第5話 初陣の騎士様

「……そういえば、騎士様」


 騎士様は目を丸くして驚いている。まぁ、俺の方から話しかけるなんて思いもしなかっただろう。


 だが、俺は少し気になったことがあったので、思わず話しかけてしまったのである。


「な、なんだ……? 私を辱める気か……!?」


「いやいや、なんでいきなりそんなことになるんですか……。全然違う話ですよ。ちょっと聞いてみたいことがあって」


「聞いてみたいこと? まぁ、面倒ではあるが……私で答えられることなら答えてやるぞ」


 騎士様がそう言ってから、俺は少し間を置いてから、先を続ける。


「戦場って、どうでした?」


 俺がそう言うと騎士様は少し怪訝そうな顔をする。それから、機嫌が悪そうに俺のことを睨む。


「……そんなことを聞いて、どうするんだ?」


「いや、単純に興味があるんですよ。俺、戦場に行ったことないので」


「お前……兵士の癖に戦場に出たことがないのか?」


「えぇ。だから、捕虜になった経験もありませんね」


 俺がそう言うと、騎士様は少し嫌そうな顔をしたが、その通りなのだから、仕方ない。


「……私だって、戦場に詳しいわけではない。なにせ、その……初陣だったのだからな」


 恥ずかしそうな表情で、騎士様はそう言った。


「え……。初陣って……。じゃあ、騎士様は最初の戦場でいきなり捕虜になっちゃったんですか?」


「わ、悪いか!? お前も私のことを間抜けだと思っているのだろう!? そんなことは散々聞き飽きた!」


 騎士様はなぜか急に怒り出してしまった。どうやら、騎士様の逆鱗に触れてしまったようである。


「……いや、別にそうは言っていません。というか、初陣だったってことに驚いているだけですから」


「……なんとでも言え。私は……どうせ騎士には向いていないんだ」


 そう言ってまたしても不貞腐れたように、体育座りで俺の方に背を向けてしまった。


 困ったな……俺から話しかけて機嫌を悪くされるのは気分が悪い。


「……いや、でも騎士様はすごいじゃないですか。戦場に言ったことがある。俺は一度も行ったことがありませんし……それに、捕虜になったとはいえ、こうして生きているわけだし」


 俺がそう言うと騎士様はちょっとだけ俺の方を見てくる。俺は思わず苦笑いする。


「……本当に、そう思っているのか?」


「えぇ。思ってますよ」


 俺がそう言うと騎士様は少し機嫌を直してくれたようで、こちらを向いて腕組みをしている。


「……確かにそうだな。それに、貴様のようなヤツは、戦場に行けば、生きて還ってこられないだろう」


「あはは……そうならないようにしたいですね」


 少し得意げな顔になった騎士様を見て俺はなぜか安心してしまったが、たしかに俺は戦場には行かないほうがいいだろうな、などと思ってしまったのであった。

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