第9話 面会の騎士様

「……で、ここはどこなんだ?」


 目が覚めて、俺がいたのは……薄暗い部屋だった。


 周りには誰もおらず、なんというか、陰鬱な感じがする。


 おまけに目の前には鉄格子……そう。どう考えてもここは、俺のかつての職場と同じ場所……牢屋である。


 しかし、今までと異なるのは、俺が鉄格子の外ではなく、鉄格子の中にいること。


 そして、俺の格好はそれこそ……騎士様が牢屋の中で着ていたようなボロ布だった。


「……まぁ、普通に考えると、俺は……捕虜として捕まったってことか」


 つまり、ここは大国の捕虜収容のための牢屋、ということになる。


 ……というか、俺、普通に生き永らえるとは……。


 あの時、間違いなく終わりを覚悟したというのに……。


 まぁ、生き永らえることができたのなら、それに文句を言うつもりはないが。


 それにしても、騎士様はどうなったのだろうか? 救出されたのだろうけど……やはり、どうなったかは気になる。


 と、俺がそんなことを考えていた時だった。


「本当によろしいのですか?」


 遠くで扉が開く音がして、男の声が聞こえてきた。


「問題ない。話は通してある」


 ……聞き覚えのある声だった。そして、足音がこちらに近づいてくる。


「しかし……。貴方様がそんなことをする必要は……」


「私が決めたのだ。お前はもう下がって良い。件の捕虜と二人にしてくれ」


 しばらくの沈黙の後、一つの足音は遠ざかっていき、扉がまた閉まる音がした。そして、足音がこちらに近づいてくる。


 俺は鉄格子の近くに寄っていく。


 と、銀色の鎧に身を包んだ、美しい女騎士がそこに立っていた。


 暗闇の中でもわかるくらいに美しいその人に……俺は見覚えがあった。


「騎士様……」


「……フッ。随分と酷い格好だな。まぁ、私もつい最近までその格好だったわけだが」


 なるほど。ボロ布を着ていた時も綺麗だと思っていたが……やはり、高位な貴族様ということで、俺が普通に生きていたら知り合いにはならないであろうくらいの美しさだった。


「……何しにきたんです?」


 俺がそう聞くと、騎士様はニヤリと微笑む。


「もちろん、貴様を辱めに来た」


「……え?」


 思わず俺は言葉に詰まってしまった。そして、思わず騎士様のことを見てしまう。


「……な、なんだ? 今のは冗談だぞ」


「あ……あぁ。冗談だったんですか。てっきりそういうご趣味だったのかと……」


「なっ……! き、貴様……! 捕虜の身分になってもまだ私を侮辱するとは……! ……フフッ。やはり、貴様は面白いな」


 そう言って騎士様は笑う。牢屋では見たことのない屈託のない笑顔だった。


「……で、本当の目的はなんですか? 捕虜になった哀れな俺に最後にお別れを?」


 俺がそう言うと騎士様は得意げな顔で俺の事を見る。


「いや、その逆だ。貴様を迎えに来た」


「……は? 迎えに……?」


「言っただろう? 貴様が生きて帰ってきた暁には、私がこの上ない仕打ちを貴様に与える、と。そのために貴様を迎えに来たのだ」


 そう言って騎士様は俺に手にしていた鍵を見せる。


「もし、貴様が私の仕打ちを拒否するなら、捕虜として此処にいても良いが……どうする?」


 そう聞かれてしまうと……俺としては選択肢は一つだけである。思わず自然と笑みが零れた。


「……まぁ、このまま捕虜でいて、誰かわからないヤツから酷い仕打ちを受けるよりは、騎士様から仕打ちを受けたほうがマシですかね」


 俺がそう言うと騎士様は優しく微笑む。


 こうして、俺は騎士様から直々に仕打ちを受けるために、鉄格子の中から解放されたのであった。

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