第18話 メイド再び



* 虐められる奥様 *



 カレメンラズ伯爵家についた。

 侯爵様のエスコートで馬車を降り、当主のライナー様と、妹さんのセーレン様からの挨拶を受ける。

 この屋敷に二泊して、それからまた北に向かうのだそうだ。

 案内された客室は……。

 ……ここ、もしかして『夫婦』用?

 えぇーっと、確かにわたし達夫婦ですけど、でも、ね!? まだね!?

 と、激しく混乱してた。

 侯爵様も、客室をしばし見た後、ぎこちない笑顔を浮かべて、わたしは休んでおくよう言って、どこかへと行ってしまった。


「侯爵夫人、失礼します。ここに居る間、わたくし達が侯爵夫人のお世話を致します。何かございましたらお声がけください」


 そうこの屋敷のメイドさんが言ってくれた。でも。


「あの、わたくしのメイドは?」

「休暇でございます」

「休暇、ですか?」

「はい。これから長旅ですから」


 そう言われたらその通りだ。


「ですので、この屋敷に滞在中は、わたくし共が侯爵夫人のお世話を行いますのでご安心ください」

「……よろしくお願いします」


 不安は残るけど、コズミックにも休みは必要なのは確かだ。

 ……今日は仕方ないとして、明日は一緒にお茶しようってコズミックに、声かけちゃダメかな。

 ……やっぱり余所様の屋敷で、わたしの専属とはいえ、メイド相手にそんな事言ったら怒られるかな?

 しょんぼりしそうなのを堪えて、わたしはソファーに座る。

 紅茶とお茶請けが用意された。

 紅茶はあの家で飲んでた紅茶と同じ味だった。

 もちろん普段は飲めない。お母様が生きてた頃とか、私へのお客様がいらっしゃった時とか、そういう時に飲む機会があったのだけど。どこの家も同じ紅茶を飲んでるんだなって思ったくらいだった。


 少し一息ついた頃、サロンでお茶をしないかというお誘いがこちらのお嬢様、セーレン様からあった。

 今日明日とお世話になるのだから、と、断るのも悪いしと顔を出すと、セーレン様だけでなく、ライナー様と侯爵様がいた。

 わたしは当然、侯爵様の隣。

 ……でも、ちょっと恥ずかしい。夫婦部屋の事を思いだしてしまった……。


「やぁカモミール夫人。イスクが、部屋を別々にしろなんて言い出しているが、カモミール夫人の意見はどうなんだい? 新婚早々、別室なんて、寂しいものだと私は思うのだけどね」


 ふぇ!? 何を言い出すの!? この人!?


「まぁ、お兄様、第一声がそれなんて、最低ではありませんこと?」

「え!? 駄目かい!?」

「駄目駄目ですわ。ごめんなさい。カモミール様。このような事はそれとなくそっと後押しすべきなのに、朴念仁の兄が大変失礼しました」


 いや、セーレン様の言葉もちょっと違う気がしますけど!?

 揶揄われているのは分かるけど、何も答えられない。ただ大人しく座ることしかできなかった。

 侯爵様が二人に、余りから揶揄わないでくれ、と言ってくれた。

 お茶が用意され、お茶菓子が用意されるけど今度は男性もいるからか、クリーム系は少ない。


「そうそうカモミール夫人には会わせたい人物がいるんだ」

「会わせたい人物ですか?」

「ライナー、待ってくれ」

「ん? なんだい? 君も早いほうが良いと思ったから、日程を早めたんだろう?」

「それはそうなんだが……」


 ライナー様の指示を受け、お屋敷の人達が、動き出す。


「カモミール夫人」

「はい、なんでしょう」

「こちらからメイドを一人出すから、君が実家から連れてきたメイド、ここで解雇してはどうかな?」

「……え?」


 言われてる意味が分からず、首を傾げる。


「もう数日したら侯爵家のメイドも追いついて来るんだろ?」

「ああ……」


 侯爵様は歯切れは悪いが頷いて、わたしを見た。


「カモミール、教えてくれないか? 君が本当はどうしたいか」

「おいおい。はっきりと言ってあげた方がこういう場合は良いと思うぞ。あのコズミックっていうメイドを解雇する、と」


 当然のように言われた言葉にわたしは言葉を失った。







* 虐めるメイド *



 カレメンラズ家に到着すると、わたしはあちらの家の者から休憩場所に案内され、こちらで休憩するように言われた。

 ……まぁ、他家の者がうろちょろするのはあまりよろしくないからね、大人しくしておきましょう。


 お茶一つ、お茶菓子一つ出てこない休憩所。

 まぁ、お茶やお菓子はともかく、水くらいは用意してくれてもいいと思うんだけど。

 そんな事を思いながら、私は適当に鼻歌を歌う。

 なにかの曲では無い。本当に適当な音を出してるだけだ。


「ご機嫌ですね」


 と、声をかけてきたのは、侯爵様の従者。


「あら、貴方が声をかけてくるなんて、珍しいわね」

「……仕方ありません。お互い、ここでは客ですから」


 私の反対側に座って彼はそう答えた。

 ところで、その返答、私の質問の答えになってるの?

 向かいに座るだけで会話を行うつもりなないのはいつもの事。

 この男にとって、私は敵なのだから仕方がないけど。

 そうやって、馬鹿馬鹿しく時間を無駄にした頃、「旦那様がお呼びです」と言われて私達二人は移動することになった。

 出向いた先はサロンで、この屋敷の当主と妹君、侯爵様とカモミール様がいた。

 ……んー? わたしの可愛い妹分が泣きそうな顔をしてるけど、どういう事かしら? と、侯爵に目を向けると彼は彼で、どこか気まずそうだ。

 ……予定外な方に話が進んだのかしら?


「君の名はコズミックだったか?」

「……はい、そうです。カレメンラズ伯爵」

「君は貴族に対し暴力を振るったそうだな?」

「いいえ、振るっておりません」

「証人がいる」

「ではその証人がウソをついているのでしょう」

「二人も居るのにか?」

「はい。そうです。その証人というのは、カヴァルーン侯爵の従者と、セレーネ様の後ろにいるメイドでしょうか?」


 私の言葉にカモミール様以外が驚いているのが分かる。


「……驚いたな。メイドの方はともかく、彼の方にも気付いていたのか?」


 侯爵の言葉にわたしは頷く。もちろん存じてましたよ。そして、彼に言いたい事は山のようにあったのだ。


「ええ、彼についてはわたくしの方としても、侯爵様に対して苦言を申しあげたかったのですが、今よろしいでしょうか?」

「ん? 私にか?」

「ええ。いくら情報を得たいからとはいえ、お嬢様のお部屋の中へと侵入させてまで、というのはどうかと思います。何度かお嬢様の着替えを覗かれそうになりました」

「な!? ウソを言うな!」


 慌てて噛みついてくるのは、従者の方。

 侯爵は予想外な事を言われたと、一瞬言葉がでなかったようだ。


「まぁ、ウソだなんて、失礼な。わたくしがいる時だけでも三回ありましたよ? お嬢様だけの時なら、貴方が黙っていればいくらでも覗き見できたのではありませんか? お嬢様の裸を確認しろと侯爵様がご命令なさったのでしょうか?」

「……いや、それは……行っていないが」


 予想外の話に持って行かれるとこの方弱いのかしら? 駄目ねぇ。もうちょっと頑張って貰わなくては。


「まぁ、では、将来自分の主の奥方になるかもしれない方の裸をしつこく覗こうとしたのですか!?」

「誤解のある言い方をするな! 話を逸らそうとしても駄目だぞ!!」


 指をびしっと突きつける従者に、私は肩を竦める。


「逸らしているのは貴方ではありませんか。まぁ、後で侯爵様にお叱りでもうけてくださいませ。お久しぶりですね、ルルーさん」

「ええ、お久しぶりですね、コズミックさん。やっと、これでお嬢様を貴方達から助ける事が出来ます」


 その言葉に私は鼻で笑う。


「まぁ、その口ぶりだと、貴方がカモミール様を助けるために、動いたように聞こえますわね」

「その通りよ。わたしがセレーネ様にお願いしたの。カモミール様を助けて欲しいって」


 呆れた。


「セレーネ様は優しくて素晴らしい方よ。わたしの話を聞いて、伯爵様や侯爵様に相談してくださったわ!」

「君がいなくなった後、カモミール夫人の世話は彼女が行う。もう少しすれば、侯爵家のメイドもやってくるだろう。君は居なくてもなんら問題無い」


 勝ち誇った顔で私を見るルルー。私はカレメンラズ伯爵に対して首肯した。


「ええ、少なくとも辞めたとは言え、家の事を他家でペラペラしゃべるメイドは信用なりませんもの。追い出すのは当然ですわ。ですがカモミール様のメイドにもそのような者は不要です」


 要らないわ。と私が返すと、ルルーはきょとんとした目を見せて、そして、従者が今更気付いた様に息を呑んでいる。

 よくよく視たら、この二人付き合ってるっぽい。なるほどなるほど。私への態度の悪さは、彼女からの評判の悪さも加味されていたのだろう。

 ……まぁ、それがなくても覗き見てた彼からすると、評判は悪いだろうね。しかし、恋は盲目というけれど、君の立場からすると、彼女の口の軽さには気付いておこうよ。

 見てみなさいよ、セレーネお嬢様は優雅に微笑んでいて、カレメンラズ伯爵は、感心したように私を見ているよ。私の言葉に驚いて居る様子はないからね?

 侯爵は苦虫をかみつぶしたような顔をしてる。きっとこちらは気付いてたのでしょうね。でも仕方が無いと侯爵領に着くまでは、と受け入れるつもりだったのだろう。


「ねぇ、ルルーさん。貴方、まさか、伯爵家令嬢のメイドから侯爵夫人のメイドに立場が変わることを栄転だとでも思っていないわよね?」

「何を言って? ……まさか、貴方、そうやって、お嬢様いえ、カモミール様をバカにする気!?」


 その言葉に眉を寄せてしまった。


「私がいつ、カモミール様を蔑む発言をしたというの? 私、貴方のそういう所、嫌いなのよね。私が言ったのは、貴方は体の良い厄介払いを行われそうになっているだけ。なのにその発言? 貴方が心の中でカモミール様の事をどう思っているか、よく分かるわ」


 ふふ。と笑えば彼女はカチンときたのだろう声を上げた。

 ふざけないで! と。いつ私がふざけたというのか。

 せめて言うのなら、「ウソよ」とか、「信じないでくださいませ」とかじゃないのと、思って理解した。

 彼女が私の言っている意味を理解仕切れてないのだ、と。

 彼女は私が冗談か嫌がらせを言っていると思っているのだ。

 相手にするだけ時間の無駄だわ~。メンド。


「さて、カモミール様。ここはカレメンラズ家。平民の裁定はカレメンラズ家当主のさじ加減でどうにでも出来ます。それこそ、わたくしの身ぐるみを剥いで、全てをさらけ出して処刑する事も可能でしょう。私を今、護っている盾はただ一つ。貴方の専属メイドという立場のみ。貴方が私を解雇すると発言すれば、あとは侯爵様達が対応なさるでしょう。どうしますか?」


 涙目になって、成り行きを見ているしか出来ないといった様子のカモミール様に、最終判断は貴方にあると伝えると彼女は勢いよく顔を上げた。

 そして、堂々と主張する。


「コズミックはわたくしのメイドです! わたくしをずっと護ってきてくれた大事なメイドです!」

「カモミール様!? 何故ですか!? 今なら彼女に仕返しが出来るのですよ!?」

「そんな事望んでないわ!」

「何故ですか!?」


 ルルーは心底理解出来ないとカモミール様を見ているので私が答える。


「貴方と私達の認識が違うからですよ、ルルーさん」

「何が違うと言うのよ!」

「それは」

「それは、二人が協力し合って周りを欺いていたから……か?」


 私が答える前に侯爵が代わりに答えてくれた。


「ええ、そうです」

「旦那様!? 何を言ってるんですか!?」

「あちらの伯爵夫人の能力は使役魔法だった。ロッジ、それはお前も見ただろう?」

「え、ええ。それは見ましたが……」

「その時、カモミールは非常に怯えていた。だから私は移動を早めたのだが……、ロッジ、お前が出発してから二人の行動は大きく変わった。あれは何故だ?」


 従者から私に視線が移ったので、最後は私に対しての質問なのだろう。


「奥様ご自身が、カモミール様がお嫁に行ったという証人になってくださいましたから。その事をカモミール様に伝えただけです」

「ま、待ってください。旦那様。彼女は自分が仕える主の顔に、笑いながら泥を塗り、自分が立ち去るまでは洗い落とすことすら許さなかったのですよ!?」

「当然です。折角の泥パックの効果が薄れるではありませんか」

「あー……。あれ、とってもお肌もちもちして、びっくりした」


 私とカモミール様の言葉に沈黙が落ちた。


「よく分からない草の煮汁を飲ませてた事もありました!」


 従者が慌てて次を探すけど、寄りにもよって、それ?


「まぁ、侯爵家の従者なのだから薬草の一つや二つ、きちんと覚えてた方が良くてよ?」

「あぁ……。アレ苦いよね。出来れば飲みたくない。お腹痛いときによく利いたけど」

「そちらではなく、熱冷ましの方ですよ」

「え!? あれ! あれはまだ見た目的にも味的にもマシな方だったよ?」

「カ、カタツムリの一種を食べさせた事もあっただろ!?」

「タニシの事ですか? それが何か? カエルだろうと、蛇だろうと、ドブ魚だろうと、それを食べなきゃ生きていけない平民は一杯いますよ?」

「コズミックの料理は見た目が悪いだけで、味は美味しいですよ。見た目が悪いというかあえて見た目を悪くしてるというか」

「当然ですよ。貴族の皆様は美しい料理こそが美味しいと思っているので」


 毒味の影響で、冷めた料理を食べる事も多いしねぇ。

 見た目だけで、判断すると勿体ない料理とか普通にあるんだから。


「他にも何かありまして? のぞき魔さん?」


 にっこりと笑いながら私は問い返した。





* 奥様は成り行きに任せる *



「のぞき魔ではない!」


 彼は真っ赤になって否定するが、実際のところ、どうなのかは分からないよね。少なくとも部屋の中に入ってこようとしたのは本当なのだし……。


「か、彼女は! カモミール様に、自分の事をコズミック様と敬称を付けて呼べと強要してました!」


 状況が思ったのと違うと焦ったのか、侯爵様の従者に変わって、昔辞めていったメイド、ルルーが慌てて口を挟む。


「ええ、それは本当ですね」

「ほら! 見てください! この悪いと思っていない態度! この女はこういうやつなんです!!」

「悪いとは思ってませんもの。敬称をつけて呼んで貰う。ただそれだけで、他の方々は納得してくださるのですから安い物ですわ。ねぇ? カモミール様」

「う、うん。そう、だね。それだけで、わたしの地位が、使用人以下になったって、みんな楽しそうに笑ってたし、良いんじゃない? 正直、お母様の事を言われるよりも全然ましだったし。こんなので満足出来るのなら、わたし的には全然構わなかったんだけど……」


 ルルーの態度にわたしは内心首を傾げる。


「お母様の事とは?」


 侯爵様に尋ねられて一瞬口を閉ざした。

 言いたくないし、言っても良いのか分からない。思わず視線をコズミックに向ける。

 コズミックは視線を受けて柔らかく微笑んだ。


「侯爵様はカモミール様の旦那様ですから。知ってもらいたいと思うのなら、お伝えしてもよろしいと思いますよ」


 その言葉にわたしは視線を他の方々に向けて、コズミックが誤解されるよりはと、口を開いた。


「わたしの母は平民です。そのため、わたしの事を罵る時に、多くの人はその事を口にして笑うんです。平民の血が流れてる卑しい存在だ、と。お母様が旦那様を誑かしたんだ、とか、恥知らずだとか、色々……。それを言われるよりは、コズミックの事をコズミック様と呼ぶだけで、奥様やエメラルダお嬢様は満足してくれたので、わたし的には、何が問題なのかわかりません」


 今までずっと黙っていた事を口にしたからか、それとも知ってもらいたいと思ったからか、ただの不満が溜まってたのか、ただ言いたかったのか。さらに言葉が流れるように出てくる。


「わたしに優しくしてくれた人はたくさんいました。そして、辞めさせられました。そしてわたしを虐める人達だけが残りました。コズミックも初めはその一人だと思いました。でも違いました。彼女はお母様の事は何も言いませんでした。ただ、わたしに令嬢として相応しくない所を治せと、笑いながら指摘するのです。そうやって彼女は奥様から出された課題をクリアしていっただけ。彼女が持ってきた食べ物が毒だったり、傷んでいた事は一度もなかった。見た目が悪いだけで美味しかったり、甘かったり、普通の食べ物でした。カレメンラズ伯爵、貴方はコズミックを処罰する事が出来ると言いました。同じように、あの屋敷では、メイド達に奥様が命じていました。その命令を守った者を罰するというのなら、そこにいるルルーもそうです」


 信じられないというように彼女はわたしを見るけど、わたしの優先順位は決まってる。


「コズミックは、奥様の命令を守りながら、わたしを護っただけです。その事で他家の方々に何かを言われる筋合いはありません」


 そうだよ、誰にも文句なんか言わせない。

 最後までわたしを護ってくれたのはコズミックだったんだから。


「……そうでしたか。これは失礼しました。どうやら、私共が間違っていたようです」


 カレメンラズ伯爵はそう謝罪してくれた。そして、侯爵を見て、「だってさ」と肩を竦めた。


「ああ、嫌な役を引き受けてくれて、ありがとう」

「いやいや、薄々気づいてたから、ここでの断罪を躊躇ったんだろ? 私がそれに気付かず行ってしまったミスだ。嫌な思いをさせてしまってすまなかったね、カモミール夫人。それから、君も」


 コズミックは軽く会釈することでその謝罪を受けとってたけど、わたしはやっぱりちょっと不満だ。

 でも、カレメンラズ伯爵はたぶんこれ以上謝らないだろう。


「……侯爵」

「何だ?」

「わたしに侯爵様との結婚を勧めたのはコズミックです。あの山脈と共にわたしを売るようにとお父様にそれとなく誘導したのもコズミックです。なので、侯爵様はコズミックに感謝してくださいね!」


 もうどうにでもなれ、とキッと侯爵を睨み付けた。

 侯爵はとっても驚いていて、コズミックに視線を送っていた。

 従者の方も驚いている。

 コズミックは、何もかも分かったような笑顔を二人に返していた。


「……それが本当だとするのなら、中々に怖いものがあるな、君は」

「お褒め頂きありがとうございます。あの飛び地の周辺領地で、一番条件が良かったのがカヴァルーン侯爵さまでしたから。北に位置するカヴァルーン領であれば、あの山を持つお嬢様を蔑ろにはしないでしょう、と」


 何か含みがあった言葉なのだろう。

 侯爵も、従者も強ばっているように見える。


「……実際のとこ、何が取れるんだい?」


 カレメンラズ伯爵の問いにコズミックはただ一言。「侯爵様にお尋ねください」と返した。

 ちなみにわたしは本当に知らない。なので、わたしを見ても何もわかりませんよ。カレメンラズ伯爵。



 






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