第5話
「——ありがとうございました。またのご来店を、お待ちしてますよ」
すこぶる
それに比べて……
「
「ぬほほほ。豊満そうだなんてそんな」
「
「ひょほほほ。可愛すぎるだなんてそんなに褒め散らかさないで貰いたい」
ちびっこは怪奇じみた笑い声をあげていて、その原因に当たるりんねはとうに興味関心をありありと示している。丁寧に
なので、りんねが幼子の地雷を踏む前に、動く。
「とりあえず。……りんね、次に行きたいところはどこだ? 一応、お前の要望に
「なぬ。私という女郎がありながら」
「えっ、みことってば彼女的な人いたの……⁉」
「————。好きにしてくれ。りんね、お前の行きたいところに行こう」
事態の糸をあやふやに絡ませる名児を、好き勝手に喋らせると
ともかく。
先陣をりんねに切らせねば始まらない。行き先を
「それじゃあ手堅く、ショッピングとでも行こうか」
「おぉ街中での買い物——〝らしさ〟たっぷりでよきかな」
「……お気に召したようでなによりだ」
わがままな二名の控えに回るよう、足並みをワンテンポ
ウキウキ気分で二人は歩き、今にでも小躍りしてしまいそう。
それにしても、妙に波長があっているように見えて、
「流石は都市部だな……。デパートもテナント数も多くて、なにより建物の背が高い」
「ねー。住んでる環境が段違いというか……」
「うんうん、
「「……うん?」」
時折
思わず首を傾げて、意図を
「あ、着いたね。じゃ私は本屋に行ってくる」
「お、おう……?」
「またねー」
自動ドアに消え入るような背丈が、さっさと駆けていく。迷子センターに扱われないことを、祈っておこう。
さて、それではここからがりんねの
「よぉしみこと。まずは化粧品からだ!」
「おう。ぞんぶんに楽しめ」
幕開け。その文字が脳裏にチラつくと、俺の手首はりんねに掴まれていた。
そこからは雷撃戦のように、速攻のショッピングを繰り広げる。
香りを充満させすぎぬように入り口手前に
その片手間にナチュラルメイクを施されかけたのは、語るに及ばない。
「次ぃ!」
「おう」
狭所の雑貨屋へと
細道が多く、種別組み分けもなされていないが故の人だかり。だが、袋小路に迷い着くこともなく、りんねは茶葉を手にレジへ。
会計を済ませると、人の流れを読み取って店を後に。……どこでそんな技術を覚えたのか知らないが、よく耳にする満員電車というヤツも、りんねは耐え忍べる気がする。
「次~!」
「うん」
そうやって、各地を転々と回っていく。
本当に、幼馴染
「楽しいね、みこと!」
「もちろんだ。……が、この量、バイクに
「イザとなれば頭の上に乗せる感じで」
「そんな
ずっしりと重量を
ともあれ、ここまで散々に同伴し続けたので、ここにきて労を
「ふっふーん、最後はアパレル、さ」
「外行きの服でも買うのか?」
「いんや、その逆。部屋着を買おうかなぁ、と」
部屋着。……思えば、りんねは色々と服を仕舞い込んでいるくせに、部屋着に採用しているのは五着程度だった気がする。もはやコレクター気取りでは、と問うたところ、解っていないとドヤされた思い出があった。
ただ、ハッキリ部屋着と明言したものを買うとなれば……
「えぇと、俺はなにをすれば?」
「センスを値踏みしてほしいんだよ。女の子にとって、部屋着ですらセンスが問われてしまうのだからね」
「あぁなるほど……」
目に見えて結末が
「じゃ、選んでくるねー」
「お、おう」
思案することなどお構いなしに、黒髪が
いやしかし、一人取り残されても困るものだ。適当に服を見ているフリをしても、間違いなく声をかけられてしまうし……なにより、オシャレを気取るほど見た目に
「(……駄目だ、そんな考えだから高校生らしさが薄いんだ。よし、ここは張り切って俺もいいチョイスの服を……)」
今までの考え方では、すこしも非高校生ぶりを脱却できまい。——いや、どうしてそんな理念に着想したのかは自分でも知らぬが、しかしそれで説明はつく。
用も無いのにぶらついたり、友人と休日に遊んだり、楽しい近況を報告するような自撮りをしたり……きっと、自分はそういう普通に
だから、この間は自転車で変に
「(そうか。俺はそんなことを望んで……)」
高校生でいる間は、それらしい普通が欲しい、と。最近になって不可解な行動をしている振り返りで、自分を
そうと
靴先を転じ、紳士用服のコーナーにでも……
「お客様何をお探しでしょうか?」
「え、いや……」
「お客様は
「っぐ、いや、」
「
「試着⁉ い、いや、まだ何も、」
ただし、頼んでもいないことだ。
おまけに巨体は退路を
「お客様——」
「おっ、見つけたよ、みこと」
改めて自分の社交能力が
「おっと。……うん、ハハハ、私のツレなので、面倒は私が見るから大丈夫です」
「……そうですか。では、ごゆっくりと」
「助かった……ありがとな、りんね」
「えー、
「そんなこと——いや、確かに、こんな状況ばかりはそうだよな。……すまん」
「ハハハ、意外と内気だもんね。私がいないとダメなんだから、みことは」
面目も立たない。
思い直せば、りんねに救われたことは意外と
そういう場を切り抜ける方法、そろそろ探し時なのやもしれない。
「さて、それじゃあ試着室の前でちょっと待っててね」
「選び終えたのか?」
「うん。……フフン、自信ありだぜぃ」
「……期待はしないでおく」
ひとまず俺はここで待つようにと言葉通り……
いや、壁に背を預けるのは拙い。服の擦れ合う音が妙にリアルで、
「…………」
さっきの二の舞を踏まぬよう、今度は待ち人ありの待機姿勢。目を
戦いに出向く前のじっとりとした緊張があるのは、果たして着替えの音が背中に響いたからであろうか。否、またもキャッチじみた店員に話しかけられるのを恐れているから、と思いたい。
「————よっと、フフン。どうかな。いい感じ?」
「……っ」
そんな思考の糸もどこ吹く風と、りんねはカーテンを開いた。
「あぁ、……うん、すげぇ似合ってる。んだけど……お前、やっぱり軽い服装になるんだな」
「へ? そうかなぁ、自覚はないけど」
「だってお前、だいたい動きやすさ重視だろ?」
「うーん……うん、確かにね」
自己分析というのは存外、難しいらしい。
「……お前らしさが出てるよ。なんというか、安心感がすごい」
「褒め慣れてないなぁ。まぁ、そこもまたみことらしい、けどね」
キャミソールじみたノースリーブに、落ち着いた色合いの
なので、目を逸らしがちに
「——これで全部完了、か?」
「うん。……うん、? あ、まだあるんだった!」
「じゃあ、それを」
「おっとと、最後の用事は
再び厚手のカーテンを
時刻は夕方五時前。門限はないが、そろそろ帰っておかねば親の心配メッセージが届くことだろう。
そこを弁えた上で、りんねはある程度の時間を申し上げた。
「……わかった。が、気ぃつけろよ、時間も時間だし、ナンパってのもあるだろうから」
「ふふふ、私には
「そりゃよかった」
心配事も
隣席ヒロイン図面構成 フー @steeleismybody
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