第2話 拷問の騎士様
それから数日程、騎士様は大人しかった。
俺としては、このままずっと騎士様には黙っていてもらって、静かに今日という日が終わって欲しいと思っていた。
しかし、そんな願いは脆くも崩れ去った。
「おい」
騎士様がまた話しかけてきた。
俺は当たり前のように無視を決め込む。
「おい」
しかし、騎士様は諦めないようだった。
俺はわざとらしく溜息をつき、騎士様のほうに顔を向ける。
「……何ですか? 騎士様」
「いや。その、なんだ……覚悟は、できているぞ」
「……は?」
なぜか騎士様は少しモジモジとしていた。
「だから……仮に貴様がその……私に非道な真似をしようとしても、私にはその残虐な行為を受ける覚悟ができていると言っているのだ」
騎士様の発言に、思わず俺は呆然としてしまった。
反応に困ったので、俺は騎士様からゆっくりと顔を反らし返事を有耶無耶にしようとした。
「おい!」
しかし、騎士様がそれを許してくれなかった。俺はもう一度騎士様の方に顔を向ける。
「あー……なんですって?」
「だからだな……。貴様の非道な行為にも私は見事耐えて見せる、と言っているのだ」
少し得意気な顔で騎士様はそう言った。俺は何も言わず騎士様を見つめている。
「どうした? 私の覚悟に恐れを成したか? ふんっ。所詮貴様はそんな人間だ。拷問さえまともにすることができないのだろう?」
騎士様は益々増長したのか、得意気な顔でそう言った。俺は椅子から立ち上がった。
「なっ……なんだ?」
俺が立ち上がると、騎士様は少し驚いたようで、牢の奥の方に移動した。
「そ、そうか。ついに怒ったか? よ、よし……! 来るがいい! だがな、貴様の非道な行いになど私は決して屈しないからな」
騎士様は少し上ずった声ながらそう言った。傍目には俺に怯えているように見える。
立ちあがった俺はしばらく騎士様を見ていたが、やがて大きく溜息をついた。
「……な、なんだ? おい、どうした? 来ないのか?」
「あのですね……。アンタは捕虜だって言いましたよね?」
「あ、あぁ……それがどうした?」
「だから……そんなアンタに何かしようとしたり、傷付けたりしたら、俺がヤバいんですよ。だから、俺は何もしません」
俺ははっきりとそう宣言し、椅子の方に戻っていく。
「お、おい! 貴様! それでも男か!? わ、私を拷問したりしないのか?」
「……拷問なんて、するわけがないでしょうが……。してほしいんですか?」
「なっ……! そ、そんなわけないだろう!? くそっ……! 聞いていた話と違うではないか……!」
「……何か言いました?」
「何も言ってない! 私に話しかけるな!」
そう言うと騎士様はなぜか急に不機嫌になってしまったようで、そのまま不貞寝してしまった。
何がなんだかよくわからないが……とにかく、静かにしていてほしいというのが、俺の正直な気持ちなのであった。
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