第8話 初めての部活だァァ!

「「失礼しまーす」」

と漫研のドアを俺と七条と莉子さんは同時に開けた。


その部屋の中は案外閑散としていた。質素な木製の本棚の中に綺麗に並べられた本は日焼けしていることから長年使われて来たことが分かる。目の前の長テーブルの端の椅子には両肩に綺麗な黒髪を垂らしたメガネの女の子が上品に座っていた。


「え、あれ、七条?、えーとその人たちは、誰?」

その女の子(先輩だろうか?)は目を丸くして、驚いたと言わんばかりの顔でそう訪ねてきた。


「漫研に入るらしい人達です」

「よろしくお願いします、神石莉子と言います」

「今日から漫研に入ることになりました来栖明と申します」

「え、こんなにいっぱい」

その女の人は明らかに動揺していて、席を用意しなくちゃと慌ただしく動いていた。


そして一通り落ち着いたあと、俺たちと向かい合う形になったその女の人は口を開いた。

「私の名前は香苗木凛、一応この部活の部長だよちなみに2年」

「「よろしくお願いします」」

礼儀正しく声を揃えて言う。


「さて、新しく部活に入った君たちに言っておくが、この部活の部員は実質私を含めて4人しかいない、たまに来る五人もいるんだが、まぁいないのと同じだ」

「他の部員の人はいないんですか?」

「35人いる、なんなら君たち以外にも今年10人も一年が入ってきた、だけどあいつらはサボるためにこの部活に入ったのさ、だから戸籍はあっても部活には来ない」

「そいつらもったいないですね」

「「ん?」」

やべ、先輩が心底寂しそうに喋るもんだからつい思わず言葉が出ちまった。まぁいい言っちゃえ


「だってそうでしょう、たった一度きりの高校生活、何もやらずに過ごすのはもったいない、サボるために部活に入るだなんて、もってのほかだと思います」

どやぁ、と口と目尻を少しだけあげる。うんうんいいこと言ったなー。


((達観しすぎでしょ))


そんなことを莉子さんと七条が考えているとも知らずに俺はドヤ顔を続けた。


「ははっ確かにそうだな、あいつらはもったいないことをしてる、その分私らは青春を謳歌してるんだ、つまり私たちはあいつらの上にいるってことだな」

「はい、その通りですよ!」

軽く笑いながら言う香苗木凛先輩に激しく同調する。


「ふっ、ありがとな来栖、私は少し下を向きすぎていたようだ、今はお前たちがいるのにも関わらずな」

「へへっ気にすることなんかないですよ先輩」

よし、主人公っぽいことその二・人差し指で鼻の下を擦る、ができたぜ。一体どれほど練習してきたことか。


「そ、そうですよ先輩、私たちはちゃんと来ますから」

莉子さんが俺に続いて先輩を慰める。


すると先輩はそれを手で制しながら何回も、大丈夫、と繰り返し言っていた。


そしてその流れが落ち着いてくると先輩は一度手を叩きハキハキした声で言う。

「よし!じゃあ今日は自己紹介の会ということにしよう!じゃあ七条から!」

「あ、はい、僕の名前は⋯⋯」


と、言う感じに進んでいき、今日の部活は終わりを告げた。


「よし、じゃあ帰るか、今日の部活はこれで終わりだ、皆お疲れ様」

部室に一人残り俺たちに手を降っている先輩に違和感を感じ、口を開く。


「先輩は、一緒に帰らないんですか?」

そう聞かれた先輩はハトが豆鉄砲食らったような丸くした目で少し体をビクつかせている。

「うーん、行ってもいいんだが、今は少しやることが残っていてな、先に帰っててくれ」

「そう、ですか、はい、分かりました」

そう言われた俺たちは大人しく部室のドアを閉めた。寸前見えた先輩の顔は酷く冷たそうな雰囲気を醸し出していた。


パタンっとドアが閉まってから七条が口を開いた。

「先輩、まだ僕達のこと信用してないのかもね」

「と言うと?」

莉子さんが聞き返す。


「先輩の最後の僕たちを見つめる目がすごく、すごく冷たい気がしたんだ、いや、その、気のせいかも知らないけど⋯⋯」

とんでもなく自信が無さそうに先細りそうな声で言った。


俺もそう思ったけど、七条と同調するのは嫌だから口をつぐむ。


「だとすれば一体何がいけなかったのでしょうか」

「「⋯⋯⋯⋯」」

莉子さんのその一言に俺たちは押し黙る。静かになった廊下の中で外から聞こえる雨の音だけが静かに響いていた。











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来栖くんは主人公になりたい 紅の熊 @remontyoko

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