Novelber day 29 『白昼夢』

 パチ、と瞼を開ける。同時に、夢の泡が弾ける。

 夢の中で見る光は現実よりもずっと鮮やかで、艶やかで。どうして僕はあの光の中に居られないのだろう、と全身に掛かる不快な重力に押し潰されながら、思う。

 けれど、夢から覚めても消えないものもあった。それが、君だ。

「……おはよ」

 声を掛けても、君は返事をしない。ただ、鮮やかな虹色の光を纏って、プラズマのように、そこに居る。君は白昼夢なの? それとも天使? 或いは、病んだ僕から生まれた幻覚? 何でもいいけど。

 僕は、決して彼に触れない。もし、君が泡のように消えてしまったら、僕はきっと本格的に、この現実に耐えられなくなるから。だから、君と暮らす。無言に、無為に、辛うじて顔らしきものが見えるだけの、不思議な君と。……あぁ、こんな歪んだ僕の有様がもう既に、悪い夢みたいだよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る