1話 何かを求めて

ごく平凡な道を僕は歩く。

何の刺激もない、何も心から生まれない。

そんな道を僕は今日も歩く。

ただ、同じ道でも一つ違っているのは、

この道が最後だという事だった。


校門前に掲げられた卒業という文字。

思えば高校時代は光陰の矢のように終わっていた。

僕はこの瞬間を懐かしく感じる日が来るんだろうか。

他の記憶達と同じように瓦礫の山となるのか。

それはわからない。


いつもと同じように友達とファーストフードに

行って、カラオケ店に行く。


友達との別れもいつもと変わらない。

みんなと別れて、僕は何故かビルの裏路地に迷い混んでいた。

いつもと違う何かを求め。

『何か』

馬鹿らしい。

元いた道に戻ろうと歩き出す。

すると後ろから嫌な気配がする。

背筋から冷たい汗が流れるような嫌な感覚。


僕はゆっくりと後ろを振り返った。

そこにいたのは、人間でも動物でもない。

赤い皮膚に、背中から見える赤い羽。

目は黄色く、歯と爪は鋭い。

こいつ。

僕はこれと同じ生き物を知っていた。

最近行方不明になる人達の近くで目撃されている怪物。

『ガーゴイル』

人の魂を吸って生きる怪物と言われている。

僕は後退りし、一気に駆け出した。

ガーゴイルは一瞬にして僕に追いつき、足に噛みつく。

痛。

足に激痛が走り、僕はその場で転んでいた。

ズボンの裂け目から赤い血が流れているのが見える。

嫌だ嫌だ。死にたくない。

僕は片足で必死に、必死に逃げようと足掻いた。

 

「はぁ、はぁ。誰か、誰か助けて。」

 

声だけがビルの合間に山彦のように響く。

あいつは僕をわざと歩かせて遊んでいる。

わかっていても何もできない。

くそ。目眩がしてきた。

あいつの息が真後ろに聞こえる。


ハァハァ。まだ死ねない。まだ。

生きる意味も持てない僕だけど、まだ死ねない。

死にたくない。


急に力が抜けていく。

おかしい。

 

蒼白い光が僕の体から抜けていく。

なんだよ。これ。

僕から出た青白い光はガーゴイルへと吸い込まれていく。


あぁ。僕はこのまま死ぬのか。

死ぬ時はなんて呆気ないんだ。

僕は歩く事もできなくなっていた。

朦朧とする意識の中、ダーンと激しい音が鳴る。

ガーゴイルの体に穴が空き壁にぶつかる。


何が起こった?

目の前には黒服のスーツ姿の男がいる。

ネクタイをせず、アゴから髭を生やしてサングラスをしている。身長は175センチ、年齢は30〜35歳くらいだろうか。

印象的だったのは背中にある鞘だった。

その男が僕を見る。


「坊主大丈夫か?」

「は、はぃ。」


男は懐から紅い液体が入った試験管を出してきた。

「これを飲め。」

「これは?」

「傷が治る薬だ。」

そんな薬聞いた事もない。

怪しいとは理解していても、今の僕に選択の余地はない。

薬を飲んでみると、ガーゴイルに噛まれた部分が光再生していく。数秒後には元の足になっていた。


「すごい。」

「おまえ、魔力が。話は後だ。しばらく、そこにいろ坊主。」


黒服の男は鞘から刀を取り出した。

ビルの隙間から見える月明かりで刀は金色に光って見える。


ガーゴイルが男に襲いかかろうと一気に間合いを詰める。

男にガーゴイルの爪が当たる瞬間、手は空に飛ばされ

ガーゴイルの体は二つに裂かれていた。


一体何が?

僕には何も見えなかった。

わかるのは、男が刀で斬ったという事だけだ。


ガーゴイルは「ギィギィ」と叫びながら

消えていった。

 

僕は薄れていく意識の中で男の背中を見ていた。


―――――――――――――

目を開けた次の時、僕はベッドの上だった。

「あら起きたかしら?」

眼鏡をかけた長い黒髪の女性がそこにいた。

歳は30歳くらいだろうか。

屈むと胸の谷間が強調されるくらいスタイルがいい。

「は、はい。」

彼女は僕に血圧計のようなものをつけて

何かを計測している。

「アレクのいう通りね。」

「アレク?」

「あなたを助けた無愛想な男よ。」

あの刀の男か。

「あれでも昔は、愛想が良かったのよ。」

バタンと扉から乱暴な音が聞こえた。

「誰が無愛想だよ。」

煙草を咥えながら頭を掻きやってきた。

「あなたね病人がいるんだから、煙草は駄目でしょ。」

女がパチンと指を鳴らすと煙草は燃え上がり灰も残らなかった。

「あちち。たくあぶねーな。ミーシャ、イライラしてたら婚期逃すぞ?」

「あんた燃やすわよ?」

ミーシャは中指と親指を交差させ鳴らす準備をする。

「おいおい、冗談だよ。」

「私は本気よ?」

 

しばらく間が空き、僕は間を埋める言葉をアレクさんに発した。

「ありがとうございました。アレクさん。」

「あー? お前悪運強いな。俺はたまたま魔素が高い場所にいただけで礼なんていらねーよ。」

「あら、勇者ともあろうアレク様が照れてるのかしら?」

「んなわけねーだろ。いちいち勇者なんてつけるな。中2病患者みたいに見えるだろ。」


勇者、魔素? 勇者についてはSNSで最近話題に挙がっている。魔物のを倒している組織があり、現代に転生した勇者がその組織にいるとかいないとか。


「あのすみません。魔素って?」

「ミーシャ説明してやれよ。」

「仕方ないわね。魔素と言うのは、あなたみたいに魔力を多く所持する者から溢れ出た魔力の事よ。魔力は、生き物にある生命エネルギーみたいなものね。魔素に誘きよせられ魔物は寄ってくるの。」

「今まで襲われたことなかったんですが。」

「あら、なら君は覚醒者ね。」

「覚醒者?」

「魔力が急激に高くなる人が時折いるの。私達は覚醒者と呼んでいるの。」

「お前、これからずっと魔物に狙われるぞ。」

アレクは突き放すように言い放った。

「じゃあ、これからどうすれば。」

「てめー、ガキじゃあるまいし自分で考えろ。」

「アルクその言い方はひどいんじゃない?」

「ちっ」

アルクは壁に唾を吐いた。

「ごめんね。そういえばまだ君の名を聞いてなかったね。」

「山本はじめといいます。」

「よろしくね。はじめくん。私はミーシャ•クロイツ。公安の魔物取締課に属する警察官よ。あの口が悪いのも私と同じ警察。」

「何が警察官だ。『終焉の魔女』の名がなくぜ。」

パチンと指を鳴らすと、アレクの髪が一部燃えていた。

「あちち。何すんだよ。」

ミーシャはアレクを無視して僕を見た。

「君このままだと魔物に狙われるわね。もしよかったら、冒険者組合ギルドに入る?」

「ギルド?」

「ギルドはね、私達みたいな異世界から来た転生者が集まってできた組織なの。転生者は魔力が高いのが多く、魔物に狙われやすいの。だから、魔物に対抗するためギルドって言う組織ができたのよ。この魔物取締課はギルドとも繋がっているの。どう、悪くない話でしょ?」


この二人は転生者だったのか。勇者と魔法使いか。

思っていたイメージと全然違うな。勇者は誠実で勇敢というイメージがあるけど、アルクさんからは誠実さは全く感じない。勇者にしてはラフな格好、汚い言葉使い。

チンピラという言葉の方が合っている。

ミーシャさんは、スーツ姿が似合っていているキャリアウーマンのような感じで魔女には見えない。

ギルドか。

入るしか僕が生き残れる道がないのなら

入るしかない。

今までの生き方と対して変わらないか。


「ギルドに入るしか無さそうですね。」

「そう。じゃあ少し待ってね。」

壁側にある机から紙を持ってきた。

「これは機密保持契約書。ギルドについては秘密なの。

この紙には魔法がかかっていてサインすると外部には一切話せなくなるの。読んで問題なかったらこのペンでサインしてね。」

何か力を感じるペンと紙を渡された。


難しい契約内容ではない。デメリットは秘密を話せないだけでメリットの方が大きい。

僕は署名をした。


契約書は光を放ち僕の体を包みこんだかと思ったら、

契約書は消えてなくなった。


「これで契約成立ね。アルク近くのギルドにはじめくんを連れて行ってあげて。」

「あ? なんで俺が。」

ミーシャが指を交差させる。

「わかったよ。だから燃やすなよ。」


アルクさんは指で来いと合図する。

僕は不安と期待に体を震わせ歩き出した。

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『逆異世界転生』警視庁公安部魔物取締課 〜現代に転生した勇者は性格まで転性してしまったようです〜 劉水明 @yanwenly

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