Novelber day 30 『塔』

 塔の天辺を目指して昇る。息を切らせ、螺旋階段を駆け上がる。

 そこに、囚われたのお姫様はいない。悪いドラゴンも、隠遁した賢者も。全てはみんな、子供向けの御伽噺。今となっては時代遅れで、ロマンチックな幻想と化した。

 それでも、唇の端から溢れる吐息は白く霞みながら、ゆらゆらと私を急かす。体の内から熱くなり、寒さを無視して汗だくになる。

 この街と共に生き、この街の歴史を背負ったこの尖塔。観光地の一部となった今でも、街を見守るその塔の天辺に――ようやく私は、辿り着いた。

 鮮やかな朝焼けが、目の前に広がる。金色の光に、街中の屋根が輝いている。私は深く深呼吸をして、汗を散らして、叫んだ。言葉にもならない、意味もない、ただの大声を放った。子供みたいに。

 そう、今はもう囚われたのお姫様も、悪いドラゴンも、隠遁した賢者もいないけれど。それでも私は、若い四肢を持て余しながら、今を生きている。

 眩い光を両目に受けて、私はこの街の一番高い場所で、一人で立っている。

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物語の小箱 -2020 Novelberまとめ- 鳥ヰヤキ @toriy_yaki

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