ぎゅっと、牛タン

羨増 健介

One Day

 彼岸と云ったらそりゃあ旅行でしょう。と言うのは一概に言えないのが私には有る。会社の安寧を噛み締めているこつよりも、牛タン弁当をほうばる事の方がわりかし大事だったりするこの頃。


 私はデスクにて八枚切りの牛タン弁当を丁寧に丁寧に食していた。


 薄けれど弾力、歯応えがその名に相応しいと豪語出来る程、この牛タンはようくできていると我ながら毎度の事に思いを巡らせてしまう。


 あゝ、愛しき牛タン弁当! 素晴らしき牛タン弁当! 私は貴女様のことは一生忘れはしません。 何時迄も貴女様について行きます。例え、どんな災難に見舞われ様とも決して構いませぬ!


 と熱狂的で有ることは一目瞭然だろう。私には牛タン弁当が無ければ生きては行けない。強いて言えば、ジャーキー。カルパス、等々……肉が無ければ生きてはゆけないカラダなのだ。


 だが、酒は飲めない。いや飲めない、健康体なのだ。


 牛タン。あゝ、牛タン。豚のたんも好きだが、やはり牛タンだろう。


「課長。そろそろA会議室にて談合ですよ」


 ガチャリコとドアノブを開ける音と共に顔を半分だけ出す部下の椰子。私はこう言ってから再び弁当に手を付ける。


「三分遅れると潟に伝えておいてくれ」

「分かりました。いつもっすね」


 と溜息混じりの吐息と飽きれ顏を見せながら退散する部下の椰子。

 

 いや、これでいい。これでよかろう。私は牛タンが必要だ。そして牛タンも私を必要にソウイナイ。なんたって、なんたって。


 私は牛タンが大好きだからだ。


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