたのために作ったわけじゃないんだから......ついでよ、ついで」


 頬をしゅに染めて目を逸らす渚が、強引に手渡す。

 まぁ、せっかく作ってきてくれたものをいらないと言ったら殺されるので、一応ありがたくもらっておきますか。


 開けてみると、そこには米・肉・野菜がバランス良く詰められていて、中でも俺が注目したのは、タコさんウインナーと思われる物体。


「昔、おばさんに聞いた作り方を思い出しながら作ったんだけど、どうかな?」


 ......どうも何も、肌色をした不気味な微笑を浮かべている未知の生物にしか見えない。

 はっきり言って、背筋がゾッとする。

 

「何よその反応。確かに見た目はアレだけど、味は保証済みよ」


 逆にどうすればウインナーの味付けに失敗するのか知りたいくらいだが、俺はゴマでできたその未知の生物の目と視線を合わさないよう、口の中に放り込んだ。


「――どう、かな?」


 恐る恐る顔を覗いてくる渚に、素直な味の感想を伝えた。


「そう......良かった」


 安心して嘆息する渚の表情には、ほんのりと笑みが浮かんでいるように見えた。


「他のおかずも結構な自信作だから、早く食べて感想を聞かせなさい」


 言い方を察するに、どうやら冷凍食品を一切使っていないようだ。

 今日からノーパン学園・日常生活が始まるというのに、早朝から呑気に料理とは。

 お前の方こそタロメ嬢よりおハーブ生えてるよ。 


 感想を催促する渚に見つめられながら、俺は米粒一つ残さず弁当をたいらげた。

 

「――ねぇ、もしあんたさえよければ、私が毎日お弁当作ってきてあげても、やぶさかじゃないわよ?」


 渚も俺が食べ終わるのとほぼ同時に自分の弁当を食べ終え、紙パックの牛乳をちゅーちゅーと吸いつつ、ツンデレのテンプレみたいなセリフを口にする。

 俺としては昼飯代が浮くのは助かるし、申し出を断る理由もない。

 だがここは幼馴染を無駄にからかいたいという邪念が生まれたので、敢えて一度素っ気なく冗談に断ってみた。


「ハァッ!? あんた今さっき私の作った料理美味しいって言ったわよね? バカなの?」


 笑顔から一転、鬼の形相で迫る渚に気圧けおされ、迂闊うかつな行動に出た自分に後悔する。

 手に持っていた紙パックの牛乳は力強く潰され、ストローから中身が漏れ出して床に滴る。


「い・い・か・ら! あんたは黙って私の弁当を毎日食べること。パンツが主人に逆らうんじゃないわよ。わかった?」


 ポニーテールを大きく上下に揺らして、傍から見れば俺が脅迫されているんじゃないかと思えるようなシチュエーション。

 からかったことを渚に謝罪し、改めて学校でのお昼ご飯をご相伴しょうばんにあずかることをお願いした。


「まったく、そこは素直に気持ちを口にしなさいよね。ホント、昔から変わってないんだから......」


 そう言って白い液体で大惨事になった手をハンカチで拭く渚は、気のせいか少し嬉しそうな雰囲気だった。 



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