第11話 最終話、僕の家族
気が付いたら将勝と小春は付き合っていた。付き合い始めの頃の記憶はお互いに曖昧である。毎週日曜の戦闘の後は将勝の家でするのが習慣となり連動してスミレの帰宅も遅くなりがちで一緒に食事をとることも少なくなった。
一番変わったのはママンダーだ。急に色気が無くなった。
それどころかやたらと説教臭い。「ちゃんと避妊しているか?」戦闘中そんなどうでもいいことを口にする。
「おのれホッパー、おぼえておれっ!」
という捨て台詞とともに、必ず避妊具一箱を投げつけ立ち去ってゆく。
コスもダサくなりいつの間にか『M様のコス』も視ることが無くなった。
大学に進学しても将勝たちの関係は続き3年の秋に婚約した。
「オッサン、一体どういうこと?いつの間にそうなった?」
「いや、4年前に学園の保護者会で知り合ってね、お互い一人者同士だったし、私も妻に先立たれて18年、寂しかったんだよ。ほら、運命の人ってさぁ、わかるんだよなビビッとね。‥‥なんだよその目は、いいじゃないか、私だって命より大事な小春を君にあげるんだ。君だってお母さんをくれたっていいだろ。絶対に幸せにするからさぁ祝福してくれよ。」
「辞めると申すか」
その男は左目と口元の顔面の一部を除いて機械化されていて体のあちこちからケーブルやチューブが出て大型の装置と接続されている。
ジョッター総帥ドクター・アンノウンだ。
彼の目の前には辞表と書かれた封筒がある。
「はい、もう46でして、こんなオバちゃんが露出多めのボディスーツで戦うのも世間に申し訳が立ちませんし、息子も就職が決まり婚約もしました。ひとまずは人生を仕切り直したいと思いまして」
「いや、まだまだお前は捨てたもんじゃない。それに熟女路線も一定のファンがおる。まぁ、お前には大分苦労をかけてきたから快く送り出してやりたいのだが、そこを何とか考え直してくれぬか?いずれ総帥職を任せたいとも思っているのだが」
「実は、こんな私でも、もらっていただけるという男性が現れまして。遅まきながらお嫁に行けるチャンスに恵まれました。もう女幹部は無理でございます。何卒お暇をいただきたく存じます。」
「うーむ、ウチも人手不足でなぁ、困ったのう」
「そう思いまして、実は後任を連れてまいりました。」
「初めまして、畑中小春と言います。すでにテイコク・グループの内定はいただいております。春からはおばさまの後任として会長秘書兼ジョッター幹部として精一杯頑張ります。お仕置きもガンガン行っちゃいますから任せてください。おばさまよりえげつないのを御覧に入れます。」
小春は幸せであったが今一つ満たされない。
ドMの小春はもっと乱暴に扱ってもらいたいのだが、付き合いだしてからの将勝は以前のような荒々しさや冷たさが無くなり優しくなった。
性行為も極めて常識的なもので、彼女が望む「お仕置きタイム」に準ずる行為は全くない。
しかし、小春の口からそんなことを将勝に要求することはできない。一歩間違えれば関係が終わるかもしれないからだ。
小春は悩んだ。こんな恥ずかしいことを相談できるものはいない。一人を除いては、
「聞こえる?ママンダー」
「ん?何者だ!」
「通信網に勝手に割り込んでごめんなさい。私はエクリプスオペレーター、ホッパー担当の畑中小春よ。この通話はあなたと私以外誰も聞いていないわ」
「え、何ですって?あなた小春ちゃん?」
スミレはうっかり地声で返事をしてしまった。
「その声は!…ひょっとしておばさま?」
「ちっ違うわ、私は、えーと、声がスミレに似ているだけのママンダー。ジョッター幹部だ。」
「もうグダグダよ。おばさま。それじゃ認めたも同然よ。」
「お願い、将勝にだけは内緒にして」
「もちろんです。とても言えませんよこんなこと」
「で、どうしたの?小春ちゃん。今戦闘中なんだけど。」
「明日時間を作ってもらえませんか?相談したいことがあるんです。」
ビジネスホテルの一室、スミレは手渡されたタブレットの映像を見て極めて冷静に落ち着いて話す。
「この映像の女は私よ。弁解の余地はないわ、これが私の本性、軽蔑されても仕方ないわね。でも将勝は違う。それだけは信じて、あの子は純真な子よ。」
その場でひざまずく、
「おばさま、顔をあげてください。責めに来たわけではありません。同じなんです。私も拷問プレーを期待して悶々とするふしだらな女です。でもとてもこんなこと将勝さんには頼めません。ですからその道に詳しいママンダーに相談しようとしたらまさか正体がおばさまだったとは、」
「??え、小春ちゃん‥ 何言ってんの?」
「わたしも、おばさまみたいにドッロドロのグッチョングッチョンにされたいの。お願いです。力を貸してください。」
将勝の部屋、二人は裸でベッドの上である。
「なんで?畑中グループ一人娘のお前が商売仇のテイコクに就職するの?意味わかんないんだけど。」
「職業選択の自由よ。それとエクリプスも辞めるし将勝君のサポートも辞めるから、」
「ウソだろ、お前なしでどう戦うんだよ。」
「大丈夫。何とかなるわよ。」
「おい、無責任だぞ!俺を戦いに引き込んだのはお前とオッサンだろ。今更辞めるなんて納得いかねぇ…って、小春…ナニ被って‥ん…だ‥」
その時小春は防毒マスクをかぶっており、将勝はベッドの上でぐったりしている。
「おばさま、寝たわよ。」
ガウンを着ながらスミレを呼ぶ。
小躍りしながら部屋に入ったスミレは目を爛々と輝かせている。
「まぁ、ちょっと前まで小っちゃいドングリちゃんだったものが、いつの間にやら立派にお育ちになって」
むき出しの股間を見ながらしみじみと言う。
「ね、小春ちゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから触っていい?」
「だーめ、そんな時間ありません。おばさま、早く洗脳のやり方教えてください。」
その女幹部のボディスーツはシルバーメタリックの特殊素材で両肩からヘソ下15センチのところまで一気に切れ込みが入り、辛うじて乳首が隠れる程の露出ぶりであった。
背面はTバックで臀部はまる出しである。純白のハーフジェットのヘルメットにミラーゴーグルをかけ口元には毒々しくルージュが引いてある。
「き、貴様は何者だ!」
「ホホホホ、私はデス・ナインダー。9番目の幹部、覚悟するがよい、ホッパー。」
「ムムッ、胸がないからナインダーか、確かにわかりやすい。」
「ちがーう、9番だ9のナインだ。」
「先代の半分もないじゃないか。」
「う、うるさい。行くぞっ食らえ!」
ナインダーはレイピアを刺突する。
カン!
金属音が虚しく響く。
ソリトン通信が届く、
「今だ、お仕置きよ。将勝!お前の怒りをその女にぶつけるのよ。」
先月からオペレーターを務めるスミレの声が響いた。
さすがテイコクの秘書室長を務めていただけあって、指揮命令は的確で堂に入っていた。声がどことなくママンダーに似ている。
この女よく見れば小春と同じくらいの年頃だが真逆の存在だ。この挑発的なコスチューム、恥じらいというものが全くない。
清楚で奥ゆかしい小春とはえらい違いだ。
こんな時いつも小春が勇気づけてくれたのに将勝を置いて戦いの場から離脱してしまった。
すべてはこのナインダーとかいうふざけた女のせいに思えてならない。
「ゆっ 許さーん、お仕置きじゃぁぁ、」
どす黒い怒りと共に加虐衝動がムクムクとわいてきた。
「僕の家族」
2年1組 畑中大吾郎
ぼくの家には、お父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんがいます。
おじいちゃんはお母さんのお父さんで、おばあちゃんはお父さんのお母さんです。
何だかむずかしくて僕にはよくわかりませんが、とにかくみんな仲良しです。
おじいちゃんとおばあちゃんは年を取ってから結婚したと言っています。
おじいちゃんは太っちょだったそうですが、おばあちゃんと結婚したら1年で30キロやせたそうです。
優しいおばあちゃんですが、夜はジゴクとおじいちゃんは言います。
何だかよくわかりません。
土曜の夜はいつも凄いごちそうが出ます。
お母さんはお父さんにスッポンとか牡蠣とかとにかく元気が出そうなものを食べさせます。
その時お父さんは「オシオキはセイギのためだわかってくれ」と口ぐせのようにいいます。
お母さんは「日曜のオシオキだけは目をつむります。だけどそれ以外はヨソでシテはダメ」といいます。
何だかよくわかりません。
僕の家はなぜか毎週日曜日は誰もいません。僕はお手伝いのキヨさんとお留守番です。
だいたい夕方前にみんな帰ってきます。夕ごはんは大抵お父さんが作るカレーです。
お父さんはげっそりと疲れていますがお母さんはなぜか機嫌がよくてうれしそうです。
ふしぎな家族ですがぼくはみんな大好きです。
おわり
これは母と妻が「悪の女幹部」であるにもかかわらず、そのことに気づかぬまま一人戦うヒーローの物語である。
俺は正義のヒーロー、まさか母親が悪の女幹部だったとは知らなかった。しかもその露出高めのコスは何だっ! 今年で42だろっ! カワラザキ @zapper650
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