第4話 望郷の騎士様

「……おい」


「なんですか?」


 もはや拒絶することは無駄だと俺も理解した。よって、騎士様に話しかけられたら、すぐに反応することにしたのである。


「……貴様、自分の国が好きか?」


「へ? いきなりなんですか?」


「だから……自分の国を愛しているか、と聞いているのだ」


 いきなりまた変な質問をされたものだ。まぁ、辱める気だろ!? よりは全然マシではあると思うが。


「う~ん……嫌いでも好きでもないですかね」


「なっ……! 貴様! それでもこの国の兵士なのか!?」


 にわかに騎士様はそう言って怒り出す。しかし、俺としては正直な気持ちを言っただけなのでどうしようもない。


「いや、だってね……そもそも、急に戦争とか始められて、正直、困ってますし……」


「……むぅ。それは、確かにそうかもしれないな」


「騎士様は、好きなんですか? 自分の国」


 俺がそう聞くと、騎士様は呆れた顔で俺のことを見る。


「当然だ。私は誇り高い騎士だ。国から騎士に任命されたのだ。私のことを騎士として評価している国を愛さないわけがないだろう」


「……なるほど。つまり、騎士として評価されているから、国が好きなんですね」


「……引っかかる言い方をするヤツだな。何が言いたい?」


「いや……仮にですよ。騎士様が騎士じゃなかったら……つまり、騎士として評価を受けていなかくても自分の国が好きですか?」


 俺としても意地悪な質問をしていると思った。騎士様はしばらく黙っていたが、やがて、俺の問に返答する。


「好きだ。別にそれ以外にも好きな場所があるからな」


「へぇ。例えばどこですか?」


 俺がそう言うと騎士様は恥ずかしそうな顔をする。答えにくい質問だっただろうか?


「……私が住んでいる街の外れに、花畑があるんだ。そこがとても綺麗で……私はそこが好きだ。そんな綺麗な花畑があるあの場所が……あの国が好きなのだと思う」


 騎士様の言葉に俺は思わず驚いて、硬直してしまった。


「お……おい!? なんだ、その反応は!?」


「へ? あ、あぁ……いや、随分乙女チックなことを言うんだな、と……」


「なっ……! や、やはり貴様は私のことを侮辱している! もういい!」


 そう言って騎士様は俺から顔を背けて横になってしまった。


 俺は静かになった牢獄で、一人考える。


 牢屋の中は花の一輪もない……騎士様としては寂しいと思うかもしれないな。


 ……なんて、捕虜相手に同情心を持つのは危険だ、とは思ったが、不貞腐れたように横になっている騎士様を見ると、どうしてもそう考えてしまうのであった。

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