私は貴様のどんな辱めにも、決して屈しないぞ！

第3話 価値ある騎士様

「……おい！」

　またしてもその日、騎士様に呼びつけられた。なるべく聞こえてないフリをするが……まぁ、限界があるだろうな。

「おい！　真面目な話だ！　答えろ！」

「……なんですか？」

　俺はめんどくさそうに騎士様の方に顔を向けながら、そう訊ねる。

「今、戦況はどうなっている？」

「……戦況、ですか？」

「そうだ。我が国と貴様の国、どちらが有利だ？」

　……確かに真面目な話だった。てっきりまたしても自分を辱めるのか～？　とか、聞かれると思っていたので、予想外だった。

「……さぁ？　わかりません」

「なっ……！　真面目な質問だっただろうが！？　なぜ答えない！？」

「真面目な質問だからですよ。騎士様。俺とアンタは敵同士なんですよ。そんな大事な情報、囚われているとはいえ、アンタに教えるわけがないでしょう」

「むぅ。確かに、それも、そうか……」

　騎士様もようやく気付いたらしい。

　そもそも、捕虜とここまで会話している時点で相当珍しい事例なのだ。基本的には捕虜と見張り番なんて会話しないのだから。

「しかし……私は……不安なのだ」

「は？　不安？」

　俺が聞き返すと、騎士様は今まで見たことがないような寂しそうな顔をする。

「……それなりに時間が経っているが……捕虜交換の話も、私を助けようとする話も聞こえてこない……私は国に見捨てられたのではないか、と……」

　いつもの元気さはどこへやら……ホームシックにでもなったというのだろうか。

　俺は面倒くさいとは思いつつも、かといって、捕虜のメンタルの管理も仕事のうちかなと思い、騎士様と話を続ける。

「大丈夫ですよ。アンタは人質として価値が高い。だからウチの国に温存されているだけですって」

「温存……本当か？」

「いや、だから詳しいことは言えませんし、俺は下っ端なんでよくは知りませんけど……仮にですよ。俺の国が負けそうになった時に、騎士様を返すから命だけは見逃してくれ、とかなるじゃないんですか？」

「……つまり、私にはそれだけの価値があるということか？」

　騎士様は少し嬉しそうな顔をする。

「えぇ。だって、アンタは誇り高い騎士なんでしょう？　アンタの国がアンタを見捨てるはずないじゃないですか」

「……フッ。そうだな！　貴様もたまには良いことをいうのではないか！　私のことを辱めようとしているのは問題だが、褒めてやろう！」

「……いや、だから辱めようとなんてしてないですって」

　しかし、どことなく騎士様は満足そうな顔をしていたので、俺もなぜか嬉しくなってしまった。

　ただ、仮に俺の国がピンチになった時に、本当に騎士様を返却するから命を助けてもらえるかどうか……俺としてははなはだ疑問なのであった。