第8話 解放の騎士様
俺は、目を覚ました。
……戦場に来てから、何日経ったのだろう?
土埃。大砲の轟音。怒声。金属がぶつかる音。
あらゆる音がうるさかった。俺は身体を起こす。
どこからか聞こえてくる撤退しろ、という声。ここを撤退すれば、もう後はないというのに。
最終防衛線が決壊した今、どこに撤退しろと言うのか?
もう、全てが終わった……そう思っていた時だった。
「……あ」
俺はふと、その時、声が聞こえるのを感じた。
戻ってこい、と。
俺は立ち上がった。どこにそんな力が残っていたのかわからないが、走り続けた。そして、すでに砲撃を受けている我が国の城の中へ入っていく。
城の中にもすでに敵国の兵隊が入り込んでいるようで、あちこちから煙が立ち込めている。
国王はすでに逃亡したと噂で聞いたが……それも今はどうでもいい。
俺は自分の仕事場……牢屋に向かって走った。怒声や剣がぶつかり合う音……俺はなるべくそれらを無視するようにして走り続ける。
そして……懐かしい職場……牢屋へとつながる扉にたどり着いた。
俺はゆっくりと扉を開く。そして、暗い部屋の中に入った。
牢屋の中は……静かだった。まるでそこだけ外側の戦争とは関係ない場所のようだった。
俺はゆっくりと牢屋に近づいていく。
「近付くなっ!」
牢屋の方から懐かしい声が聞こえてきた。
「私は誇り高い騎士だ! 貴様が何者かは知らないが、私はどんな辱めにも決して――」
「騎士様。俺です」
その声を聞くと、騎士様が鉄格子の方に近づいてくるのがわかる。
「貴様……。生きて帰って……!」
久しぶりに見る騎士様の瞳は、少し潤んでいた。
「あはは……まぁ、なんとかここまでは戻ってこられました」
そう言って俺は仕事場の机の上を探す。
「えっと……。あ! あった」
そう言って俺は一つの鍵を手に取り、そのまま鉄格子の鍵穴に差し込む。
牢屋の扉が開いた。
「え……。貴様、これはどういう……」
「この最後の仕事をするために……戻ってきたんですよ……」
そう言うと同時に、俺はその場に座り込んでしまった。
「お、おい! どうしたんだ!?」
「あはは……。もう一歩も動けません。実はもう……最後に食べたのがいつかわからないくらい……何も食べてないんですよ……。」
「なっ……。捕虜でさえ、毎日食事は出てきたんだぞ!」
「ははは……。戦場ってのは牢屋よりひどいんですね……」
「しっかりしろ! ここから出るぞ!」
騎士様が俺のことを泣きそうな顔で上から見ている。その綺麗な瞳から、涙が落ちてくる。
「あぁ……綺麗だな」
「え? 貴様、何を言って……」
「……こんな綺麗な光景が、最後に見る光景なら……悪くないかもな……」
俺はそのまま目を閉じてしまう。もう、体力は完全に限界だった。
「おい! 貴様! 寝るな! おい!」
騎士様の泣きそうな声がかすかに聞こえる。それと同時に扉がぶち破られるような音がした。
おそらく……敵国の兵士が牢屋に入ってきたのだろう。
まぁ、騎士様は格好を見れば捕虜だとわかるだろうし、それなりの地位の人間なら助けられるだろう。
俺は……どうなるんだろう。まぁ、仕事場で終わりを迎えられるなら、上等だ。
それに騎士様を開放するという最後の仕事も完遂した。
牢屋の見張り番としては、かなり優秀な方だったのでないだろうか。
そんなことを考えながら、俺は意識を失ったのだった。
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